第14話
「クレスト……? どうしたんだ?」
「え? 何がだ?」
突然の問いかけに、俺が首を傾げるとゴルガは険しい表情を向けてきた。
「かなり顔が険しい、ぞ。何か、あったのか?」
……どうやら、表情に出てしまっていたらしい。
俺は顔の緊張をほぐすために一度苦笑して、それからゴルガに答えた。
「北に、亜人たちを発見したんだ。それでまあ、色々あってな」
「亜人……まさか、襲われたのか?」
俺の様子から、すぐにその考えにたどり着いたようだ。
「まあ、そうだな。ただ、アサシンを使っていたから姿を見られたわけではないんだけどな」
「そうなのか? とにかく、怪我がなくて、良かった」
ほっとしたように息を吐いたゴルガに、俺は言葉を続ける。
「とにかく細かい話はまた皆を集めてからするよ。一度俺は部屋に戻るよ。悪いな、心配させて」
「別に、そんなことはない」
「会議室で、夕食をとりながらでも話をしようと思う。皆に伝えてもらってもいいか?」
「分かった。ゆっくり休んでくれ」
ゴルガの返事を聞いた後、俺は自宅へと向かう。
戻りながら、すれ違う各種族の人たちにもゴルガに伝えたのと同じように話をする。
これで各種族のリーダーへと伝わってくれるだろう。
自分の部屋へと戻ってきた俺は、小さく息を吐いてから椅子に腰かける。
……ようやく、気を休められた。
フード男に襲われてからというもの、常に気を張っていたからな……。
椅子に深く腰掛け、額に手をやる。
それにしても……あんな男がいるなんてな。
彼の圧倒的な実力を思い出し、思わずため息が出てしまう。
……勝てるように、なるのだろうか。
そんな考えが出てしまい、首を横に振る。
勝てなければ、村の皆を守ることはできないんだ。
弱気な考えを抱いてはいけない。
とりあえず、今後どうするかだよな。
まず、俺自身が強くならなければならないのは当然として、その強化のためにはガチャが必要だ。
俺のガチャの更新日は、明後日だ。
ガチャが更新されれば、新しいスキルも手に入るだろう。
ただ問題はある。
そのスキル一つ、二つ程度でフードの男との力をどれほど埋められるかだよな。
スキルは基本的に強力だが、一つ二つでどこまで変わるかだ。
次のガチャ更新はかなり重要になってくるが、どんなガチャが来るかは神に祈るしかない。
それにしても、あのフードの男は亜人なのだろうか?
フードの男から放たれる魔力や威圧感は……今までに感じたことのないもので、不気味だった。
それが、実力差によるものなのか、はたまた別の理由があってなのか。
しばらく考えこんでしまっていたが、ぱんっと頬を叩く。
……分からないことまで考えても仕方ない。
憶測なんていくらでもできるんだしな
今は分かっている情報をまとめ、皆に共有することのほうが大切だろう。
夕食の時間となり、予定通り俺たちは会議室へと集合した。
それぞれが着席した前に、食事が並べられていく。
「わざわざ運んでくれて、ありがとな」
「いえ! クレスト様のためならばこのくらいいくらでもしますよ!」
給仕を務めてくれていたドリアードたちに感謝を伝えると、とても嬉しそうに微笑んでいた。
皆の席に食事が並び終わると、ドリアードたちは部屋を退出する。
俺は集まってくれた皆に視線を向けた。
「それじゃあ、食事をしながら軽く話をしよう」
そう言って、俺が先に口をつけると、他の人たちも次々に食べ始めた。
……俺が食べ始めないと、皆手をつけてくれないからな。
ある程度食事が進んだところで、俺はぽつりと漏らすように言った。
「オーガの村の北側を……かなり進んでいったところを調べていたら、亜人の街を発見したんだ」
「亜人、か」
オルフェの呟くような声。
どこか考えこむような皆の表情だ。
「それで、どうでしたか?」
リビアが不安げな表情で首を傾げる。
どのように伝えるか、迷ってしまう。
襲われた、といえばより不安を煽ることになってしまうだろうけど、でも嘘をつくわけにもいかないしなぁ。
「リザードマンがいたな。ただ、街自体は魔法か何かで隠れていて、言葉に合わせて門が開いて……その一瞬だけは、中を見ることができたんだ」
「つまり、普段は隠れているということですか?」
「そうなるな。街全体を隠すような魔法とかってあるのか?」
俺がそういうと、リビアは考えるように顎に手をやる。
それから、ヴァンニャが手を挙げた。
「隠蔽系の魔法なり能力なりを使っているのじゃろうな」
「……街一つ覆うほどのことが可能なのか?」
「かなりの力を有しているものなら可能じゃろう。わしらもできないことはないが……精々、建物一つくらいじゃな。街がどの程度のものかは知らぬが、村一つ覆うのもわりと難しいんじゃよ」
「そうなのか……」
ヴァンパイアたちができるということにまず驚いたが、それでも建物一つが限界か。