第38話
オレは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えていた。
……森の空気が変化した。
それを察したのはクレストが出発してから一時間ほどが経ったときだった。
どうやら、異変を察知したのはオレだけではなかったようだ。
他のゴブリン、ワーウルフたちも気付いていたようで皆が村の中央に集まっていた。
「なんだか、森がやけに静かですね」
リビアがそう言って、視線を外へと向ける。
……わずかに憂いを帯びたため息は恐らくクレストがいないからだろうな。
そんなリビアを見て、ゴブリンとワーウルフがため息を漏らしている。
リビアに見とれているのだろう。彼女の容姿は、確かにそこらの魔物たちとは比較にならないほどのものだ。
だが、リビアはクレストの女である。毎日、一緒に寝ているのだからきっとそうだろう。
オレが威圧するように見とれていたものたちを睨む。
その時だった。村のほうに何かが近づいてくるのが分かった。
これは……スライムの臭いか? オレが鼻を引くつかせながら、体を起こす。
他のワーウルフたちも気付いたようだ。リビアが首を傾げる。
「どうされましたか?」
「スライム種がこちらに近づいている。何かあったのかもしれない」
「……」
リビアは考えるように顎に手をやる。それから、すぐにゴブリンとワーウルフへ向けて声をあげた。
「皆さま、すぐに出撃できるように準備を整えてください。オルフェさん、そちらに向かいましょうか」
リビアの指示に従い、武器を所持していなかった者たちが急いでとりに向かう。
オレは困惑していた。どうして出撃の準備だ?
皆から離れたところで、オレは彼女に問いかけた。
「先ほどの指示はどういうことだ?」
「これまで、スライム種がこの村を訪れたことはありません。昼には、スライム種との同盟も結んだのでしょう? 私、行かせてもらえませんでしたけど。もちろん、誰かしらが残る必要がある、というのも理解はしていましたけど」
むくーっと頬を膨らませる。……クレスト、どうやら意外と気にしているようだぞ? あとでこっそりと教えてやろう。
「ああ、そうだな」
「ですから、緊急事態なのです。これまで来ることがなかったスライム種が来ている。つまり、よっぽどの事態なのではないでしょうか?」
「……天才か」
「そんなことありませんよ。クレスト様もすぐにお気づきになります」
……彼らはオレと比べると随分と頭の回転が速い。
オレが一人こっそりと落ち込みながら歩くと、スライムが見えた。
スライムはこの村を見て僅かに驚いた様子だった。オレに気付いたスライムの頬が緩んだ。
「よ、良かった! た、頼む! すぐに来てくれないか!?」
「何があったんだ!?」
スライムに外傷らしいものは見当たらない。ただ、かなり疲弊している様子だ。
「き、北のワーウルフが攻め込んできたんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、オレはリビアを一瞥した。
「分かりました。オルフェさん、至急出撃の準備を整えてください」
「分かっている! 全員に指示を出す! そのスライムの看病はリビア、任せるぞ!」
「はい」
リビアがこくりと頷き、腰にさげていたポーチからポーションを一つ渡す。
それを横目にオレは急いで村の中央へと戻った。
〇
出撃の準備はすぐに整った。
オレは一人のワーウルフに指示を出し、クレストの捜索にも向かわせた。
ずらりと並んだゴブリンとワーウルフたちを一瞥してから、声を張りあげた。
「同盟を結んだスライムの村が襲撃された! 今すぐに、援護に向かうぞ!」
「「「おおお!!」」」
ゴブリン、ワーウルフたちが揃って声を張りあげる。
……さすがに、クレストが事前に皆に伝えていただけはある。
皆、やる気に満ち溢れている。……クレストがどれだけ皆に慕われているのか、これだけでも良くわかる。
彼についてきて良かった。オレもまた、そう思っていた。
皆とともに、村を出てスライムの村がある西へと向かう。
さすがにこれだけの人数の移動だ。いつもよりは多少時間がかかったが――戦場が見えてきた。
スライムとワーウルフたちが、入り乱れて戦っている。
辺りには血の臭いも混じっている。
「全員、行くぞ!」
「「「おお!」」」
オレが剣を振り上げ、ワーウルフたちへと向ける。
すぐにワーウルフたちが走り出し、オレもその後に続く。
「なんだ!?」
「こいつら……っ! 追放したワーウルフたちじゃねぇか!」
「な、なんだこいつらの剣は!? なんつー切れ味だ!!」
ワーウルフ達の驚きの混じった声が聞こえた。
オレも剣とともに駆け出し、近くにいたワーウルフへと斬りかかった。
「ぐっ! てめぇは弟の!」
そう叫んだワーウルフの剣を弾き、その胸を斬りさいた。
倒れたワーウルフからすぐに次のワーウルフへと向ける。
「てめぇ生きていやがったのか! ……覚悟!」
飛びかかってきたワーウルフをオレは斬り飛ばす。
その時だった。ワーウルフたちが、懐から魔石を取り出した。
「来るぞ! 気を引き締めろ!」
オレが檄を飛ばす。
ワーウルフが魔石を口に運んだ次の瞬間だった。彼の目つきが鋭くなった。
……暴走、していないのか?
ワーウルフの目には理性があった。彼はにやりと口元をゆがめると、一瞬でこちらへと迫ってきた。
……やはり、速い。だが、オレは剣で受け止めた。
「何……っ!?」
「この程度で、オレを倒せると思うなよ!」
……怒り、過去に何もできなかった無念とともに振りぬいた。
ワーウルフが倒れたその奥――スライムクイーンや他のスライムたちと対面しているワーウルフキングの姿を見た。
オレの中で怒りが爆発した。沸騰したように溢れた感情とともに、オレは大地を蹴りつけ、そちらへと飛びかかる。
オレの振りぬいた剣は、彼の剣に止められた。
ぎりぎりと力で押しあい、そして弾かれた。
オレは即座に剣を構えなおし、ワーウルフキングを睨んだ。
「久しぶりじゃないか、我が弟よ」
兄は、そういってオレに一礼をした。そして、剣を持ち直す。
彼の両目は鋭くこちらを睨みつけていた。
「……久しぶりだな。だが、ここでお別れだ」
「果たして、おまえにそれが出来るのか?」
「この命に代えてでも、おまえを倒す――!」
オレは一度咆哮をあげ、大地を蹴りつけた。
兄との距離を殺し、剣を振りぬいた。しかし、彼の剣に防がれる。
「……速いな。どうやら、かなり鍛錬を積んだようだな」
「ああ、当たり前だ。貴様に追放された無念の日々がオレを強くさせたんだ……っ!」
剣を振り上げる。彼の体がよろめき、そこに剣を振りかざしたが――次の瞬間、オレの体が吹き飛んでいた。
風だ。強烈な風がオレの体を弾いたのだ。
オレは何度かむせた後、兄を見る。
「……魔法系スキル、持っていなかったはずだが」
「手に入れたんだ。名前と共にな――」
彼はそういって、一つの魔石を取り出し、口に運ぶ。瞬間、彼の魔力が膨れ上がる。
目は鋭くなり、オレに殺意のこもった瞳を向けてくる。
「オレの名前はヴェールドだ。冥土の土産に覚えておくといい」
名前、だと?
そういった次の瞬間、兄の体が消えた。
オレの肩が背後から叩かれる。驚きとともにそちらを見ると、兄がいた。
振りぬかれた拳に、殴り飛ばされる。
「くっ!」
オレがよろよろと起き上がり、そちらに視線を向けると、スライムクイーンが片手を向けた。液体が矢のようにとび、兄へと襲うが兄は片手を向け、風魔法で吹き飛ばした。
「ハァ!!」
背後から、リビアが斬りかかる。
しかし、兄は一瞥さえもくれず、振り返り様に剣を振り下ろした。
リビアは叩きつけられ、血を吐く。
オレは痛む体に檄を飛ばし、立ち上がる。
「ハァ!!」
振りぬいた剣は兄には届かなかった。
彼の片手で握った剣に止められてしまった。
……勝てない、のか?
オレは、こいつを倒すためにこれまで努力してきたというのに――!
気づけば、形勢は逆転していた。他のワーウルフたちも魔石を飲み、肉体を強化した。
そのせいで、こちらは圧倒されている。……くそっ。
「さらばだ、弟よ」
兄が剣を振り上げ、オレの体が弾かれる。
そこに、剣が振り下ろされ――そこでリビアが割り込んだ。
「く……っ!」
「どうやら、おまえが先に死にたいのか」
兄はにやりと口角を吊り上げ、リビアの刀を弾くと、その首を掴んだ。
「うぐっ!?」
「……それにしても、いい女だな。これほど綺麗な女は中々いない。オレのものにしてやろうか」
にやりと兄が笑ったその時だった。
兄の眉間に皺が寄った。
「ぐああ!?」
「な、なんだこいつ……人間!?」
「それにこのゴブリン、なんだはやっ!?」
ゴブリアが、近くのワーウルフを殴り飛ばした。
さらに、別の場所で悲鳴があがる。
「怯むな! まだ、戦いは終わっていない! 立て、剣を握れ! 俺に続け!」
クレストだ。
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