第17話
次の日。
……なんだかんだ、眠れたな。
俺の身体にぎゅっと抱き着いたままのリビアをまずはゆする。
「リビア、ほら起きてくれ」
「……ん? あっ、おはようございます……」
目をこすりながら、俺から離れるリビア。
嬉しそうな笑顔である。
「……ありがとうございます、クレスト様。だいぶ体の奥から湧き上がる感情が抑えられました!」
「そうか、それならよかった」
添い寝するだけで性欲が抑えられるんだな。
「またこれからも……たまにお願いするかもしれませんが……良いですか?」
「……ああ」
別に俺に悪影響はないしな……。これで緊張して寝られないとかだったら問題だったが、そういうことも特になかった。
リビアとともに家を出る。
村内ではすでに皆が活動を始めていた。
といっても、主にやっていることは魔物たちが訓練を行っているという感じだ。
俺が外に出ると、ゴブリアとルフナも付き添ってくる。
ワーウルフと剣の訓練をしていたオルフェが、俺に気づくとすっと頭を下げてきた。
「おはよう、クレスト」
「おはよう」
「今日は何をするんだ?」
「……新しい魔物を探そうと思っている。それと、まだポイズンスネークを25体倒していないからその討伐だな」
「……なるほど。それなら、北側の調査を行うということだな?」
「ああ」
俺がそう答えると、ワーウルフたちが少し表情を険しくする。
……何かあるのだろうか?
「どうかしたのか?」
俺が問いかけると、オルフェも気づいたようだ。苦笑してから、片手を腰に当てる。
「北をずっと進んだところに、オレたちがいたワーウルフの村があるからな。あまり行き過ぎると奴らに気づかれる危険がある、というくらいだな」
「……なるほどな」
北側はワーウルフの村、か。
俺もゴブリンたちに出会わずにそのまま北を目指していたら、初めての魔物の遭遇はワーウルフの村だったかもしれない。
……受け入れられたのだろうか、とかそんなことを考えていた。
「それなら、あまり北に行き過ぎないようにしようかな。ポイズンスネークがいる周辺の調査にとどめようと思う」
「そうだな。といっても、そこまで神経質にならなくてもいいはずだ。ワーウルフの村はそこからさらに北へ行くと、別の魔物の村があるからな。そっちとの関係に過敏になっていて、あまり南の調査は行っていないはずだ。だからこそ、オレたちは南側に逃げてきたんだからな」
……なるほどな。
こう考えると、下界というのは魔物たちによる勢力争いが盛んにおこなわれているのだな。
その部分だけを取り上げると、まるで貴族の権力争いのようだ。
……まあ、下界の戦いはまさに力こそ正義なので、わかりやすい。
貴族の場合、裏での策略などがひしめいているからな……。
「それじゃあ俺は行ってくるよ」
「オレも共に行こう。北側なら、オレもそこそこに詳しいからな」
「わかった」
村はダクルトに任せ、俺は四体を引き連れて村の北側へと出た。
……この村、門とか柵とかないからな。
もう少し、防衛力を高めておいたほうがいいかもしれないな。
夜間も、魔物が勝手に入り込んでくることがあるようだしな。
ルフナの鼻と、俺の感知術を使いながら、ポイズンスネークを探していく。
「オルフェ、北には他に村はないのか?」
……同盟を結び、より強固にしておきたいという気持ちもあるからな。
ワーウルフたちに襲われる可能性もあるし、さらにその北……。これからどうなるか分からないため、仲間を増やしたかった。
「……村、か。確かあったが……交流はなかったから、あまり分からないな。スライム族がいたような気がするが……」
「……スライム、か。それもある程度の知能があるのか?」
「前に一度だけ、親父に会いに来たスライムの女王がいたのは知っている。その時はしっかりと話していたな」
「……なるほどなぁ。上界で暮らしていた俺には知らないことばかりだな」
「それはどちらもそうだろう? 上界の暮らしはどうなんだ?」
「……そうだな」
上界での生活について、彼らに話していく。
……貴族の面倒なこととか、嫌な部分はあまり触れずにな。
「……そうか。魔物がまったくいない世界……まずそこがオレたちからすれば驚きだな」
「そうですね。けど、クレスト様は下界にきて、その部分で逆に驚いているんですもんね。面白いですね」
……そうだな。
その時だった。ルフナが小さく吠えた。
「……ルフナ、おっ」
ルフナが吠えたあと、お座りして前足で地面を示した。
そこには、巨大な体を引きずった跡のようなものが残っていた。
「たぶん、ポイズンスネークだな。……ああ、そうだ。この爬虫類特有の臭いはそうに違いない」
オルフェが地面をじっと見て、鼻を近づける。
……なるほどな。ワーウルフも鼻が利くようだ。
「ありがとな、ルフナ」
ルフナの体を抱きしめるようにして、顎の下を撫でる。ルフナは頭を撫でられるより、顎下を撫でられるほうが好きなようだ。
嬉しそうに体を摺り寄せてくる。
その時だった。ポイズンスネークだろうか? 俺の感知術に、魔物の反応があった。
「みんな、あっちに魔物がいるみたいだ。行くぞ」
呼びかけてから、そちらへと向かう。
……ん?
一度俺が足を止めると、オルフェが首を傾げた。
「どうしたクレスト」
「……いや、なんか別の反応もあるんだよな」
「……別の反応? 魔物同士で争っているのか?」
「いや……」
争っているというよりも、一方的に逃げているというのが正しい。
「誰かが襲われて、逃げているという感じにも見えるな」
「とりあえず、見にいってみるしかないだろう。よっぽどの相手でなければ、オレたちならば問題ないだろう」
……そうだな。
今ここにいる俺たちはあの村での最高戦力だ。
俺たちでどうしようもなければ、運が悪かった。そう思うしかない。
そちらへと近づくと、ちょうど向こうもこちらにやってきた。
そして、木々を薙ぎ倒すようにしてやってきたポイズンスネーク。
その前では……人型をした水の生物が、必死に逃げていた。
「スライムだ」
オルフェの言葉に、俺は驚いていた。




