第43話
「クレスト。どうやらちょうど交戦中のようだ」
オルフェとともに外の様子を伺っていると、そんな声が聞こえてきた。
彼が言うように、戦場は酷い状況だった。
人間と亜人のぶつかり合い、といえば聞こえは良いが……明らかに、レイブハルトたちの軍のほうが優勢だった。
レイブハルトたちは、下界のときよりも数を増やしていた。
恐らく、上界にて亜人たちを仲間に引きこんだのだろう。
「……横から仕掛けるしかないな」
「分かった。では、このまま進もう」
「ああ」
「クレスト。おまえはレイブハルトとの戦いだけを考えていてくれ。オレが敵の注目を集める。道中の雑魚は任せろ」
「……ああ。頼んだ」
レイブハルトと全力でぶつかり合うために、余力を残す必要がある。
さらに少し進んだところで、さすがにレイブハルトの軍もこちらに気付いたようだ。
直接ぶつかり合うわけではなく、その直前で馬車を止め、俺たちは外へと出た。
そして、すぐオルフェとともに俺の仲間たちが駆けだした。
「うおお!」
オルフェが正面を切って亜人へと斬りかかる。
彼の能力は、そこらの亜人では比較にならない強さだ。
彼に注目が集まっていき、オルフェを止めようと亜人たちが動く。
オルフェ一人では隙もあったが、それを庇うようにスフィーが援護していた。
……彼らならば、大丈夫だ。
俺はちらとエリスへと視線をやる。
「エリス、人間のほうは任せていいか?」
「ええ、分かりましたわ。クレストも、無茶をしないでくださいまし」
エリスはそういって俺に補助魔法をかけ、未だ困惑気味の人間側の軍へと向かう。
恐ろしいほどに軽くなった体を自覚した俺も、動き出す。
俺は俺のやるべきことをしないとだな。
幸い、オルフェに亜人たちの注目が集まっている。
俺はレイブハルトへと視線を向ける。
彼の近くでは、奴隷の首輪をつけられたリビアもいる。
……外傷は特にないが、酷く元気のない顔をしている。
そんなリビアの様子を見ていると、怒りが湧き上がる。
よくも、彼女にそんな顔をさせたな。
アサシンを発動し、戦場の合間を縫うようにして駆け抜ける。
一気に片づける。そんな思いとともに、レイブハルトへと迫る。
だが、レイブハルトの視線は、こちらへと向き、腰に差していた刀を振りぬき、俺の一閃を受けとめた。
アサシンは、やはり見切られているか。
「クレスト、だな」
レイブハルトの喜色交じりの声。
まるで、戦いそのものを楽しむかのような彼へ、俺は鋭い視線を返す。
彼の刀に弾かれた俺は、改めてレイブハルトと向き合った。
「あのとき、敵対するつもりはないと言っていたが」
「上界を狙うだけなら、何もするつもりはない。ただ、大切な人を奪われたのなら話は別だ」
俺は捕らえられたままのリビアへと視線を向ける。
リビアは驚いたようにこちらを見ていた。
連れさられたときとは特に変わった様子はない。
ひとまず、外見での傷は特にないようだ。
「面白い。ちょうど退屈していたところでな。おまえの相手をしてやろうか」
にやりと笑みを浮かべたレイブハルトが地面を蹴った。
速い。
だが、俺は即座に暗黒騎士を発動し、彼の刀を受け止める。
「……あのときとは違うぞ!」
声を張り上げ、剣を振りぬいた。
そして、レイブハルトへと迫る。
彼は片手をぐっと引き、それからこちらに魔法を放った。
黒い玉だ。周囲を薙ぎ払っていたものと似たように見えるが、魔法の質が少し違う。
次の瞬間、そこから黒の線が伸びてきた。
横に跳んでかわす。
まるで、矢でも射出されたかのような威力だ。
「面白い!」
俺は攻撃をかいくぐり、影術を発動する。
それらを雨のように降り注ぎ、レイブハルトが横へと転がった瞬間へ剣を振りぬいた。
一閃が、レイブハルトの頬を掠める。
彼の頬から血が流れると、レイブハルトは俺から距離を取る。
それから、頬に手を当て、その血を確認し、その口角を吊り上げた。
「面白い! 面白いぞ、クレスト!」
「……」
そう叫んだ瞬間、レイブハルトから放たれる迫力がさらに増した。
強烈な魔力が、肌をピリピリと焼く。
なんという強さだ。
その迫力に、俺は顔を顰め、次の瞬間。レイブハルトが眼前へと姿を見せた。
振り下ろされた長剣に、寸前で対応が間に合う。
重い一撃だ。
腕がへし折れそうなほどの一撃に、顔がこわばる。
まだ、強くなるのか……!
レイブハルトは、明らかに先ほどよりも力を入れている。
さっきまででもかなり厳しかったというのに
レイブハルトの一撃をはじき、俺はポケットに入れていた強化魔石を取り出し、口へと運ぶ。
沸き上がる力を制御し、俺は剣を振りぬいた。
エリスの補助魔法、暗黒騎士、そして強化魔石。
これが、俺の今持てる限界の力だ。
「ハッ。ハハハ! クレストォ! まだまだ戦いはこれからだぞ!」
レイブハルトの喜びに震えるような声に、俺は顔を顰める。
足りない。
まだ、あと一歩足りない……っ。
だからといって、あきらめるというのか?
そんなわけにはいかない!
俺は地面を蹴りつけ、レイブハルトの一撃へと踏み込む。
その一撃が左肩へと当たり、
「うおおおお!」
振りぬいた剣が、レイブハルトの右腕へと当たり、衝撃とともに弾きあげる。
俺がそれほどの無謀な一撃を放つとは予想もしていなかったようで、レイブハルトへと痛手となるであろう一撃を放つことに成功した。
足りない分の力は、自身を犠牲に。
俺はそこから一気に斬りかかる。
右手に持った剣で、レイブハルトの胸を切り裂く。
よろめいた彼の体を、さらに殴りつけるように剣を振りぬく。
レイブハルトに反撃の隙は与えない。
これ以上の好機は二度とない。ここで一気に仕留めきる!
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