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12

 

 3人に囲まれて、小さなテーブル越しに神妙な面持ちの顔を眺めている。

 やっぱりみつきは女子だよなあって思う。

 お決まりの恋愛トラブル後の女子会てやつだろ、これ。

 

 みつきは、友達の力を借りて、一体オレに何を言うつもりなんだか。彼女はバツが悪そうに目を合わせようともしなかった。

 昼前、急に聖ヶ丘の家に呼び出されて、緊急の用事だって言うから出てきてみたらこれだった。

 

「片倉くん、来てくれてありがとう」


 はじめに口を開いたのは聖ヶ丘だった。


「いいや。部活も休みだったし。で、話ってなに?」

 

 分かりきったことを白々しく訊ねてみる。どうせ別れたことを責め立てるのだろう。

 オレを呼び出したのは、みつきが言い出した事じゃないはずだ。みつきにそんな事はできない。誰かに守ってもらわないと、あいつは何も出来ないから。


 聖ヶ丘はちらとみつきの方を一瞥して、なぜだか勝ち誇った顔をした。

 

「みつきくんと、片倉くん、別れたそうね」


 ほら、やっぱり。


「それみつきが話したの?」


「違う違う。うちらが強引に聞き出したって感じ。急に呼び出して悪いね」


 関戸があぐらをかいて、おどけた表情をしてみせる。

 分かってたことだし、意地悪なことを言った自覚はあった。


「こっちこそごめん」

 

 素直に言葉が出たし、本当に思っていることだった。

 みつきにも、素直に謝りたい。そう、思っている。


「ご、ごめんね、ちひろ。本当にごめん」


 はじめてみつきが顔を上げた。泣きそうな目でオレの様子を伺うような顔をしていた。


「いや……」

 

 彼女の顔を見ていると、胸の奥を撫でられたようにざわついた。

 謝らないと。さっきの瞬間まで思っていたことが、どうしても口に出ない。

 

 聖ヶ丘はかなりの美人だ。

 立ち回りの上手い関戸のフォローがあるとは言え、聖ヶ丘が異物であれど敵ではないとみなされるのは、ぞっとするほどの美人だからこそだろう。

 その中に混じっても見劣りしないみつきの容姿と、彼女たちに守られている姿。

 それを見ると、どうしてもいらいらしてしまう。


「ちひろに言われたこと、色々考えてみたけど、どうしたらいいか、わかんないんだ」


 みつきが聖ヶ丘の隣で言った。


「どうもしなくていいよ、別に。みつきが悪いとか、そういうことじゃないんだし」


 思っていたよりそっけない声が出で、自分でびっくりした。

 わからなくて当たり前だ。


 言っていないんだから。

 嘘をついたわけじゃない。みつきがオレのことを好きじゃなくて、無理をしている。そう感じたことだって本当だ。


「うん……ごめんね」


 みつきがまたしょんぼりと顔をうつむける。

 なんでそこで黙っちゃうんだよ。ちゃんと追求して、怒ってくれよ。あんだけひどいことしたんだぞ、オレは。


「ちひろ、ジュース飲む? 外あつかったっしょ。今の時期バスケとかやばくない?」


 関戸がコップにジュース注ぎながら、軽い口調で言ってくれて、はっとなる。

 きっとオレはひどい表情をしていたはずだ。


「あ、ああ。体育館は軽く死ねるよ。まあ、なんていうか、みつき、ごめんな」

 

 ごめんの言葉は舌の上でざらついた。

 ジュースを一気に飲み干して、なんと表情を取り繕った。

 だめだ。

 みつきと一緒に居るとどんどん自分がどす黒くなっていくのを感じる。


「ううん。ちひろも無理、しないでね。こうやってまた、お話してくれるから、わたしはそれだけで嬉しい」


 みつきが笑った。夕日が差して、長い髪がとても綺麗だった。

 怒れよ。なんで許すんだよ。

 怒って嫉妬してくれよ。引き止めて泣き喚いて、何かあればオレにすぐに相談して、オレに守られてた頃に戻ってよ。

 オレだけを見ていてよ。

 オレはお前のことを、一度だって許したことなんて、ない。


「なーにいってんだよ、みつき」


 はは、と乾いた喉で答える。

 理由なんて単純だ。


 羨ましいんだ。みつきはオレが欲しいものを全部持っている。女の体も、優れた容姿も、女の友達も、みんなから愛される所作や性格も。


「いつまでもそんなこと言ってたって仕方ないじゃん。ちゃんと前を向きなって」


 言葉はブーメランもいいところで、かえって笑えた。


「片倉くん。訊きたいことがあるのだけれど」


 聖ヶ丘がみつきの肩に手をおいて、挑戦するような目を向けてくる。


「なに?」


「別れたのよね?」


「さっきも訊いたし、それ。みつきからも聞いてるんだろ」


「はっきりさせておきたくて」


「…そうだよ。別れた」


「じゃあ、みつき君を私に頂戴」

「は?」「えっ!?」みつきと声が被った。一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「ずっと考えてた。好きってなんだろうって。あなた達の話を訊いてても、全然わからない。でもね、わたしみつきくんにキスしたとき不快じゃなかったんだ。だから、みつきくんに、夏休みの間この家に住んでもらおうと思うの。きっと近くに居たら分かると思うのよ。みつきくんのこと観察したいの」


「いやいやいや! 意味わかんないし! だいたいオレに言うことじゃないし! 

 いやそれ以前に住むとか、親が無理っていうだろ。いやその前に観察ってなんだよ。ほんと、まじで意味がわからないよ聖ヶ丘!」


「大丈夫。両親は旅行に行っていないから。たぶん、あと1週間は帰ってこない。あなたも一緒にどう?」


「どうって、何いってんだよ」


 ふざけてることを疑ったけれど、そういうわけじゃなさそうだ。

 どこまでもまっすぐにオレを射すくめるような目つきをしている。


「一緒に観察しようって意味。片倉くんが嫌なら、別にいいの。一応確認しておきたかっただけだから。これからみつきくんにお願いするね」


 みつきが聖ヶ丘と二人っきりで。

 いや、いいんだ。別れたんだし、もう関係ない。

 オレが好きなのはお姉ちゃんなんだし。


 そもそも、みつきが判断することでオレがどうこう言うことじゃない。


 当のみつきはオレと聖ヶ丘をおろおろと見比べていて、何も反論しない。誰かが何かを言うのを待っている。

 もしかしたら、オレが止めるのを待っている。


 違う。

 決めてくれるのを待っているんだ。聖が丘が良いと言えばみつきも受け入れる。それで、誰かのものになる?


 嫌だ。それは、嫌だ!


「聖ヶ丘、待って」

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