閑話:リオン・ハバースト
「アリブレットはどうした!? なぜ戻ってこない!」
家族で集まり、僕たちは会議を行っていた。
四男の僕は、空席となった次男の席を見てほくそ笑む。
……ライバルが一人減って助かった。そう思っていた。
これで、僕が家を引き継げる可能性が僅かにだが、出てきた。
あとは長男と三男。この二人さえ消えてくれればいい。
そんなことを考えていると、三男が冷や汗を流しながら手紙を読み上げた。
「……げ、下界で魔物に襲われた可能性が高い、と。騎士たちの死体を発見したと下界の管理者から手紙が届きました」
三男の読み上げた手紙に、父はいらだったように声をあげた。
「ふざけるなよ! 大事なアリブレットはどうしたんだ!」
「死体は……見つからないそうです。もしかしたら、魔物に連れていかれた可能性も……」
「ああ! なぜだ! なぜ神は我が家に対してこんな仕打ちをするんだ! これもすべて……、あの忌み子のせいだ!」
父は残り少ない髪をかきむしり、血走った目で叫んだ。
……父に同意だ。
本当に僕の弟は無能だ。
なぜ、『ガチャ』能力を手に入れたとき、もっと強く僕たちに言わなかったのだろうか?
強く申し出ていれば、今頃は我が家も安泰となっていただろうに――。
まったく先を見る力がない馬鹿な弟だ。
騎士学園にいたときからそうなのだ。奴は、僕に恥をかかせたことがある。
弟というのは兄を敬い、たてなければならない。
なのに、奴は僕が決闘で指名した際、この僕に勝利しやがった。
気遣いができないというか、なんというか。
皆の表情が憔悴しているのを確認する。
……そろそろ、いいだろうか。僕にはある秘策があった。
「お父様。僕があのバカを連れ戻しましょうか?」
「……で、できるのか? だが……優秀な騎士たちも多くが死んでしまったのだぞ?」
「騎士に頼りすぎるのも良くありません。下界と上界は勝手が違いますから。騎士とともに、下界を良く知る下界の管理者を連れていくべきでしょう。兄は……どうやら下界の管理者を連れて行かなかったようですから」
手紙にもそう書かれていた。皆が驚いたようにこちらを見る。
「……な、なるほど! そこに気づくとは天才か!?」
「……ええ。ですから、連れ戻した暁にはそれなりの立場をご用意していただけると嬉しいのですが」
僕がそういうと、長男のグエルがびくり、と肩をあげた。
横目にこちらを見てくる。少し鋭い。
……僕は笑顔を返しながらも、内心では精一杯の罵倒の言葉を浴びせている。
これで、僕が連れ戻せば、兄に勝つことができる。
貴族の世界で、兄弟というのは立場が固定されている。普通であれば、弟が家を継ぐようなことはできない。
だから、暗殺などの事件が発生するのだ。
「ですが、父上。アリブレットのこともあります。ここでリオンに向かわせるのは、危険ではありませんか?」
がそういって僕の妨害をしようとする。
……まあ、グエルからすれば自分の立場を脅かされるのだ。正直にそうはもちろん言えないのだろうけど。
父はとたんに不安そうにこちらを見る。
「だ、大丈夫なのか?」
「ええ。僕には秘策があります。ここ最近の僕の戦闘能力の向上は、皆さんも良く知っているでしょう?」
「あ、ああ……確かにな。まさか、おまえにあれほどの力が眠っていたとは思いもしなかったな」
「ええ、ですから、お任せください。必ずあのバカを連れ戻しましょう」
まだ父は不安そうだった。
この父は基本的に無能だが、家族を愛する気持ちだけは強い。
特に、母を失ってからはそれが過剰なほどになった。
母を殺したクレストは、もちろん家族ではない。
「……頼んだぞ、リオン」
それでも父は僕に出撃の許可を出してくれた。
「はい、任せてください」
僕はそう返事をしてから、会議室を出た。
廊下に出て、部屋へと向かう途中グエルがやってきた。
「……てめぇ、まさかオレ様を跡継ぎから引きずり降ろそうとはしてないよな?」
「どうでしょうか? それは、僕ではなくクレストが決めるのではないですか?」
「もしも、オレ様をないがしろにするようなことがあれば、ただじゃすまさねぇからな!」
グエルはそう叫び、威嚇するように睨んでから部屋へと向かう。
僕はその背中を見て、笑みを浮かべる。
たまらない優越感があった。
あのグエルが、僕にビビッている。
そう考えただけで、僕の体がぞくぞくと表現できない快感が襲う。
その後、部屋へと戻った僕はそれから一人のメイドを呼びつけた。
最近、僕がメイドとして雇った女だ。
容姿はとても優れている。だが……この女は人間ではない。
本来、人間以外の種族はすべて下界送りにするものだ。だが、僕は――彼女を利用するために、メイドという立場で雇ったのだ。
「お呼びでしょうか、リオン様」
「ああ、呼んだぞ。僕がさっさと呼んだらすぐに来い、この愚図」
僕が怒鳴りつけるようにいうと、彼女はすっと頭を下げた。
同時、彼女は発動していた変身を解除する。
その頭には狐の耳が、メイド服のスカートの裾からは狐の尻尾が現れた。
彼女は妖狐と呼ばれる種族らしい。まあ、所詮は魔物の親戚みたいなものだ。
彼女は、魔道具などの製作が得意なようで、優秀な僕はそこに目をつけた。
……こっそりと彼女に様々なものを作らせ、それで僕の力とすればいい。
その結果が、ここ数日の僕の実力があがった本当の理由だった。
「僕は明日にも家を出発し、クレストの捜索へ向かうつもりだ」
「クレスト、とは確か……あなたの弟様、でしたか? 面白いスキルを持っているという」
「そうだ。奴を連れ戻し、奴隷の首輪を嵌める。そうすれば、クレストは僕の言いなりだからな」
ちらと、僕は妖狐の手首へと向ける。
彼女の手首にも奴隷の腕輪がついている。彼女は僕の奴隷だからだ。
「……なるほど、それで強力な奴隷の首輪を作ってほしいということでしたのね」
「ああ。もちろん、用意できてるんだろうな?」
「はい。それと、より強力な魔石の製作も行っておきました」
「本当か?」
にやりと、笑う。
彼女が作る魔石は、飲み込むことで一時的に肉体の強化が可能になる。
僕はその力もあって、今かなり強くなれている。
完璧だ。
ミシシリアン、リフェールド家は今も上界に現れた魔物の対応でクレスト捜索に人員を割けていない状況だ。
そして僕には、強力な手駒がいる。
……すべて、流れが僕へと来ている。
「これで……僕がこの家の当主になれるんだ!」
「それは素晴らしいですね」
「貴様への用事はもう済んだ。さっさとどこかにいけ」
「分かりました。魔石の効果、思う存分体験してみてくださいね」
にこりと、唇を歪めた彼女を部屋から追い出した。




