第9話
現在時刻は夕方だ。多少、日差しが治まってきたからか彼女らも朝に比べて生き生きしているように見える。
日差しの中でも活動できないわけではないが、やはり人間以上に日差しが苦手というのはあるようだ。
彼女らは、外壁の通路部分に明かりとなる魔石をつけているところだった。
それらを指揮しているのは、ヴァンパイア種のリーダーであるヴァンニャだ。
「ヴァンニャ、調子はどうだ?」
声をかけると、向こうもこちらに気づいたようだ。
振り返ったヴァンニャは笑顔だ。
それはもう活き活きとした顔つきだ。
「おお、クレスト。戻ってきていたんじゃな。今ちょうど明かりをつけていたんじゃが、どうじゃ?立派じゃろう?」
ヴァンニャが魔力をこめると、魔石たちが光を上げる。
確かに立派ではあったが、結構目立つ。
「夜は、明かりの扱いには気を付けてくれな」
「なんでじゃ?」
「そりゃあ、敵からもいい目印になるからな」
まだ、どれくらいいるのかは分からないが、きっとオーガたち以上の敵が存在するだろう。
彼らが俺たちに悪意を持って接してくるかは分からないが、目立つような行動はしないほうがいいだろう。
今のところ、俺たちの村は木々に隠れるように造られているため、そう見つかるということはないはずだ。
「た、確かにそうじゃな……じゃあ、つけないほうがいいかの?」
「いや、ないと不便だし、今みたいに魔力をこめたときに灯になってくれればそれで大丈夫だ」
「分かったんじゃ」
闇の中でも問題なく移動できるのはヴァンパイアたちくらいだ。
一応、亜人たちも夜目は効くようだけど、ヴァンパイアたちほどではないようだしな。
特に俺は、感知術に頼るしかなくなるので、灯は欲しい。
外壁上部の通路を歩いていく。まだ北側しか造られていないが、それでも立派な回廊のようになっている。
「どうだ?」
ゴルガの窺うような問いかけに、俺は笑みとともに答えた。
「ああ、十分すぎるよ。ありがとな」
「ふふ、それなら良かった。この調子で拡張していって、村全体を覆うように造ろうと思っている」
「頼んだよ」
これだけ立派な防壁ができれば、そこらの魔物を警戒する必要もなくなるからな。
ゴルガとともに梯子を使って下へと戻る。
村を見て回ると、農作業を行っているゴブリンたちを見つけた。
外壁ができたこともあり、畑などが襲われる心配もなくなったよな。
「あっ! クレスト様! 見てください! この美味しそうなトマート!」
ゴブリンは大きく実ったトマートを掴んでいた。
……彼らはすっかり畑仕事に関して知識をつけたせいか、様々な野菜を育てられるようになっていた。
なんか、魔力をこめることで野菜の種を作成できるのだとか……。
もうそういった作業は完全に俺を超えている。
「そうだな。今夜の食事に出すのか?」
「ええ! 料理班に届けてきます!」
「それなら、俺が行くよ。どうせやることもないしな」
「い、いやそんなクレスト様にお願いするなんて……」
「いいって。この籠に入っているものを持っていけばいいのか?」
「……あっ、は、はい……すみません、おねがいします」
申し訳なさそうにしているゴブリンに、俺は苦笑を返すしかない。
俺は確かに首領ではあるが、そこまで偉ぶりたいわけではない。
どちらかといえば、このぐらいの距離感でいたいものだ。
籠を持ち上げ、料理班の元へと向かう。
ドリアードたちが造ってくれた食堂へと向かうと、中にいた亜人たちの視線が集まった。
「く、クレスト様!? どうされましたか!?」
「いや、ちょっと野菜を届けに来てな。どこに置けばいい?」
俺の登場にそれはもう驚いた様子だ。皆が手を止め、すっと頭を下げてくる。
料理ができる子たちは様々な種族がいるのだが、偶然にもこの場には全種族が集まっていた。
「ええ!? そんな、あいつらがまさか押しつけたんじゃ……」
「いやいや、自主的に持ってきたんだよ。俺もやることなかったしな」
「そ、そうでしたか……では、そちらのテーブルに置いておいてください」
「分かった」
言われた通りにテーブルに置く。
それから食堂内に満ちた香りに、頬を緩める。