第21話
キングコングが飛びかかってきた。
その巨体へ、俺はようやく慣れ始めた影術を発動し、応戦する。
放った影を拳のように硬め、キングコングのタックルにぶつける。
殴り飛ばせれば、と思っての一撃は見事に的中する。
「ウホ!?」
キングコングの巨体を押し返した。
キングコングがよろめいたのを確認し、俺は走り出す。
走りながらも影を操作し、キングコングへと槍のように放った。キングコングは野性の身体能力を発揮し、すぐに体勢を戻して俺の影のすべてをかわした。
俺が振りぬいた一閃も、空を切る。
キングコングはにやりと微笑み、こちらに殴りかかってきた。
直撃すれば、危険だ。
影を操作し、壁のように展開する。
キングコングの拳が影に当たると、押し返されるような感覚に襲われる。
さすがに、威力のある攻撃を防ぎきるのは難しい。
黒ノ盾と似たような使い方はできるが、丈夫さでは随分と劣ってしまっている。
仕方ないので、攻撃の向きを逸らすように影を操る。
キングコングの体がよろめき、隙だらけとなったそこへ剣を振りぬいた。
剣はキングコングの片腕を斬り飛ばすことに成功する。
キングコングは悲鳴を上げながらも、歯を食いしばり、血走った目でまだ無事だった拳を振り下ろしてきた。
わざと隙を見せた俺になら、その拳は当たると思ったのだろう。
しかし、その一撃は突如現れた黒い壁によって止まる。
俺との間に出現させた黒ノ盾に思いきり拳を打ち付けることになった。
ミシミシという音が響く。
それは俺の黒ノ盾からではない。
「ぐがあああ!?」
キングコングからだ。
キングコングの拳は、俺を叩き潰すために振りぬかれた。
その威力のすべてが、自分自身へと返ってきたようなものだ。
先ほどの影と同じようなものだとでも思っていたのかもしれない。
骨が砕け、悲鳴を上げるキングコングへ、俺は影を伸ばした。
「ガアアア!」
キングコングは体へと巻き付いてくる影から逃れようとするが、逃げられない。
影はキングコングの体へと巻き付き、その首をへし折る。
キングコングは泡を吹き、そのまま倒れた。
大きな地響きとともに沈んだキングコングを確認し、俺は小さく息を吐いた。
かなり、慣れてきたな。
最初にハイドウルフで実戦してから、かなり戦闘をこなしてきたおかげだ。
といっても、戦闘中は常に集中していないと中々スムーズには動けない。
手足のように操るには、まだまだ訓練の必要があるな。
今の精度では、強敵相手には通用しないのは確かだ。
脳裏に浮かぶのは、昨日戦ったフードの男だ。
……あれほどの相手と戦うのなら、さらに動かせるようにならなければ。
そう思い、さらなる練習相手を求め、魔物を探していく。
途中、暗黒騎士も使用し、体の調子を確かめながら戦っていく。
何度やってみても、暗黒騎士に関しては使い勝手がよくなる、とかはない。
このスキルは、純粋に体力の消費量を上げた身体強化だ。
体力の消費が倍以上に上がるとはいえ、キングコング程度ならば圧倒できるほどの力となる。
デメリットは大きいが、今の俺の力でどうにもならない相手と戦う際の切り札なりうるものだ。
どのぐらいの時間ならば、問題なく使えるのか?
その限界を見極めていく必要がある。
新たに現れたキングコングを、暗黒騎士を発動して戦う。
キングコングを当然のように圧倒した俺だったが、その疲労感に息を吐く。
休憩がてら、影術を使用して魔物を倒していると……俺の感知術に別の反応があった。
亜人だ。
今回の目的は、スキルを試すこともそうだが本命は北の亜人たちの調査だ。
俺はすぐさま死体を処理し、アサシンと忍び足術を発動する。
周囲の警戒を行いながら、反応があったほうへと近づいていく。
そちらにいたのは、人間、に見えた。
どうしてここにいるんだ? そんな疑問は浮かんだが、それより先にその集団にフードの男がいないかを確認する。
……良かった。いない。
ただ、油断はできない。
フードの男でなくとも、俺に気がつく奴はいるかもしれない。
しばらく、木の陰から観察していたが彼らが俺に気づいている様子はない。
もしも、気づいていないふりをされているのならどうしようもないが。
人間たちは首輪をつけている。
奴隷の首輪だろうか? しかし、それほど表情に絶望の色はない。
人間たちは魔物を狩ってはどこか楽しそうに話をしている。
その会話の内容は他愛もないものだ。
魔物が美味そうだ、とか、次は誰が倒すかなどなど。
意外と、仲は良さそうにも見えるな。
しばらく彼らの後をつけていくが、何も情報が得られないまま時間が過ぎていく。
特に有益な情報が得られずに、俺がため息を吐いていると、
「そろそろ拠点に戻ろうぜ。レイブハルト様に怒られちまうよ」
「おう、そうだな」
……レイブハルト?
一人の言葉に、皆は続々と北に向かって歩いていく。
あのフードの男が、レイブハルトだろうか?
方角的にいえば、やはりあの隠れた拠点の人間たちだろうと思えた。
彼らの後をつけていき、やがて拠点近くに到着する。
「へへ、結構強くなったよな?」
「ああ、これならそろそろ上でもやれるかもな」
中に入る直前にそんな会話が聞こえた。
……上でもやれる? 言葉の意味を考えていると、彼らは拠点の中へと進んでいく。
段々と拠点がもとの森へと変化していく中、入り口の見張りをしていたリザードマンの亜人と彼ら人間は一言二言話していた。
さすがに、俺の位置からではその会話を聞くことはできない。
拠点の内部にまで入れば、もっと情報は得られるかもしれないが……。
あの拠点から外に無事出られるかどうかも分からない。
今はまだ、無茶をする場面ではないだろう。
俺はそれ以上そこには滞在せず、村へと向かって歩き出した。
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