第30話
村での訓練を行っていた時だった。
村の門付近が騒がしくなり、俺は一度訓練を中断した。
そちらへと視線を向ける。ワーウルフの一体が肩を貸してもらいながら、こちらへとやってきていた。
見ればそのワーウルフとゴブリンたちは……狩りが得意なメンバーだ。
まさかそれが怪我をして戻ってくるなんて思ってもいなかった。
「大丈夫か!? 何があった!」
真っ先に駆け付けたワーウルフが声を荒らげる。
俺はワーウルフの傷を見て、思わず眉根を寄せる。
……何かしらの武器で傷つけられたように見える。
剣、あるいはそれに近い刃物だ。
「お、オルフェ……さん……ここから西に行ったところ……オレたちの村があった場所に、ワーウルフたちが、いたんだ」
彼は声を絞り出しながらいう。
俺は用意したポーションを彼に渡しながら、別のワーウルフへと視線を向ける。
彼らは慌てた様子で、声をあげた。
「……北のワーウルフたちがいたんだよ。数は三体だ……そんでまあ、オレたちも恨みはあったけど、さすがに手を出したらクレストさんたちにも迷惑がかかると思って逃げようとしたんだ。けど、気づかれちまってな」
「……それで、負傷したのか? けど、よく逃げられたな」
オルフェが腕を組み、眉間を寄せる。
いや、逃げきれたんじゃないだろうな。
ここまで一人を追い込めるだけの力があったのだ。
何の理由もなく、見逃すとは思えない。
「オルフェ、リビア、すぐに西門に向かうぞ」
「……ど、どうしたクレスト?」
まだ困惑した様子のオルフェが俺についてくる。
「奴らはわざと彼らを逃がしたんだろう。俺たちのアジトを突き止めるためにな」
「……まさか!」
驚いた様子で声をあげ、オルフェがすぐに鼻を引くつかせる。
俺も感知術を発動すると、外に三つの反応があった。
……魔物に近いが、魔物ではない反応。間違いない、北のワーウルフたちだ。
即座に動き出し、門から外へと抜ける。
敵のワーウルフたちも気づいたようで、すぐに北へと走り出す。
……速度はそれほど早くはない。時間をかければ追いつけるだろう。
「……よく、気づきましたねクレスト様」
「感知術のおかげだ。慎重に追うぞ」
これが罠でないことを確認しながら、進んでいく。……もしも周囲にほかの魔物の反応があれば引き返す。
そんなつもりで追いかけていると、ぴたりとワーウルフたちが立ち止まった。
俺たち三人はワーウルフと対面する。屈強な肉体を持つ三体の魔物たちだ。
「おう、落ちこぼれのキングではないか」
にやにや、とワーウルフたちが口元をゆがめる。
ぴくりとオルフェが反応する。しかし、リビアが片手を向けると、オルフェも小さく頷いて深呼吸をした。
俺が一歩前にでて、ワーウルフたちに声をかける。
「……おまえたちは北のワーウルフだな」
「ああ、そうだ。それがどうした人間」
「落ちこぼれのキングは、人間のペットにでもなったのか?」
「それは滑稽だな」
ワーウルフたちが侮辱するように笑うが、オルフェは何も言わずに腕を組んでいた。
……思っていた以上に冷静だな。
「俺はおまえたちと争うつもりはない。同盟を結べるのなら、同盟を結ばないか?」
……無理に敵対するつもりはない。
ワーウルフやオルフェたちは思うところはあるだろうが、それでも穏便に済むのならこれが一番だろう。
オルフェも黙ってワーウルフたちを見ている。
俺の言葉に、ワーウルフはぷっと笑った。
「人間が首領を務めるようなチームに、オレたちが加わると思うか?」
「ふざけたことをぬかすなよ」
ワーウルフが笑みを浮かべた次の瞬間だった。
彼が大地を蹴り、こちらへと迫ってきた。
――速い。
俺の想定以上の速度だった。ワーウルフの振り下ろされた剣を、俺は寸前でかわす。
同時に剣を抜く。ほか二体のワーウルフたちも斬りかかってくる。
だが、こちらも一人じゃない。
リビアとオルフェに任せ、俺は目の前に集中した。
振りぬかれた剣をかわす。反撃に剣を振り上げると、すでにワーウルフはかわしていた。
しかし、その顔には焦りが張り付いていた。
俺がさらに剣を振りぬくと、ワーウルフはかわしきれなかったようだ。足を軽く切りつけ、ワーウルフが痛みを抑えるような声とともに大きく背後へと跳ぶ。
ちらと視線を向けると、リビア、オルフェもまたワーウルフを圧倒していた。
「……何が、どうなっていやがる!? オレたちは強くなっているはずなのに!」
困惑した様子でワーウルフが叫んだ。
俺は一歩踏み込み、彼らにもう一度問いかけた。
「……同盟を組むつもりはないんだな?」
「……当たり前だ! オレたちは、おまえをぶっ殺して……首領への手土産にするんだよ!!」
そういった次の瞬間だった。
彼らは一つの石を取りだした。
……魔石、か? 彼らはその魔石を口へと放り込み、飲み込んだ。
「な、なんだこれ――」
「ぐ……アアア!?」
ワーウルフたちは悲鳴にも似た声をあげる。まるで、自分の体に起きる現象を理解していないかのようだった。
彼らの言葉は聞き取れないものへと変わり、その体が脈動する。
次の瞬間、彼らから力があふれでた。
筋肉がはちきれんばかりに膨れ上がっている。
こちらを見据える両目に、理性の色はない。
「……オルフェ、一体なにがどうなっている? あの魔石はなんだ?」
「……いや、オレも見たことはない。奴ら、一体何を――」
オルフェも知らないということは、ワーウルフ族が持つ秘術などではないということか。
「ガアア!」
完全に魔物と化したワーウルフたちが、こちらへと迫ってきた。
……先ほどよりも速い。
俺は斬りかかってきたワーウルフの剣を受け止めた。
……確実に重くなっている。
何度か剣で打ち合う。……まだ、俺は対応できる程度の力差だ。
だが、あまり時間をかけるのは得策ではないな。
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パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件 ~虐げられていた少年は無自覚のまま最強の探知魔法を使いこなし、最高のサポーターとして成り上がる~
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