第31話
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ワーウルフは白目で牙をむき出しに、唾液をだらだらとたらしながらとびかかってくる。
振りぬかれた剣にあわせ、剣を合わせる。
その力の向きを変えるように横へと流した瞬間、ワーウルフは剣を捨て、噛みついてきた。
マジかよ……っ。
完全に獣と化した攻撃だ。鋭い牙に剣を当て、眼前まで迫ったワーウルフを押さえる。
「……臭いんだ、よ!」
声を荒らげながら、蹴り返す。
吹き飛んだワーウルフを追いかけ、その足を切り裂く。
ワーウルフはそれでも両腕で地面を叩きつけ、飛んできた。
――なんて執念だ。
鋭く伸びた爪が俺の眼前へと迫る。俺は即座に身をかがめ、攻撃をかわす。頭上を通過しようとしたワーウルフに、回るように剣を振りあげ、切り裂いた。
……ワーウルフは血をだらだらと流し、それでようやく動かなくなった。
ちらと、オルフェとリビアを見る。二人も苦戦はしているようだったが、ちょうど二体を倒したところだった。
息はあるようだ。
足は切り裂き、ポーションで治療でもしなければ動けないだろう。
それでも、まだ意識のあったワーウルフたちは唸り、声を響かせる。
……下手な魔物よりも、野生にあふれている。
一体、何がどうなっているんだ?
「……さっきの魔石が原因なのは分かるが、これではまるで魔物じゃないか」
理性を戻させる方法もわからない。
鑑定を使っても、ワーウルフの体内までは把握できない。
あの魔石を使う瞬間を見ることができれば、分かったかもしれないのだが。
「そう、ですね。……ワーウルフたちが皆あの魔石を使用できるのなら、非常に危険ですね」
実際に交戦した俺たちがそれはよくわかっている。
仮に、北のワーウルフたちの数が同じであれば、あの魔石を使われた時点で俺たちが一気に不利になる。
……スライム族と同盟を結べなかった、とか言っている場合ではない。
「……オルフェ。あの魔石について、何も分からないか?」
「……ああ、すまない」
「いや、謝る必要はない。分からないのなら、あれを使われても戦えるように立ち回るしかない」
それとも、スライム族はあの魔石について知っているのか? とにかく、もう一度話をするべきだな。
「どうするんだ?」
「スライム族の村に行き、あの魔石についての話をする。それで、」
俺はまだわめいていたワーウルフをちらと見る。
……彼らには知性があった。だから、殺したくはなかった。
だが――放置していればどうなるか分からない。
それに、この傷だらけの状態で放置していたとしても、ただ悪戯に痛みを長引かせるだけだろう。
俺は腰に戻した剣の柄へと手を伸ばす。
「……殺したほうが、いいか?」
「……だと、思いますね。クレスト様が難しいのであれば、私が――」
「いや、ここはオレにやらせてくれ。こうなったのはすべてオレの責任だ」
……俺は唇をぎゅっと噛んだ。
それを他者に任せるつもりはない。
「いや、俺がやる」
俺は柄を一度強く握りしめ、それから剣を抜いた。
一瞬で三人の首を落とし、俺は小さく息を吐く。
……魔物を殺すとのはまた別だ。
先ほどまで話をしていたこともあり、俺は彼らを人間だと認識してしまっていた。
「クレスト様、そう気にする必要はありません」
「いや、気にさせてくれ。俺はただの人殺しになりたくない」
殺すことにためらいを持たなくなれば、完全に狂ってしまうだろう。
俺は死体をちらと見て、ワーウルフが持っていた一本のぼろい剣を持ち上げ、村に向けて歩き出す。
「村へと急いで戻り、全員に状況の共有を行う」
「はい、わかりましたクレスト様」
「ああ、急ごう」
二人が俺の後ろへとついてきた。
「……とりあえず、逃がさなくてよかったな。あのままでは、オレたちの正体が敵に知れ渡っていただろうしな」
オルフェの言うことも一理はある。ただ、どっちにしろ時間の問題だ。
「そうだな。ただ、拠点の位置はおおよそはバレることになっただろう」
「……どういうことだ?」
「北のワーウルフたちの正確な目的は分からないが、オルフェたちワーウルフの村がある場所をおおよそ理解していたようだからな。そして、わざと怪我をしたワーウルフを逃がした。……つまり、この辺りに派遣したワーウルフが戻ってこないとなれば、この辺りに強者がいるという判断になるだろう?」
「……そうかっ! つまり、逆算的にオレたちの位置が分かってしまうのか!」
「そういうことだ。あとは相手がどれだけの判断をするかだ。この辺りに、ワーウルフがいるのを確定として軍を動かすのか……それとも、先にスライム族へと攻め込むのか……」
相手がどれほどの情報を持っているかが分からない。
スライム族がどこにいるかを分かっていないのなら、先にこちらへと攻め込んでくるだろう。
ただ、何が起きても対応できるように準備をしておく必要がある。
俺は一度息を吐いて言葉を区切る。
「とにかく、急いで村に戻ろう。村に戻り、みんなにこの魔石の情報を共有する」
「……ですが、これほどの戦力差があるとなれば、皆に恐怖が伝染してしまうのではないでしょうか?」
「ああそうだな。だから、これを持ってきたんだ」
俺が先ほど拾った剣を傾けると、リビアは不思議そうに首を傾げた。
……村に戻る道中、オルフェの表情は終始険しかった。
本人は、出来る限り落ち着けるようにしたのだろう。けれど、それでも彼の感情は抑えきれていなかった。
まあ……北のワーウルフに関して一番責任を感じているのはオルフェだろうからな。
そんなに彼が背負う必要はないのだがな。




