第44話
がむしゃらに剣を振り続けた俺は、最後の一閃を振り下ろした。
傷だらけのレイブハルトは、ふらりと倒れ、俺はその体へと剣を向けた。
「クレスト……!」
エリスの声が耳に届いた。同時に、柔らかな光が全身を包み、俺の左腕は再生していた。
無茶ができたのは、エリスの回復魔法があったのもある。
万全の状態へと回復した俺は、それからレイブハルトへと視線を落とした。
次の瞬間だった。
「く、はははは!」
高笑いともとれるその大きな笑いに
「これが、痛みか! 死が近づいていることを自覚する! これが、これが戦いか!」
「……レイブハルト、おまえは何を目的に――」
こんなことをしたんだ?
その問いかけは、しかしかき消される。
「最高の戦いだった。楽しかったぞ、クレスト」
そういって、レイブハルトは大きく微笑むと、残っていた刀で自身喉へと突き刺した。
「お、おい……っ」
まだ聞きたいことはあったというのに、レイブハルトは俺が止める間もなく、自害した。
なんて、勝手な奴なのだろうか。
疑問はまだ残っていたが、俺は助け出したリビアへと視線を向ける。
「リビア、無事か?」
「はい……ここまで無理やり連れてこられましたが、それ以外は特には」
良かった。
彼女の首輪を破壊しながら、俺は改めて周囲へと視線をやる。
すっかり静寂に包まれた理由は簡単だ。
「れ、レイブハルト様が……負けた」
「そ、そんな……! 次元穴がなくなっちまったよ!」
慌てた様子で逃げ出すレイブハルトに従っていた亜人と人間たち。
これまでレイブハルトを頼りにしてきた彼らからすれば、リーダーを失った絶望は凄まじいだろう。
そこに、つけこまないはずがない。
「奴らを捉えろ!」
人間側からの号令が響き、視線を向ける。
そこには、少し大人びたミヌの姿があった。
ミヌの宣言と、レイブハルトの軍の動揺が手伝い、一気に戦況はこちらに有利となった。
……こうなれば、もう俺たちが何かをする必要はないだろう。
統率者を失った彼らはすでに抵抗の意思を失ったようで、逃げ出すものたちばかりだ。
逃げきれないと判断した者たちは、その場で無抵抗になり、捕らえられていく。
レイブハルトが死んだからか、周囲に見えていた次元穴のすべても塞がっていた。
残っていた魔物たちも仕留め終わり、戦いは上界の勝利として幕を閉じた。
『エピローグ』
俺たちが王都にてレイブハルトたちと戦ってから一週間が経過した。
俺は未だ上界に残っていた。
そして今日、俺は謁見の間にて王の前に案内されていた。
この場にいるのは俺だけではなく、エリスやミヌ、それに彼らの父親たちの姿もあった。
他にも、国内で力のある貴族の家たちも多くいた。
そんな場に、特に臆することなくいられるのはこれまでの経験があったからかもしれない。
「クレストよ。顔を上げよ」
王の声に合わせ、俺は顔を上げた。
王と目が合うと彼は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
上界で発生していた次元穴も治まり、魔物による被害はなくなった。
王としては、これほど喜ばしい状況はないだろう。
俺が何かを口にするより先に、王は言葉をつづけた。
「クレストよ、お前が上界に戻ってきてくれたこと、私はとても嬉しく思っている」
王の言葉に俺は色々と思う部分はあったが、今は口にしなかった。
「それで、改めてになるがハバースト家の領主として」
「それに関しては……一つだけお願いがあります」
「なんだ? そなたはこの国の英雄だ。可能な限りの対応はしよう」
俺からの申し出に、王は嬉しそうに答える。
さて、受け入れられるかどうか。
俺はそんなことを考えながら言葉を続ける。
「俺がこの上界に残る理由は……亜人たちの立場を守るためです」
「…………亜人の?」
俺の言葉に、王と周囲にいた貴族たちから動揺の声が漏れてきた。
何を言っているんだ、といった雰囲気の中、俺は言葉を続ける。
「はい。今回の問題に関しても、亜人たちを不当に扱ってきたからに他なりません。今すぐにすべてを改善できるとは思っていませんが、最終的には人間と亜人が共存して生きていけるようにしなければ……また似たような問題が起きると思います」
「……それは、確かにそうだが」
「だから、俺にハバースト家の引継ぎと同時に、亜人に関しての一定の権限を与えてほしいと考えています。……まずは自分の領内で、亜人を引き受けていきたいと考えています」
今回の一件で、亜人に対しての評価はさらに悪化した可能性は高い。
だが、そもそもが先ほど言ったように亜人に対して不当な態度を取り続けてきたのが問題が。
俺だって、そこまで関わる理由はない。
でも、どうにかできる可能性があるのなら、放っておきたくもなかった。
それが、俺が上界へと残る条件だった。
貴族や王の動揺が雰囲気から伝わってくる中で、エリスが口を開いた。
「王。横から失礼します」
そう言ってから、彼女が言葉をつづけた。
「クレストの言う通り、これまでのように扱っていては必ずまた似たような事件が起こります。下界にも、まだまだ亜人が潜んでいますし、下界にも精通しているクレストにこの件を任せるというのは、今後の国の安定を保つためにも必要だと思います」
「……確かに、それはそうだな。……すべての亜人がどうにかできるわけではもない、か」
王はそう呟くように言ってから、玉座から立ち上がる。
そして、俺のもとへとやってきて、口を開いた。
「分かった。亜人に関しては、クレストに任せよう。皆も、それでよいな?」
王の問いかけに、反論をする者はいなかった。
……良かった。
どうにか、立場を得ることができたようだ。
ハバースト家の当主になった俺は、ひとまず元の屋敷へと戻ってきた。
久しぶりの実家に、懐かしいという気持ちはあったが、それだけだった。
すでに、ハバースト家はボロボロの状態だからな……。
父や兄たちは今も病院にて治療を受けているそうだ。死んではいないが、いつ死んでもおかしくない状況だそうだ。
……まあ、それはどうでもい。
ハバースト家の屋敷へと戻ってきた俺は、下界から合流したすべての亜人たちのリーダーを集め、俺が上界に残る理由についてを伝えた。
そして、深く頭を下げた。
「すまない。皆とともに下界で過ごすと話していたのに、こんな結末になって。……皆はこれからも自由に下界で――」
過ごしてほしい、と言いかけたところでリビアが声を上げた。
「私は、上界に残ります」
「……リビア?」
「駄目、でしょうか? 亜人と人間の共存のためにこれから頑張るクレスト様を……支えたいです」
「駄目、じゃないが……」
「それではよろしくお願いしますね」
リビアの言葉はとても嬉しいことだった。
彼女に続くようにして、他の人たちも口を開いていった。
「オレも残るぞクレスト」
「私も。クレストの妻としてね」
オルフェとスフィーも続いてそう言ってくれた。
彼らの言葉に、俺は頬が緩むのを感じていると、さらに別の亜人たちも声を上げる。
「我も残るんじゃよ。上界にもヴァンパイア種はいるじゃろうしの」
「オレも。まだクレストにすべての恩を返せたわけじゃ、ない」
「私も……残っちゃダメ?」
ヴァンニャやゴルガ、カトリナも同じようにそう言ってくれた。
……正直、不安ではあった。
これから一人で亜人と人間の共存のために戦っていくのは。
しかし、彼女らがいれば、これからもどうにかできるはずだ。
「いや、駄目なんかじゃない。……ありがとな、みんな」
下界に追放されてから今日まで。
必死に生きてきた俺にはこれだけたくさんの大切な仲間たちがいる。
下界での戦いは終わった。
でも、ここからが始まりなのかもしれない。
上界にいるすべての亜人たちを守るために、俺はここからまた戦わないといけない。
でも、彼らとならどうにかできるかもしれない。
そう素直に思うことができた。
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