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第42話


 そろそろ、魔法部隊の攻撃が届く頃だろう。

 私がそう思って指示を出そうとした瞬間だった。

 フードの男が片手を振り上げた。

 何か来る。

 異様な魔力を感じ取った私は、兵士たちが固まっているほうへと視線を向け、目を見開く。

「じ、次元穴だ!」

 兵士たちが悲鳴のように叫び、すぐにそちらから距離を取る。

 兵士が叫んだように、そちらには空間の歪み、次元穴が出現していた。

 次元穴からは魔物が出現してきて、これまでに何度も苦しめられた存在だった。

 それがまさかこのタイミングで……っ。

 運が悪い、と思ったのは一瞬。すぐに先ほどのフードの男の行動を思い出す。

 ……まさか、次元穴を自在に操れるの?

 だとすれば、私が想定していたよりも敵はずっと強大なのかもしれない。

 この考えを、私は口には出さずぐっと飲みこんだ。

 もしも本当に次元穴を操れるということを兵士たちが知れば、今以上に士気を下げる要因になりえるからだ。

 次元穴から魔物が出現したのに合わせ、亜人たちの進軍する速度も上がった。

 魔物の唸り声と、亜人たちの雄たけびが耳に届く。

 私は即座に声を張り上げた。

「うろたえないで! 次元穴の魔物には近くにいる兵士たちで対応して! すぐに魔法部隊は亜人たちへ攻撃を――!」

 そこまでの指示を出した次の瞬間だった。

 亜人たちから黒い球が放たれた。

 それを放ったのが誰かは分からなかったけど、次の瞬間……まるで魔力が爆発したかのような強烈な衝撃が周囲を揺らした。

 爆風にはじかれた私は、すぐに全身に魔力を込めて体勢を整える。

 砂煙の中、亜人たちの雄たけびと兵士たちの悲鳴が入り混じっているのが聞こえた。

 周囲を晴らすように風魔法を放つと、すでに戦闘が開始されていた。

 ……連携なんてものは何もない。ただただ理不尽におのれの力を見せつけるかのような攻撃が繰り出されている。

 兵士たちは……ダメだ。

 まともに戦うことはできていない。

 武器を、そしておのれの立場を放棄するように逃げ出す兵士たち。

 完全にひるんでしまっている。

 誰がどうみても、先ほどの交戦で人間側に不利なのは明白だ。

「はあああ!」

 私は声を張り上げ、剣を振りぬいた。

 近くにいた魔物を切り飛ばし、その勢いのまま亜人へと剣を振りぬく。

 リザードマンだろうか。

 彼の腕を斬り飛ばし、その体を蹴り飛ばす。

「てめぇ! よくも!」

 別のリザードマンが飛びかかってきたが、それも退ける。

「ひるむな! 私が道を切り開く!」

 叫ぶと同時、私は勇者の一撃を放つ。

 私が、授かったスキルだ。

 ただ魔力を柱のように放出するだけの攻撃ではあるが、込めた魔力が数倍の力となって放出される。

 私の剣から水の柱のような魔力が迸ると、まっすぐに亜人たちの集団へと向かった。

 この一撃で私はこれまでも次元穴を破壊し、街を救ってきた。

 ここから、反撃してみせる!

 悲鳴を上げ、逃げまどっていた亜人たちだったが――私の放ったスキルの前に、フードの男が立ちふさがった。

 そして、彼は腰に差していた刀を振りぬき、魔力を断ち切った。

「……嘘」

 思わず、声が出てしまった。

 これまで、一度も防がれたことのない私のスキルなのに。

 驚き、硬直してしまっていた私とは裏腹に、フードの男は目を見開き、嬉しそうに笑っていた。

「面白い……! 面白いぞ!」

 そんな無邪気な子どものように叫ぶと、彼は地面を蹴りつけた。

 速……っ!?

 一瞬で距離を詰められたが、私は何とか持っていた剣をフードの男の振りぬいた刀との間に割り込ませた。

 しかし、その一撃は重く、私は体を弾き飛ばされる。

 体勢を立て直すより先に、フードの男が距離を詰め、再び刀を振りぬいてきた。

 不安定な体勢ではあったが、剣で受ける。

 しかし、地面へと叩きつけられるようにして、私は倒れる。

 地面にぶつかった衝撃に、痛みが左腕から全身へと抜ける。

「……ぐっ」

 立ち上がろうとした背中を蹴りつけられ、喉元に刀を突きつけられ、動けない。

 これまで、何度も苦しい戦いはあった。

 でも、この男は……これまでの相手とは比べ物にならない……っ。

「……この程度か?」

 先ほどとは打って変わって、興味を失ったような目とともにこちらを見下ろしてくる。

 まるで、歯が立たない。

 スキルを得てから生まれた戦闘に置いての絶対の自信は、今のやり取りで完全に消えていた。

 止めようとしても体は勝手に震えだす。

 そして、次の瞬間。

「ミヌ様! さ、さらに亜人たちが!」

 絶望的な、宣言だった。

 兵士の声に反応して、視線だけを向ける。

 すぐに、足音がしたのでどちらから来ていたかは分かった。

 フードの男はしかし、不思議がるような声を上げた。

「……亜人だと?」

 彼は私から刀を引き、それから視線をそちらへと向けていた。

 馬とともに現れた亜人たちの集団の先頭……そこには、見覚えのある顔があった。

「クレ、スト……?」

 私は、親しかった大切な人の名前を口にしていた。

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