第36話
書籍化します!
村を出て、南へと向かっていく。
ルフナの嗅覚と、俺の感知術を用いて、周囲の探知を行っていく。
……魔物はいるが、人の姿はないな。
もう少し、南に下らないとか。
さらに南、昔拠点にしていた木の近くまで行ったところで、俺は気づいた。
……火だ。
誰かが火を燃やしているようだ。ルフナも気付いたようでちらとある方へと視線を向けていた。
そちらにゆっくりと近づいていく。気配を完全に消し、物陰から拠点だった場所へと視線をやる。
……畑や俺が製作した小屋などがあるそこでは、五名ほどの人間がいた。
二人は騎士だ。残り二人は……恐らく下界の管理者だ。
下界の管理者は闇に溶け込むような服装をしている。この下界を生き抜くための服装だろう。
だが、騎士たちは普通の鎧で目立つ。
そして――その中で最も目立つ男がいた。
……リオン・ハバースト。
ハバースト家の四男にして、俺の一つ上の兄だ。
彼はパレードにでも参加するような煌びやかな鎧に身を包んでいた。
……性能は優れているのだろうか? そんな疑問とともに鑑定を使ってみたが……特に何かのスキルがついているわけではない。
もっといえば、戦闘に用いるような性能ではないだろうことが、鑑定結果から伝わってきた。
……恐らく、奴も俺の捜索に来たのだろう。
ここから、俺が奇襲でもすれば彼らを一方的に仕留めることは可能だろう。
だが……俺は別に殺しに来たわけではない。どちらかといえば、説得だな。
これ以上、ハバースト家の人間に来られても迷惑で、面倒だ。
だから、交渉だ。リオンに話をして、もう二度と来ないでくれるよう頼んで上界へと戻す。
奴らは俺がここまで来ているのに、未だ気づかず呑気に肉を喰らっていた。
……まあ、あまり感知にすぐれている人間がいないのはワーウルフから情報をもらった時点で分かっていた。
だって、ワーウルフたちが気づかれずに村まで戻ってこれていたんだからな。
俺はわざとらしく木々を揺らすようにして、そちらへと向かう。
「誰だ!?」
そこで、ようやく気付いたようだ。下界の管理者が真っ先に立ち上がり、そして騎士が遅れて剣を握った。
リオンはゆっくりと立ち上がる。……なぜか堂々としているな。
他の騎士や下界の管理者は怯えているというのに……。
少し、気になるな。俺がたき火へと近づいていくと、彼らも顔が見えたようだ。
そこでようやく、リオンが目を見開いた。
「クレストじゃないか、無事だったんだな」
「一応はな。それで、おまえもアリブレットと同じで俺を連れ戻しにでも来たのか?」
「アリブレット? なんだ、会っていたのか?」
「ああ。適当にあしらって、今はどこかでゴブリンと仲良く暮らしているかもな」
それ以降、どこで何をしているかは分からない。
俺が肩を竦めるように言うと、リオンが苦笑した。
「そうか。別に奴は必要ないさ。今の僕に必要なのはキミだ、クレスト」
「俺が?」
「ああ、そうだ。上界で神のお告げがあってね。優秀なスキルとして、ガチャ能力について触れていたんだ。世界の危機を救うための力だとね。あとはキミも良く知っている、ミシシリアン家のミヌ、リフェールド家のエリスもそうだ」
……ミヌ、か。懐かしい名前だな。
ミヌも確か、ミシシリアン家では嫌われていた。そういうこともあって、騎士学園に入れられたのだ。
俺も似たような境遇だったため、お互い仲は良かった。
「ミヌは今何をしているんだ?」
「ミシシリアン家で、それなりの立場についているよ。そして、クレスト、キミもだ」
「……神様が良いスキルだって言ったからか?」
「そうだよ。キミも今なら、当主になれる。キミが嫌っていた兄たちを見返すいい機会じゃないか」
「別に、見返すとかはどうでもいいんだよ。俺はもうのんびり暮らせればそれでな。上界は息苦しい。戻るつもりはないな」
……ミヌは上界で、それなりの立場を得られたようだな。
それは良かった。
俺の言葉に、それまで笑顔だったリオンの表情がひきつった。
「……本当に、戻るつもりはないのか?」
「ああ、ないな」
「それでも……僕たちは戻ってもらわないと困るんだよ。僕たちの家は、キミを連れ戻さないと何をされるか分からないんだ」
「そうか。それはいいことを聞いたな。なおさら、戻りたくなくなったよ」
俺の言葉に、彼の眉間が寄せられた。
「……クレスト! 貴様はこれまで育ててもらった恩を忘れたというのか!?」
「恩を感じたことはないな。それに、どうしたんだ? さっきまでの余裕が消えたようだが」
俺がそういうと、リオンは腰から剣を抜いた。それに合わせ、騎士、下界の管理者たちも同じく剣を抜く。
「……おまえたち。予定通り、馬鹿の四肢をへし折り、奴隷の首輪をつけて連れて帰るぞ!」
「……了解しました、リオン様」
騎士たちがニヤニヤと笑みを浮かべ、剣を握る。
……彼らは俺を明らかに見下していた。
「クレスト様。昔、剣の稽古をつけたことがありましたね」
「……かもしれないな」
たまに騎士たちに遊ばれたことはあった。
リオンの命令で、騎士が俺に稽古をつけたんだ。稽古、なんていうのは優しい表現だ。
実際はただ、何もできなかった俺をいたぶった。
そして、リオンはそんな俺をみて楽しそうに笑っていた。
「あなたは騎士になれませんでした。その程度の実力です。大人しく投降したほうがいいですよ」
「騎士になれなかったんじゃない。そこの男に邪魔されたんだ」
……俺は騎士として十分な実力だった。
だって、騎士学園での成績は常に俺がトップだったのだ。
なのに、誰かの妨害を受け、騎士の道を閉ざされた。
何も知らない父や兄からは、落ちこぼれだといわれたものだ。
だが、それだってリオンが手回ししたという話だ。
リオンはにやり、と口元をゆがめた。
「あの時のお前の絶望した顔は面白かったな」
くすくす、とリオンが笑う。そして、剣をこちらへと向けた。
「やれ、おまえたち!」
騎士がリオンの声に合わせ、こちらへと飛びかかってきた。




