第6話
村の改築はさすがに一日で完全に終わらせることはできなかった。
しかし、移住した者たちが暮らせる家だけは用意できた。
小屋のように小さい家もいくつかあったが、そこは我慢してもらうしかない。
また、建物は造ったが、あくまで外だけだ。
中身には最低限眠れるだけの布団などしか用意していない。
生活感はなく、どこか野営で張るテントのような感じはぬぐえなかったが、仕方ない。
その日は皆休みも最小限に働いていたため、夜は死んだように眠りについた。
一応、最低限の見張りを用意はしていたが、ヴァンパイアが訪れることはなかった。
次の日。
いよいよ今日が、ヴァンパイアたちが訪れることになっている日だった。
夜までまだ時間があるとはいえ、いつ相手がやってくるか分からない。
すでにどこからかヴァンパイアはこちらの様子をうかがっている可能性もある。
人間である俺が見つかればおそらくヴァンパイアに警戒されるだろうと思い、俺は部屋に引きこもっていた。
それにしても、外に出ないで過ごすなんて久しぶりだ。
昔は室内にこもっていても別に苦とは感じなかったが、この下界では娯楽がない。
上界にいたころならば読書でもして時間をつぶすことは出来たのだが。
俺は部屋から外を眺める。
外では昨日同様に村の改築を進めてもらっている。
建築術を持った魔物もいるから滞りなく進んでいる。
みんな楽しそうだなぁ……。
遠くに向けていた視線を近くの庭へと向ける。
そこにはオルフェ、リビア、スフィーの三人がいる。
オルフェに対してリビアとスフィーが演技指導を行っているところだった。
「……貴様、このオレに逆らうのか?」
ちょうど、オルフェがそんな発言をしていた。
オルフェもすっかり羞恥はなくなったようで、威圧感も増している。
かなり良い演技である。これならば、オルフェの兄としても通用するだろう。
それでも……リビアがたまに見せる演技のほうがよっぽど怖いんだがな。
「はい、その調子です。スフィーさん、どうでしたか?」
「まあ、いいんじゃないかしらね」
スフィーの上から目線の態度に、オルフェは目じりを寄せた。
「スフィー、おまえだって大してうまくはないだろう。台詞を覚えられないじゃないか」
そうだな。
スフィーはあまり賢い方ではない。あおるようなオルフェの言葉に、しかしスフィーは涼しい顔で腕を組む。
「アドリブがきく、と言ってほしいわ」
発言や態度。それらはとても理知的に映って見えるんだけどな。
「そんなもの、言い方を変えただけじゃないか」
「でも、演技自体は上手でしょう?」
「……くっ」
「ふっふっふっ」
スフィーが腕を組んでドヤっとした顔を浮かべる。
スフィーのステータスでは賢さがあまり高くない。
おかしいなぁ……まだ敵対したときはできる女王、という感じだったんだけどな?
実際中身はかなりのポンコツなのだ。
スライム種たちに聞いても、「スフィー様は普段からあんな感じです」と言っていたから、間違いないんだよな。
「二人とも、喧嘩をしないでください。演技の練習を再開しますよ」
「あ、ああ……」
オルフェとスフィーが向かい合い、話を始める。
基本的にスフィーがヴァンパイア役を務めている。もちろん、オルフェがヴェールド役だ。
そして、リビアがそれを見て、指導を行っていくという流れだ。
オルフェの前に立ったスフィーはふっと微笑を浮かべると、片手を顔の前にかざし、高笑いを浮かべる。
「くははっ! 貴様のようなワーウルフ如きがこの私に逆らうつもりかしら!?」
「スフィーさん、まったく違うセリフを言わないでください」
リビアがびしっと声を放ち、スフィーはそれでも調子良く笑っている。
まったく。俺はそれを眺めながら、部屋の状態を確認していく。
ヴァンパイアとの話し合いはこの部屋で行う予定だった。
そのため、昨日建物を作るときに隠し部屋も用意しておいた。
俺はベッドをずらし、その下の木の板を動かした。
そこは地下、というほどの場所ではないが荷物をしまえる程度の穴があった。。
俺はその板で作った蓋を外し、中へと入る。
そこに椅子を設置し、蓋を僅かにあけた状態で外の様子が見えるように整えていた。
この上にベッドを置けば、この隠し通路が見つかることはないだろう。
これで俺はこっそりと話を聞くことができるのだ。
こちらの準備は整った。
そこから出て、俺はもう一度外で演技の訓練を行っている三人を見る。
ほのぼのとしているな。
ヴァンパイアとの一件もさっさと片づけ、ずっとこんな生活が送れるように、早くなりたいものだ。




