第17話
「もう、ちょっとくらいイチャイチャしてもいいじゃない」
スフィーは一体何を抜かしているんだ。
俺にリビアがいることは知っているだろうに。
「おまえな。俺とリビアの関係は知っているだろ?」
「なんだったかしら?」
「……恋人だよ」
「なら、リビアを消せば……」
「本気で言っているのか?」
「冗談よ冗談。でも別に恋人がいるからってもう一人恋人を作ってはいけない理由はないでしょう?」
「いや、普通は一人の相手は一人なんだよ」
「え? 人間って面倒ね。まあ、ここは上界じゃないんだし関係ないでしょう?」
スフィーはそういうのをあまり気にしないようだ。俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。抵抗するように手を伸ばすが、彼女の体にふにゅんと手は埋まる。
魔力を込めれば突き飛ばすことはできるが、わざわざそこまでするのも面倒だった俺は小さくため息を吐いた。
そういえばリビアも、そこまで恋人を増やすことに抵抗はなかったよな。
もちろん、リビアの場合は自分を一番に見てくれるのならという話ではあったが。
そうだ。そう言った方面から攻めてみるのはどうだろうか?
「スフィー。言っておくが俺の中での一番はリビアなんだ。どれだけアプローチされてもスフィーが一番になることはないんだからな?」
だから諦めてくれよ?
そんな気持ちを込めての問いかけだったが、スフィーはにこりと微笑んだ。
「まあ、そこは仕方ないわ。今は二番目で我慢するわ」
「……」
あ、あれ……?
俺の想定では、「それなら諦めるわ」と言ってくれると思っていたのだが。
スフィーはぎゅっと俺の体に抱き着いたまま、離れない。
先程の会話でスフィーを退けられなかった以上、俺は言葉による抵抗は諦めるしかなかった。
スフィーとともに歩いていると、彼女は常に嬉しそうに微笑んでいた。
初めて出会ったときとは真逆の表情だ。
「おまえ、一体どうしてそんなに心変わりしたんだよ? 人間嫌いだったんじゃないのか?」
「人間は嫌いよ。でも、クレストは好きよ?」
「……いや、どうしてだよ?」
「だって、助けに来てくれたじゃない。私たちが絶望的な状況で、あなたは私を助けてくれたわ。強い人を好きになるのは自然なことでしょう?」
「そうか」
強さ、か。
下界の者たちは常に命に脅かされての生活を送っている。
強さに憧れを持つのは確かに、自然なことなのかもしれない。
「私、魅力ない? スライムだからダメ?」
「スライムだからっていうのは、まあそんなには関係ないな。さっきも言ったけど、リビアがいるからな」
「大丈夫よ。私、リビアよりも魅力的になって見せるわ」
「……はぁ」
そういう問題じゃないんだけどな。
スフィーの賢さが低い理由はたぶんこういった部分なのではないだろうか?
スフィーは頭のネジが数本抜けている奴だ。そもそも、スライム種なのでそういった思考回路的なものもないのかもしれない。
リーダーとして接していたときは、緊張感のあるやつだと思ったが、ひとたび親しくなった今はこんな姿なんだからな。
「そろそろ湖につくわよ」
スフィーがちらと視線をある方へと向けた。
スフィーとともにそちらへと向かって歩いていく。
湖が見えてきた。あまり大きくはない。ぐるりと一周するのにそう時間はかからないだろう。
その湖から小さな川が流れていっている。
「この湖の中に魔物がいるのよ。おびき出しましょうか?」
「そうだな」
戦ったことのない魔物ならポイントになる。
俺が期待とともにスフィーに頼むと、彼女は湖へと近づき、それから片手を湖へと伸ばしていく。
ちゃぽんとスフィーの手が水に触れる。
俺も近づいて様子を見るが、スフィーが何をしているのかは分からない。
「何をやっているんだ?」
「私の分身を変化させて、魔物の餌として誘い出しているのよ」
釣り、みたいな感じだろうか?
俺が隣で様子を窺っていると、スフィーの眉間がぴくりと揺れた。
「……来るわ、準備して」
スフィーがそういった次の瞬間だ。水中から一体の魚がとびかかってきた。
鑑定で魔物の情報が分かる。
ブレイドフィッシュ、という魔物だ。
その鼻先は鋭い刃のようなものがついていて、俺たちを見た瞬間に斬りかかってきた。
その一撃をかわしながら、ブレイドフィッシュへと剣を振りぬいた。
俺の剣はあっさりとブレイドフィッシュを両断した。
一撃だ。
「……さすがね、クレスト。前に私たちが戦ったときは結構苦戦しちゃったんだけど」
「まあ、このくらいはな」
俺は自分のガチャポイントを確認する。
200ポイントか。とりあえずガチャ十一回分は回収できるので良しとしよう。
「とりあえず、この調子でやっていこうか。まだ魔物はいるのか?」
「結構いるみたいよ」
「分かった。ここで二十五体狩っていこう」
基本的には俺が相手をしていく。
ブレイドフィッシュは次から次へと飛び掛かってきて、俺が仕留め、スライムとワーウルフたちに魔物たちの処理を行ってもらう。
「……クレスト様滅茶苦茶強い」
「やっぱり、俺たちの首領は凄いなぁ」
俺が一撃で仕留めていくのを見るごとに、みんなの羨望がどんどん集まっていく。
別に見せつけるために俺が一人で戦っているわけではない。
効率を重視した結果がこれだったわけだが、結果的に皆の羨望を集めることになったようだ。
まあ、信頼のない首領よりは信頼されている方がまだいいか。
二十五体の討伐はわりとすぐに終了し、俺は額に僅かに浮かんだ汗をぬぐった。
「お疲れ様」
スフィーがこちらにやってきて、俺の額を手で脱ぐった。
彼女の手に汗が付着すると、スフィーはそれを口元に運ぶ。
「おい」
「ふふ、おいしいわ」
「食べるな変態」
スフィーはぺろりと舌を見せた。
すると、仲間の一人がやってきた。
「今日はお弁当を用意したの。ここで少し休んでいかない?」
「……まあ、そうだな」
ちょうど昼の時間だ。
今回の目的も無事達成したので、少しくらい休憩しても文句は言われないだろう。
スフィーはスライムから受け取った弁当を持って、俺の隣に座った。




