第15話
次の日。
ひとまず、南の村に残っていた亜人たちを北の地へと移動させた。
これで、これまで使っていた拠点は一時的に放置することになってしまうが、とりあえずは、この拠点の強化が必要だと判断した。
それから、亜人たちに指示を出し、村の管理を任せていく。
建物、武器、畑、食事。この辺りが主な仕事となる。
対外戦力を気にしないで済むのなら、これだけで生活が送れるんだけど……オーガ種との抗争の可能性があるからな。
それだけでは済まない。
俺は村の東側へと向かう。そちらには、訓練場を作ってある。作る、といっても建物などを除去しただけの広い空間だ。
そこには、ゴブリン、ワーウルフ、スライムたちがいた。
その中心にいるのは、オルフェだ。
彼が、皆に剣の指導、稽古をつけている。戦力強化においては、オルフェに任せている。
俺が近づいていくと、亜人たちは剣を振るのを一度止め、頭を深く下げてくる。
彼らの邪魔にならないようにしながら、俺はオルフェへと近づいた。
「オルフェ、どうだ?」
オルフェに声をかけると、彼は持っていたタオルで汗を拭ったあと、微笑んだ。
「前よりも皆強くなっているのは確かだな。特にスライム種は、面白いな」
「そうなのか?」
「ああ。彼らは姿をある程度自由に変化できてな。例えばだ――」
オルフェが近くのワーウルフへと視線を向ける。彼とその隣にいたスライムがこくりと頷いてから、手を合わせた。
すると、次の瞬間スライムの姿が変化し、ワーウルフの服にまとわりついた。
スライムの姿は完全に服と同化した。少し、衣服が盛られてはいたのだが、見た目ではまさかスライムがいるとは分からなかった。
「このように別の種族と融合して、一緒に戦えるんだ。それに、スライムは斬撃などならある程度受け止められるからな」
オルフェが剣を向けると、スライムが「いいですよー」とのんびりした声で応えた。
スライムの声に合わせ、剣を振り下ろすとワーウルフの服に当たり、剣はぴたりと止まった。
「適当な攻撃ならこんな感じで受け止められるんだ。さながら、スライムの鎧と言った感じだな」
「……なるほどな。確かにこれは、面白いな」
「そういうわけだ。それに、攻撃だって可能だからな。少し攻撃してみてくれ」
オルフェが呼びかけると、スライムが水の弾を飛ばしてきた。小さなそれらをオルフェは見事に捌ききってみせたが、確かにこれは便利だ。
魔法を使えないものも、このようにして中距離程度までなら攻撃できるだろう。融合した者と二人がかりで攻撃すれば、相手よりも有利に立ち回れるはずだ。
俺はそれから、皆のステータスを確認する。
オルフェ自身もそうだが、前よりも随分とステータスが上がっている。
オルフェのステータスに至っては400に近いものとなっている。
だが、オーガ種を相手にするにはまだまだ厳しいな。
「これからもみんなの指導頼んだぞ」
「分かっている。……その前に、一ついいか?」
「なんだ?」
「オレにも稽古をつけてくれないか?」
にかっと笑ってオルフェが剣を抜いた。
まったく。こいつは戦いたがりだな。
とはいえ、俺も体を動かしておきたいと思っていた。
この後、スフィーと湖の調査をする予定がある。
この周辺では、南とはまた違った魔物が見られるらしいからな。
事前に準備運動をしておくのは悪いことではないだろう。
俺も剣を抜き、お互い一定の距離で離れた。
「開始の合図を出してくれ」
オルフェが近くにいたゴブリンに声をかける。
すると、ゴブリンはすぐに拳を振り上げた。
「はじめ!」
ゴブリンの掛け声にあわせ、オルフェが大地を蹴った。
彼の持つ剣は、俺が使っているものよりも少し幅広のものだ。彼の立派な体格だからこそ、使いこなせる剣である。
その剣が俺へと襲い掛かってくる。
しゃがみ、攻撃をかわす。すぐに身をひねるようにして、剣を振り上げた。
だが、オルフェもそれに食らいついていた。
反応が速い。
動き自体のキレも良くなっている。
彼との打ち合いは数十回と続いた。
その時だった。
俺の振りぬいた一撃がオルフェの剣を弾き飛ばした。
俺は少し乱れていた呼吸を整えるように息を吸う。
「終わりで、いいか?」
「ああ、そうだな。今回は勝てると思っていたんだが……おまえの一撃は重すぎるな」
「それはこっちのセリフだっての」
手がしびれそうなほどの攻撃の数々だった。
だが、オルフェも同じように手を何度か振って、しびれを払おうとしていた。
剣を拾い上げた彼がそれを鞘に戻しながら、俺の隣に並んだ。
「ありがとう。まずはおまえを超えられるくらいにはならないとな」
「俺も負けるつもりはないからな」
「ああ、分かっているさ」
にこっと笑ったオルフェはそれから村へと視線を向けた。
「村は大きく変わっていくな。やはりクレストのスキルもあって、非常に楽でいいな」
「……村、か」
遠くを見るオルフェ。
もしかしたら彼は、俺の行動に多少思うところもあったかもしれない。
「悪いな。昔の村が好きだったのなら、すべて壊すようなことをしてしまって」
「いや、別にそういうわけじゃないさ。オレたちは別に住処に強くこだわるような美しい心は持ち合わせていないさ」
俺が謝罪しようとしたが、オルフェは慌てた様子で首を振った。
それから、村全体を見回すように首を動かした。
そして、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
「オルフェ、どうした?」
「いや、な。オレがもっとしっかりしていれば、この景色の中にワーウルフももっと増えていたのかもしれないな、と思ってな」
彼の目には、以前の戦いで死んでしまったワーウルフたちが映っていたのかもしれない。
前回の戦いで、北のワーウルフの半数ほどは死んだのだ。
救えた命はもっとあったかもしれない。それは、俺も同じだった。
オルフェ一人で背負う必要はない。そんな気持ちとともに彼の肩を叩いた。
「この景色を、そして今いる仲間を失わないように強くなってくれ」
「ああ、わかっている。そしてクレストの剣として、オレはおまえの敵を切り裂けるように強くなろう」
彼の真っすぐな笑みを受け止める。
俺を信頼している者たちのためにも、俺自身がもっと強くならないとな。
これでまさか、オーガ種に何もできないなんてのは恥ずかしい話だからな。
「それじゃあオルフェ。俺は湖の調査に向かうから村は頼んだ」
「分かった。気をつけてな」
「ああ」
オルフェとそこで別れた後、村の東側で待っているはずのスフィーのもとへと向かう。
スフィーはいた。自分の全身を確かめるように何度か体を動かしている水色の液体がそこにはいた。
手には俺が造ったカバンが握られていた。何が入っているのだろうか?
「スフィー、待たせたな」
「いえ、気にしなくていいわクレスト。それでは行きましょうか」
そういって彼女は俺の腕に抱きついてきた。
スライムの体なだけあって、全身が柔らかい。けど、温度は人肌程度のものだった。
「あ、あまりくっつくなって」
「リビアは見ていないから大丈夫よ」
いや、どこからか視線感じるんだけど!
押しのけようとしても、スフィーの体は液体だ。俺が手を伸ばして押し込んでも、彼女の体に手がうもれる。
「いやん、過激ね」
「……まったく。魔物の死体を運ぶ必要がある。ゴブリン、ワーウルフ、スライムも手の空いているものはついてきてくれ」
俺がそういって、人を集めてから諦めるように歩きだした。
あとで、リビアになんて言おうか、なんて考えながら。




