第8話
村へと戻ると、ゴーレム族のリーダーを任せているゴルガがやってきた。
「クレスト、さっき外壁の調整が終わったんだ。確認してもらえるか?」
「ああ、分かった。それじゃあ二人とも、またあとでな」
「ええ、頑張ってくださいまし」
「何かあればいつでも言ってくださいね」
エリスとリビアに別れを告げ、俺はゴルガとともに外壁へと向かう。
ゴルガたちゴーレム族は石の加工を得意としている。
外壁を作ってもらったり、石の建物も造ってもらったりと、彼らにはかなりお世話になっている。
特に今は、外敵から村を守るための外壁造りを行ってもらっていた。
一度、簡単には造ってもらっていたのだが、あくまで野生の魔物たちの侵入を防ぐ程度のものだった。
しかし、今はしっかりと門もつけられていて、オーガの村で見た物よりも強固なものとなっていた。
「どうだ?」
「思っていたよりもかなりしっかりしているな。オーガたちの村のときよりも立派なんじゃないか?」
確認するように問いかけると、ゴルガはにかっと笑った。
「そう、かもしれない。……クレストに魔名を与えてもらってから、力が湧き上がるんだ」
……なるほどな。
俺の召喚士の力によってか、魔物たちには名前を付けられる。
魔名、と呼ばれているのだが、この魔名をつけることでその者を強化できる。
ステータスで言えば、1.5倍くらいは上がる可能性もあるので、積極的に行っていたのだが、種族の能力的な部分も強化できるようだ。
壁の高さはおおよそ五メートルほどだ。
「あの高さまでの建築はどうやったんだ?」
ゴルガも体は大きいほうだが、とてもじゃないが届かない。
「カトリナたちに木を成長してもらって、足場にしてもらったんだ」
「なるほどな……」
連携もしっかりできているようで何よりだ。
上を見上げていると、何かが飛び回っているように見えた。
「外壁の上も歩けるのか?」
「ああ、見張り用の通路があるぞ。そこから上に上がれるようにしていて……上に小さな小屋も造って、そこで見張りたちが休めるようにもしている」
ゴルガが指さしたのは柱の一部だ。確かにそこには扉がついていて、中へと入れるようになっていた。
「……ちょっと、見にいってもいいか?」
「もちろんだ。案内、するぞ」
少し興奮してきた。
何だか秘密基地にでも来ているような気分だ。
ゴルガの案内のもと、扉の中へと入ると、椅子と机が置かれていた。
「一応、ここでも休憩がとれるようにしてあるんだ」
「……なるほど」
俺も城などに足を運んだことがあり、似たようなものは知っていた。
まさか、下界でここまでのものが造れるとは思っていなかったけど。
そこから上には梯子が続いている。
「これは、ドリアード種の人たちが造ってくれたのか?」
俺の問いかけに、ゴルガはゆっくりと首を縦に振る。
「そうだ。かなり頑丈だから安心してくれ」
壁に埋め込まれるようについた足場に足を引っかけ、手を使って上へと向かう。
……もちろん、落ちてしまえば危険ではあるが、俺やゴルガが登っていってもまったくと言っていいほどびくともしない。
さすが、ドリアード種たちだ。
梯子の途中途中に、魔石が埋め込まれている。
内部は明かりが入ってこないため暗かったのだが、魔石がほんのりと光を放っており、周囲が見えないということはない。
これはヴァンパイア種たちが造ったものだろう。
元々、オーガの村にいたためか彼らはよく連携できているようだ。
そんなことを考えていると、上が見えてきた。
ほんのりと灯りがあるため、それを目印に俺は梯子を上がりきった。
足をつけ、周囲を眺める。
ここにはベッドなどが置かれており、本格的に休めるようになっている。
「ここは見張りたちに自由に使ってもらおうと思っている。大丈夫、か?」
「……なるほど。いいと思うぞ」
答えると、ゴルガはほっとしたように笑った。
オーガの村で助けた子たちは、散々な扱いを受けたからか、自分の意見を言うのに躊躇いがあるときがある。
もっと素直に意見してほしいと思っているが、中々すぐには難しいのかもしれない。
「基本的にヴァンパイアたちは夜に活動したいそうだから、見張りを含めた仕事を任せるのがいいと思うんだ」
「そうだよな……日差しは苦手って言ってたもんな」
「ああ。そういうわけで、今はヴァンパイアたちがあれだけ動いているんだ」
ゴルガが外に繋がるほうを指さす。
今は扉が開いているため、そちらも良く見える。
ゴルガが言う通り、ヴァンパイアたちが今まさに仕事をしていた。