第18話
スライム、か。
まさかこんなところで遭遇することになるとは思っていなかった。
とりあえず、必死にポイズンスネークから逃げているようだし、助けたほうがいいだろう。
「クレスト、名前を与えてもらったこの体の全力……少し試してみたい。任せてもらってもいいか?」
「ああ、いいぞ」
俺が答えると、リビアも腰に差していた武器を抜いた。
……オルフェは剣であり、リビアは刀だ。……まさか、ここで刀を見るとは思わなかった。あれは東方の技術が使われているため、上界でも……少なくとも俺が暮らしている地域では中々見かけなかったからだ。
どちらも俺が鍛冶術で強化してある。その試し切りもしてみたい、といったところだろう。
「それでは、私も戦わせてくださいオルフェ。私も試してみたかったので」
「そうだな。これからは共闘することも多いしな。それでは、足を引っ張るなよゴブリンの女王よ」
「それは私の台詞ですよ、ワーウルフの王」
二人は似たような言い方をしてから、大地を蹴った。
……速いな。
「ルフナよりも速いかもな……」
「……ガルル」
負けてないし、とばかりにルフナが吠えた。
……悪い悪い。
ゴブリアは呆然とした様子でそちらを見ていた。
まずはオルフェだ。
「ふんっ!」
叫ぶと同時、力強い一撃がポイズンスネークを襲った。
ポイズンスネークの尻尾から先を両断してみせた。
ポイズンスネークも黙って攻撃を受けているばかりではない、反撃とばかりに噛みついたが、すでにそこにオルフェはいない。
そして、その攻撃はあまりにも短絡的だった。
リビアに背中を見せているのだから。
リビアは小さく息を吐いてから、腰に差していた刀を僅かに抜いた。
それは一瞬だった。リビアがポイズンスネークを通過するように、抜刀していた。
……居合い、と呼ばれる技だろう。
ポイズンスネークの身体が切り裂かれ、血が吹きだし、死んだ。
俺はポイズンスネークの体を解体し、素材を回収しておく。
……このポイズンスネークの牙はきちんと扱わないとな。
チユチユ草を混ぜずにポーションと組み合わせると、毒ポーションが出来上がってしまう。
扱いは慎重にならないとな。
「……軽いし、力がでる。前とは比べ物にならないな」
「……私もです。以前は、ポイズンスネークに苦戦しましたが……もう、負ける気がしませんね」
「それに、この剣もだ。これまでは斬るというよりは殴る、といったほうが多かったが……クレストに強化してもらってからはまるで違う」
「……はい。私の刀もですね。クレスト様、本当に素晴らしいです」
二人が絶賛してこちらを見てきた。
……そこまで言ってくれるのならありがたい。
スライムは呆然と背後を見ていたが、やがてこちらに気づいた。
びくり、と肩を跳ねさせるようにしたスライムが逃げようとしたが、俺はそちらに慌てて声をかけた。
「待ってくれ。俺たちはおまえを襲うつもりはない。ただ、ちょっと話をしたいんだ!」
「は、話ですか?」
「ああ。俺たちはここから南に村を持っているんだ。……そして、色々と話が聞きたくてな」
俺の言葉に、スライムはじっとこちらを見てくる。
「……助けてくれましたし、信じます、あなたの言葉」
「……ありがとう」
「それで、聞きたいというのはどのような話でしょうか?」
「……この辺りで暮らしているのか? 一人、なのか?」
「……一人、ではありません。村で生活をしています」
村、か。
この辺りにスライムの村があるというのはやはり正しいようだ。
「そうか……北には恐ろしいワーウルフたちがいるとも聞いている。……できれば、同盟を結びたいんだ。……村の管理者と話をすることは可能か?」
「……ワーウルフ、そちらにいる者もワーウルフではないですか……っ」
スライムはきっと、オルフェを睨んだ。
オルフェは困った様子で頬をかいていたが、スライムの表情には怒りが見えた。
「……何か、あったのか?」
「……同盟を申し出てきた北のワーウルフたちは、私たちを騙したのです! 私たちに、奴隷になるか、ここで死ぬか……そういって拒否した多くのスライムが命を失いました!」
……そんなことになっていたのか。
俺は驚き、オルフェは拳をぎゅっと固めたあと、スライムに近づき、深く頭をさげた。
「すべてはオレの責任だ。すまない」
「……オルフェ。スライム、彼に非はない。それも含めて、すべてを話したい……スライムの代表者が村にいるというのなら、案内してくれないか? 俺たちは何もしない。……武器を所持しているのが怖いというのなら、預かってくれても構わない」
俺は剣をスライムの前に置いた。
俺に倣うように、リビア、オルフェ、ゴブリアも武器を置いた。
……スライムは考えるようにこちらを見てから、こくりと首を縦に振った。
「わかりました。村までは案内します。武器も持っていて構いません」
「……ありがとう」
俺たちはスライムとともにその背中を追っていく。
「……クレスト、すまない。オレのせいで、スライムたちに嫌われてしまった」
「おまえの責任じゃない」
「だが――」
「これからどうにかすればいい。過去のことばかり考えていても仕方ない……。未来のこと、これからのこと……それを考えよう」
「……ああ、ありがとうクレスト」
俺が言うと、オルフェは唇をぎゅっと噛んでから、深く頭を下げた。
次に顔をあげた彼は決意に満ちた顔をしていた。
やはり、トップに立つ彼は違うな。
これなら、これから先も任せていけるな。




