第34話
次の日の朝。
俺たちはスライムの村へと向かい、移動を開始した。
……メンバーは俺とオルフェ、それにゴブリアの三人だ。
リビアは村に置いてきた。
……万が一、俺たちの村が襲われた場合に指示を出せる者が必要だったからだ。
初めはオルフェにそれを任せようと思っていた。スライム族はワーウルフを嫌っているからだ。
だが、オルフェがどうしても来たいと言ったため、ついてきてもらった。
やがて、俺たちはスライムたちの村にたどり着いた。
見張りのスライムが俺たちに気づき、木から滑るようにおりてきた。
「どうしたんだ、人間?」
「ワーウルフたちのことで共有したい情報がある。誰でもいい、スライムクイーンの耳に届けられる者と面会したい」
俺がそういうと、別のスライムが村の奥へと向かう。
「少し確認してくる。少々待たれよ」
「……ああ、わかった」
俺たちは村の入り口でしばらく待つ。
少ししてから、奥からスライムがやってきた。
スライム同士で話をして、それから彼らは道を譲るように移動した。
「スライムクイーン様がお会いするそうだ。無礼のないようにな」
「ああ、わかっている。ありがとう」
感謝を伝え、俺たちは村を移動していく。
以前訪れたスライムクイーンがいる木へと向かう。
すでにスライムクイーンはそこで待っていた。俺は一礼の後、彼女の前に立った。
彼女は一度オルフェを見てから、ちらと俺を見てきた。
「共有したい情報とは何かしら?」
「まず、確認なのだが……北のワーウルフが魔石を食べて肉体を強化した、というのを見たことはあるか?」
「……ないわね」
「そうか」
俺は持ってきた小石をスライムクイーンに見せた。
「昨日俺たちは森で北のワーウルフと交戦し、倒した。彼らはこのくらいのサイズの魔石を取り出して、口に運んだんだ」
「……そうしたら、肉体が強化された、と?」
「ああ。それまでは俺たちが一方的に優勢だったにも関わらず、魔石を口にしただけで俺たちと同等に戦えるようになったんだ」
「……なるほど。情報提供は感謝するわ。話はそれだけかしら?」
「改めて、同盟を申し込みたいと思ってきたんだ」
俺の言葉に、スライムクイーンは微笑を浮かべる。
「私たちは、ワーウルフたちの攻撃なんて効かないわ。奇襲さえ受けなければ、私たちは物理攻撃に対して絶対の耐久があるわ」
「奴らが魔道具を使用してもか?」
「……どういうことかしら?」
「先ほど話した魔石の製造は、ワーウルフたちが行っているわけじゃないんだ。その後ろについている、ヴァンパイア種が行っている可能性が高い」
スライムクイーンの眉間にしわが寄る。……彼女の体は液体でできているのだが、その変化は人間と変わらないものだった。
「それは、本当なの?」
「もちろん、100パーセント確実だとは言い切れない。だが、ヴァンパイア種を見たことがあるというワーウルフもいた。奴らが南の地を制圧するために、何者かの力を借りている可能性は十分考えられる」
「……」
スライムクイーンが腕を組み、真剣な様子で考えていた。
「……けれど、あなたたちの村にはそこのワーウルフを筆頭に、多くのワーウルフがいる。あなたたちと仲間になれば、ワーウルフたちに殺された仲間たちへ顔向けができない」
「それで、村が全滅してもか? 決して、スライム種を見くびっているわけじゃない。おそらく、戦力的には北のワーウルフたちと互角くらいなんだろう。だが、奴らが身体強化をし、他の魔道具までも持ち出して来たらそれはどうなる?」
「……」
スライムクイーンの表情は険しかった。スライムクイーンを中心に、スライムたちが話をしていた。
彼らの表情には焦りの色が見える。
……特にもっとも状況を危険視しているのはスライムクイーンだろう。
大量の仲間がいる以上、危険な可能性がある戦場には連れていけないはずだ。
俺がちらとオルフェを見たとき、彼はすっと一歩前に出た。
「スライムクイーンよ。オレからも頼みたい。同盟を結んではくれないだろうか?」
「……それをワーウルフのあなたが言うの?」
「ワーウルフ、だからこそだ」
彼はそう言ってから、周囲へと視線を向ける。
集まっていたスライム種たちに向けて、オルフェは叫んだ。
「みんな聞いてくれ! オレは北のワーウルフ、おまえたちの仲間たちを卑劣な手で襲ったワーウルフキングの双子の弟だ!」
そう叫ぶと、オルフェへの注目が一気に集まった。
オルフェはその視線に構わずに続ける。
「あの村は、本来オレが引き継ぐことになっていた。だが、それを妬んだ我が兄が、オレを村から追放したのだ! ……だからオレは、もと首領として伝えたい。……ワーウルフたちが、これ以上誰かを殺すのを見たくはないんだ。オレがこの戦にケジメをつけてみせる!」
オルフェは拳を握りしめ、皆に向けてそう叫んだ。
……スライムたちがちらちらと、仲間を見てそしてスライムクイーンへと視線を向けた。
オルフェがちらとスライムクイーンを見てから、もう一度言った。
「……だから、我が首領と同盟を結んでほしい。二つの戦力が合わされば、必ず北のワーウルフたちを退けられる!」
「……」
スライムクイーンの視線が俺へと向いた。
俺は一歩踏み込んで、彼女の方に手を差し出した。
「ワーウルフを憎む気持ちはあると思っている。だが、すべてのワーウルフが敵じゃない。これ以上、避けられる死を防ぐことが、今は大事なんじゃないか?」
「……」
俺の手を……ぎゅっとスライムクイーンが掴んできた。
「そうね。……はっきりいって、不明瞭な敵と戦いきれるほど、うちも戦力に余裕があるわけではないわ。あなたと、同盟を結ぶわ」
「……ありがとう。俺たちは、どちらかが北のワーウルフの襲われた際には、必ず助けに向かう。それでいいな?」
「ええ、そうね」
俺とスライムクイーンは改めて手を握りなおし、それから周囲へと視線を向けた。
スライム種たちに見せつけるように握っていた手を上へとあげた。




