第5話
俺の提案を受け、リビアがこくりと頷いた。
「そうですね……。ヴァンパイアたちがどれほどの数になるか、そこで少しでも把握しておきたいですね」
「そうだな。もしかしたら、ヴェールドに魔名を与えた者も分かるかもしれないしな」
魔名とは、魔物たちに名前を与えることだ。
魔物たちはそれぞれ自分たちで呼び名を持っているが、あくまでこれは呼称にしか過ぎない。
魔名を与えられると、肉体自体が強化されるらしい。
リビアやオルフェたちに俺が魔名を与えたように、ヴェールドも誰かから魔名を与えられている。
魔名を与えられるのは決して多いわけではない。
ヴェールドの裏に誰が控えていたのか。ヴァンパイアとの話し合いでそれも見つかるかもしれない。
それか、もしかしたらヴァンパイアが魔名を与えた可能性もある。
名前をつけていれば、主には逆らえない。
敵対するような行動をとれば、ヴァンパイアの裏側を見ることも出来るかもしれない。
「オルフェ様。わりと話し合いは緊張感があると思いますが、流れは大丈夫でしょうか?」
リビアの問いかけに、オルフェは頬を引きつらせる。
「わ、分かっている。任せて、くれ」
言葉を区切りながらも、オルフェの表情は険しい。
演技はあまり得意ではないだろうし、嘘をつくのも苦手な彼だ。
酷なことをお願いしているのは分かっているが、やり遂げてほしいものだ。
「オルフェ様。もっと自信を持ってください。そして、高圧的な態度をとるんです」
「そ、そうは言ってもな。そこまで得意じゃないんだ」
「では、練習しましょうか。今から高圧的な態度をとってみましょう」
「い、今か!?」
確かにそれはいいかもしれない。
俺もこくりとリビアの提案に頷いた。
「そうだな。オルフェは今日からしばらくみんなに高圧的に接するってのはどうだ?」
「それは良い案だと思いますクレスト様!」
「いやいや、待ってくれって! それはさすがに――」
「オルフェ、頼むぞ」
俺が笑いながらそう言うと、オルフェは困った様子で口を結んでからこくりと頷いた。
「……分かった。しかし、高圧的とはどんな感じにすればいいんだ?」
「そう、だな。例えば、食事をするとき。オルフェは食事を運んできてくれた人にどのように接する?」
「それはもちろんお礼を言うが――」
「それはダメだ。さっさと持ってこい! とか怒鳴るんだ」
「そ、そこまでか!?」
「それに、食事をした後はまずいと言って皿をぶちまけるとかだな」
「それはただのわがままではないですか、クレスト様?」
リビアが苦笑しながらこちらを見てくる。
しかし、オルフェは愕然としていた。どうやら、高圧的な態度をとるというのがどれほど大変なのかと痛感したらしい。
俺は、わりと身近に高圧的な人が多くいたので、やろうと思えばそれなりに出来ると思う。
とはいえ、やられて嫌だったので、他人にはしないようにしている。
「とりあえず、ヴァンパイアに対しても似たような態度をとっていけばいいはずだ。オルフェなりに考えて、工夫してみてくれ」
「わ、分かった」
オルフェがゆっくりと頷くと、リビアが両手を合わせ嬉しそうに微笑んだ。
「とりあえず、ヴァンパイアに対して使うかもしれない台詞の一つを練習しましょうか。オルフェ様、『オレたちはおまえたちと対等の関係だと思っている。下につくつもりはない』、と言ってみてください」
「……や、やるのか?」
「はい」
リビアは笑顔で言った。その笑顔には否定させない力強さがあった。
オルフェもそれを感じ取ったのだろう。諦めた様子で頷き、咳ばらいをした。
「オレたちはおまえたちと対等の関係だと思っている。下につくつもりはない」
そう言い切ったオルフェだったが、しかし完全に棒読みだった。
何か台詞でも見ながら発言しています、という感じがバリバリと出ている。
これでは、ヴァンパイアにも不信感を抱かれてしまうだろう。
リビアも同じように考えていたようで、首を横に振った。
「オルフェ様。棒読みです。それではダメです」
「そ、そうは言ってもな」
「では、私が見本を見せますので試しにやってみてください」
「み、見本だと……?」
リビアが高圧的な態度だと? そんなこと出来るのだろうか。
俺とオルフェが顔を見回せると、リビアはこほん、と咳ばらいをする。
それから、彼女の目が吊り上がった。
普段の優しい彼女とは真逆の鋭い視線に体が震えあがる。
「オレたちはおまえたちと対等の関係だと思っている。下につくつもりはない」
声に迫力があった。怒鳴り声を上げたわけでもないのに、体の芯まで冷えるような威圧的な声。
怒りと苛立ち。それらが言葉に込められているのか、言葉を聞いただけでもそれらの感情が嫌でも伝わってくる。
敵意を持っている。それがはっきりと分かる態度をとっていたリビアだったが、にこりと頬が緩んだ。
それで、ぴりついた空気が消え去った。
「どうでしたか?」
「す、凄まじいな。……そこまで出来る自信がない」
「大丈夫です、きちんと訓練すれば出来ますよ。私もできる限り教えますから」
リビアがそう言ってにこりと微笑む。
その笑顔が少し怖いと思ったのは、リビアには絶対バレないようにしないとな。




