閑話:アリブレット・ハバースト2
トンネルを抜けた先は、険しい森だった。
……門からちらと見たのだが、やはり鬱蒼と茂っていて様子はまったくうかがうことができなかった。
ここから、クレストを見つけ出すというのは途方もないことのように思えるが、こっちだって馬鹿じゃない。
「探知スキルを使う者は常に使っておけ。魔物でも何でも、反応があればすぐに報告しろ」
「分かりました」
探知スキル持ちの騎士は五人連れてきた。
彼らに探知を任せながら、オレたちは森を移動していく。
それから一時間ほど歩いたが、なかなか騎士たちから有益な報告はなかった。
それどころか、魔物に襲われることもない。
下界というのは、拍子抜けするほど危険も何もない場所だった。
「なんだ、これは。つまらないな」
クレストが見つからないのはもちろん、もっと魔物どもが襲ってくると思っていた。
奴らを殺し、その成果とともに上界に帰還しようと考えていたのだ。
何より、下界の管理者たちの失礼にもオレを心配するような態度が気に食わなかったので、それを見返すため、大量に魔物を殺してやろうと思っていた。
気に食わない、ストレスが蓄積していく。
半日ほど探知スキルを使用しながら移動していると、一人が声をあげた。
「アリブレット様。……皆の魔力がつきてきました。今日はこのあたりで野営にしたほうが良いのでは?」
「なに? まだ何の痕跡もつかめていないんだ。それに陽はまだ出ている。陽が沈むまではこのまま進むぞ」
「で、ですが……」
「おまえたちは精鋭の騎士だぞ? まさか、下界の管理者のように怯えているわけではないだろうな?」
オレがあおるようにいうと、騎士たちは少しだけむっとしたようだ。
それから、歩みを再開する。
……やはりオレは人を使うのがうまい。自分の手腕にほれぼれとする。
どう考えても、オレが家を継ぐのにふさわしい。
……あんな無能な長男が家を継ぐなんて認められない。
必ずクレストを連れ戻し、オレがあの家のトップに立つ……っ!
そう思っていたときだった。
「ゴブ!!」
木々の上からゴブリンが降ってきた。
……まさか!?
驚きながら騎士が剣を握る。だが、ゴブリンが振りぬいた一撃が騎士の頭を殴り飛ばした。
その威力に目を見開く。こじんまりとした子どものようなゴブリンの一撃に、大人である騎士があっさりと吹き飛ばされた。
「ぜ、全員剣をとれ! ゴブリンはたかが一体だ! 囲んできりかか――」
何も焦る必要はない。そう思いながら指示を飛ばしたオレだったが、別の場所から悲鳴があがる。
ゴブリンたちだ。数は五体。
騎士の何名かが奇襲によって動揺していたため、反応に遅れる。
「おいおまえら! 騎士の癖に、ゴブリンの奇襲にも気づけないのか! 背後だ、背後を取られているぞ!」
オレが怒鳴りつけ、スキルを準備する。
オレが与えられたのは魔法系スキル、火魔法だ。レベルはなんと5!
トップクラスの才能を持つオレが用意した魔法は、普段から練習していたファイアキャノンという魔法だ。
片手を向け、飛びかかってきたゴブリンへとファイアキャノンを放った。
まっすぐに飛んだファイアキャノンがゴブリンの顔面に当たり、吹き飛ばし、焼いた。
「は、ハハ! どうした、その程度か! いでぇ!?」
オレが笑っていると、別のゴブリンが石を投げてきた。
顔面に当たり、耐えきれないほどの痛みにその場でもだえる。
「こ、こいつら! 奇襲に、投石に……っ! 卑怯者どもめがァァ!!」
オレは剣を抜き、飛びかかってきたゴブリンへと振りぬく。
しかし、攻撃は当たらない。彼らが持っていた棒で殴り飛ばされる。
うぐ……い、いだい。いだいよぉ……。
それから意識を失いかけたオレは、がっと、腕を掴まれはっと目をあけた。
「大丈夫ですか……!?」
周囲を見ると……戦闘は終わっていた。
……悲惨な状況だった。
たかがゴブリン五体相手に、騎士のほぼ全員が負傷していた。
「重傷者は……何人いる?」
「ご、五名です……」
「なら、無事なのは十五人だな」
「ぶ、無事といっても……皆負傷しています。い、一度引き返しましょう! 態勢を立て直してから再び――」
「黙れ!」
オレは持っていた剣を騎士へと突き付ける。
「今ここで帰還してみろ! 下界の管理者どもに馬鹿にされるぞ!? あんな犯罪者集団にだ! いいのか、おまえたちは!?」
「……で、ですが……それならこの怪我人はどうするんですか!?」
「……ふん。ここに置いていく。帰りまでに生きていたら回収してやろう」
「そ、そんな! お、オレはあんたにはついていけない!」
「黙れ!!」
オレは歯向かってきた騎士の首元に剣を突きさした。
それまで騒がしかった彼は、嘘のように静かになった。
それどころではない。騎士たちは皆、オレに怯えたような目を向けてきた。
……快感だった。全員がオレに忠誠を誓っている、そう錯覚するほどにな。
「ここのリーダーは誰だ? 従わないのなら、こうなるだけだぞ?」
オレはそういってから周囲を見る。
騎士たちはおびえた様子で立ち上がり、荷物をまとめる。
そう、それでいいんだ。
オレも服についた汚れを払いながら、さらに奥へと歩いていった。
〇
それからさらに進んだオレたちが――人の痕跡を見つけた。
誰かの足跡だ。それは紛れもなく、人間のもの。もっといえば、クレストの足のサイズにかなり近かった。
オレは振り返り、五人にまで減った騎士たちへと声を張り上げる。
「おまえたち! この足跡を追うぞ!」




