第36話
「速っ……」
オルフェが反応するより先に、レイブハルトの刀が彼の背中を捉えた。
「オルフェ……っ!」
オルフェが切り飛ばされた次の瞬間に、スフィーが攻撃を仕掛ける。
スライムの弾丸を飛ばすが、すべて弾き飛ばされ、レイブハルトの放った魔法に吹き飛ばされる。
「うおおお!」
ゴルガが、レイブハルトへと肩から突進をする。
その硬質化した体を、レイブハルトは長剣を振り下ろして、切り裂いた。
くそっ……!
俺は痛む体を無理やりに動かし、地面を蹴りつけてレイブハルトへと迫る。
スキルを同時に使用する。
暗黒騎士による強化と、影術。そして、アサシンや魔法もすべてだ。
距離を詰めながら魔法を放つが、レイブハルトはそれを長剣と魔法によって相殺する。
魔法が乱れ飛ぶ中をかいくぐるようにレイブハルトの懐へと入る。
俺の一閃はかわされ、レイブハルトの長剣が俺へと振りぬかれる。
それを寸前でかわしながら、影術を発動し、その体へと攻撃を放つ。
雨のように影を振り落とし、その先端をとがらせて攻撃するが、そこにレイブハルトの姿はない。
「遅い」
レイブハルトの声が背後から聞こえた。
振り返り、襲い掛かってきたのは長剣だ。
「クレスト様! この……!」
叫びとともにリビアがレイブハルトへと剣を振りぬく。
リビアの一閃をレイブハルトは片手で受け止め、俺は彼の刀の一撃を受ける。
鮮血が噴き出し、その焼けるような痛みとともに、俺は背中から地面に倒れる。
リビアが俺のほうを見てから声を上げようとしたが、その懐にレイブハルトの剣の柄がめり込んだ。
リビアはその一撃で意識を失い、レイブハルトに担がれる。
「リビアを……放せ……っ!」
痛みはある。
だが、ここで意識を失うわけにはいかない……!
まだ、強化する手段はある。
マールナスから渡されていた強化魔石を口に運ぼうとしたところで、彼の体から魔力が溢れた。
まさか、さっきの周囲を薙ぎ払った魔法をもう一度放つつもりか……っ!
咄嗟に、黒ノ盾を放ったが……間に合わない。
レイブハルトから黒い玉が放たれ、それは俺たちの周囲を飲みこむように爆発した。
衝撃に体が吹き飛ばされ、地面を転がる。
薄れゆく意識の中、レイブハルトの声が聞こえた。
「下界にて生き抜いた者たちよ。気が変わることもあるだろう。オレは上界にておまえたちを待とうではないか」
俺は体を起こそうとしたが、体は動いてはくれなかった。
体を優しい光が包み込む。
まるで、太陽のようなその光に反応するように目を開けると、エリスの顔が飛び込んできた。
場所は俺の部屋のベッドの上のようだ。
涙を流しながらこちらを見ていたエリスは、俺と目が合うとぐっと抱きついてきた。
「クレスト! 目を覚ましましたのね!?」
「……エリス。えーと、確か――」
確認するように声を上げ、俺は自分が意識を失う前に何が起きたのかを理解する。
レイブハルトたちが攻め込んできて、俺たちはなすすべもなくやられ、そして、リビアが連れていかれた、はずだ。
「リビアは、連れていかれたんだよな?」
確認するように声を上げる。
威圧感があったのか、エリスは一瞬驚いたようにこちらを見てから、ゆっくりと頷いた。
「……ええ。あのレイブハルトという男に連れていかれましたわ」
「……そうか」
それだけ聞ければ十分だ。
エリスの回復魔法のおかげか、すでに傷はすべて癒えているようで、動くのに何の問題もない。
これなら、レイブハルトの後を追いかけて、リビアを助け出すことはできるだろう。
ベッドから立ち上がると、入り口からこちらを見ていたオルフェが俺に向き直った。
「クレスト、リビアの救出に向かうのか?」
「ああ。すまないが、しばらくこの拠点を離れる」
「……一人で行くのか?」
「他の人たちは、関係ないからな」
リビアが連れていかれたのは俺の実力不足も関係している。
それに、ゴブリン種はともかく他の種族までも無茶をしてまで助けには行かないだろう。
そう考えていると、俺の肩をオルフェが掴んだ。
「クレスト。少し落ち着け。リビアが連れていかれたのは、おまえ一人の責任じゃないんだ」
「かもしれないけど、それでもどっちにしろ……皆を巻き込むわけにはいかないだろ」
「そんなことはない。皆で助けるための準備をしている。上界にだって向かおうとしているんだ」
オルフェの言葉に、俺は驚いた。
「全員にオレから話をした。リビアを連れ戻すために協力してほしいと。皆快く引き受けてくれた。クレストのためにも、戦いたい、とな」
「……そう、か。だが――」
レイブハルトの力を思い出す。
……正直言って、正面切って勝てるかどうかは、分からない。
それに皆を連れていくということは、恐らく死者も出るだろう。
「レイブハルトとの力の差は歴然だ。今のまま挑んだところで結果は同じになるだろう?」
はっきりとそう言われてしまい、俺は理解こそしていたが首を横に振る。
「……かもしれないが、まだ強化魔石は使用していない。エリスの補助魔法だってそうだ。まだ可能性はあるはずだ」
「確実、ではないのに送り出せるわけがないだろう。おまえは、オレたちの大切な首領なんだ。確実に生きて戻ってこれるようにしたいんだ」
オルフェの真剣な眼差しに、俺は小さく頷いた。
……分かっている。
無茶な戦いを行うわけにはいかない。
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