第34話
村へと戻ると、すぐにマールナスがこちらへとやってきた。
彼女の隣にはヴァンニャも一緒にいる。
マールナスを見ると、どこか誇らしげな表情をしている。
彼女の背中側で揺れる尻尾は、犬がご主人様を見つけたかのように揺れている。
「クレスト様! お仕事お疲れ様です!」
元気のよい声とともに、ぺこりと頭を下げてくる。
「いや、別にそんな改まって言われるようなことは何もしていないが。二人で一緒にいるってことは強化魔石のことか?」
「さすがクレスト様です! ご理解がとても早いですね! そうです! とりあえず、こちらできあがりましたので、確認お願いいたします!」
マールナスはそう言って、すっとこちらに魔石を渡してきた。
彼女の手に乗せられた魔石は、魅了されるほどの美しい輝きを放っている。
マールナスの目の前で確認するのもどうかと思ったが、俺はちらと横にいたヴァンニャへと視線を向けた。
「……ヴァンニャ、これは大丈夫なんだよな?」
「うむ。何度も検査したんじゃが、特に問題はないんじゃよ」
「そうか」
マールナスからすれば気分が良くないかもしれないが、前科があるからな。
ヴァンニャのお墨付きをもらったところで、俺はそれを受け取った。
「そちら、口に運んでいただければ使用できますから」
「食べても、大丈夫なんだよな?」
「安心してください。オレンジイの実で味付けをしておりますから!」
「……そんなこともできるのか?」
「はい!」
嬉しそうに尻尾を揺らすマールナスに、ヴァンニャが頷いた。
その顔はどこか嬉しそうである。
「確かに、美味しい味だったんじゃよ」
「ヴァンニャも食べたのか?」
「うむ。ただわしじゃと効果は半減ってところじゃったな。それは、完全にクレスト専用という感じじゃ」
「……なるほどな」
俺が改めて魔石を見ていると、
「そういうことです! クレスト様のために愛をたっぷり込めました!」
「変なもの、入ってないよな?」
「入れようとしたところを、わしが止めたんじゃ」
……ヴァンニャの乾いた笑いに、何を入れようとしていたのかは聞かなかった。
聞いても後悔しかしないだろうとも思ったしな。
少し不安だったが、ヴァンニャを信じるしかない。
今の俺には、この村を守る使命がある。
力を得られる可能性があるのなら、試す価値はあるだろう。
言われた通りに口へと運んだ瞬間、まるで暗黒騎士を発動したときのような力を感じた。
体の奥底から湧き上がる力は、エリスの補助魔法を受けたときのようなものだ。
……これに、エリスの補助魔法と暗黒騎士も重ねて発動すれば、俺は今の数倍の力を得られるだろう。
効果の時間は十分ほどだろうか。
時間としては、このくらいあればちょうどいい。そもそも、暗黒騎士の発動時間がそのくらいが限界だしな。
「どうでしょうか、クレスト様?」
窺うように上目遣いでこちらを見てくるマールナスに、俺は笑顔とともに頷いた。
「……ああ、十分だ。ありがとうマールナス」
「それは良かったです、クレスト様!」
「何か褒美というか……あとで服でも作ってもらえるように頼んでおこうか?」
マールナスの協力への感謝として、そのくらいは用意するべきだろう。
そう思っていったのだが、彼女は首を横にぶんぶんと振った。
「そ、そんな必要ございませんよ! 私はクレスト様に仕えられればそれだけで幸せでございますから!」
「そ、そうか? でも、本当に何かしてほしいことがあったら言ってくれよ?」
「そ、そうですか!? それでは……頭を撫でてはいただけませんか?」
目を輝かせながらそういったマールナス。
……やっぱり、してほしいことあるんじゃないか。
ただ、その発言の内容には少し驚く。
もっと奇想天外なことを頼まれるとも思っていたからだ。
マールナスのお願いは、これまでの彼女の発言の中では比較的落ち着いたものだったので、俺は頷いた。
「……まあ、それくらいならいいか」
「本当ですか!?」
「……あ、ああ」
食い気味にきたマールナスは、それから俺のほうへと頭を傾けてきた。
「そ、それでは、お願いします!」
マールナスは先ほどとは違い、緊張した様子で尻尾と耳が震えていた。
そう構えられると、こちらとしても反応に困ってしまう。
そんなことを考えながら、マールナスの頭をゆっくりと撫でた。
柔らかな感触だ。僅かにマールナスの耳に手が当たると、モフモフとした感触が返ってきた。
「んんっ! とても甘美です!」
マールナスが興奮した様子で声を上げ、鼻息荒くしていた。
……どのくらい撫でていればいいか分からなかったが、一分ほど撫でたところで俺は手を離した。
マールナスが名残惜しそうに短い声を上げてから、すっと俺から離れた。
「クレスト様……また何か頑張りましたらご褒美をくださいますか!?」
「……あ、ああ」
「それでは、頑張りますね!」
目をきらきらと輝かせ、マールナスが駆けだした。
そんな背中を見送っていると、ヴァンニャがこちらを見てきた。
「クレストよ。マールナスはちょっと変な子かもしれぬ。警戒したほうがいいんじゃよ」
「……今さらか?」
ヴァンニャが真剣な顔でそんなことを言っていて、少し気が抜けてしまった。
しかし、三日後には北の亜人たちも迫ってくるのだ。
いつまでも、のんびり気分ではいられない。
俺は改めて気を引き締め直してから、各種族のリーダーを集め、今日の情報を共有していった。
北の亜人たちは上界を目指して三日後に出発すると話していた。
その間、俺もできる限りの努力は重ねていった。
強化魔石や暗黒騎士、影術、黒ノ盾を使いこなす訓練などだ。
……ガチャポイントは欲しかったが、結局新種の魔物は見つからず、暗黒騎士はレベル2のままだったが。
それでも、この三日で俺の実力はかなり向上したと思っている。
……いよいよだな。
朝から外の警戒をしていた俺は、自分の感知術に反応があったことに気づいた。
それから、遅れて村の亜人たちが俺のほうへと駆け寄ってきた。
「クレスト様! あ、亜人たちがこちらへ向かってきています!」
いよいよ、か。
俺は見張りの叫びに合わせ、北門の外へと視線を向けた。
すでに、皆には話しているので、いつでも迎え撃つ準備はできている。
……敵対しないのが一番なんだけどな。
報告から遅れること数分。
ぞろぞろと集団が見えてきた。
リザードマンを主軸にしているが、他にいくつらの亜人や人間の姿も見られる。
それらの総数はかなりのものだ。
あの隠された拠点にいた亜人すべてがここにいるのかもしれない。
その先頭に立つのは、フードを被った男だった。
向こうも、俺たちが気づいていることに驚いてる様子はなく、まっすぐに向かってくる。
怪しい雰囲気を持ったその男を迎えるように俺が立つと、彼は俺の前で一度足を止め、丁寧に頭を下げてきた。
「南の亜人たちをまとめている者だな?」
一瞬で、そう判断したようだ。
新連載になります。↓ 下のリンクから読んでみてください!
妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果大バズりしてしまったようです
https://ncode.syosetu.com/n9783ig/
タイムリープした【暗黒騎士】は未来知識で無双する〜不遇職として追放された俺が、最底辺から成り上がる〜
https://ncode.syosetu.com/n9795ig/




