第7話
まあ、父や家族、他の貴族たちには一切信じてもらえず、こうして下界に送られてしまったのだが。
上界で言ったことそのままのスキルの効果なので、聡明なエリスならいずれ気づくだろう。
あるいは、村にいる亜人たちも俺のスキルについては知っているのだから、聞いて回ればすぐに分かることだ。
「……魔物を倒せば倒すだけ。つまり、下界であれば無限に強くなれるということですの?」
「正確には、もらえるポイントに制限があってな。無限ってわけじゃないんだ。つまり、さっきの新種っていうのは、ポイントをもらえる魔物ってことだな」
それで、一応は合点がいったようだ。
エリスは驚きながら、俺の作った椅子に腰かける。
「しっかりとしていますわね。……これはもしかして、建築術ですの?」
「そんなところだ。他にも色々なスキルがあってな……って、魔物だな」
感知術に反応があり、魔物の接近に気づいた。
さっきと似たような反応なので、恐らくキングコングだろうと思い視線を向けると、やはりそうだ。
近くの木を握りつぶしながらこちらへとやってきたそいつは、俺の設置
した罠魔法を踏みつけ、悲鳴を上げる。
足はズタズタで、逃げられる様子はない。
そちらに向けて風魔法を放ち、その首を断ち切り、俺は視線をエリスへと戻した。
「まあ、こんな感じで色々便利なんだよ」
「……ガチャスキル、ここまで凄かったのですわね」
感心した様子で頷くエリスに、俺は苦笑を返した。
ガチャスキルに関して、俺は懇切丁寧に伝えるつもりだ。
俺の情報を得た彼女が、今後どのように動くのかも見ておきたかったからだ。
……何か、エリスしか持たないスキルで遠方の相手と連絡を取る手段があるかもしれない。
俺の情報を得た後、どこかでこっそりとそのスキルを使って情報を送る可能性もある。
それに、ここまで自分から話せば、エリスのスキルについても聞いてもおかしくない状況になるしな。
「まあ、俺も下界に降りてから色々と勉強してな。……エリスはどうなんだ? エリスの持っていた聖女の加護も結構優秀なんだよな?」
少し攻めすぎな気もしたが、問いかけてみる。
「そうですわね。補助魔法とかは得意ですけれど、クレストに比べると汎用性はないと思いますわ」
「そうなんだな。……身体能力とかはどうなんだ? 向上しているのか?」
質問を重ねすぎたか? とも思ったが、エリスは特に気にした様子はない。
「多少は向上していますわね。足りない分は自分に補助魔法をかければいいですしね」
「……自分にもかけられるんだな」
「ええ、まあ。といっても、そもそもわたくしは剣とか振ったことがありませんので、たいして戦えはしませんけれど」
エリスが苦笑するように微笑んだ。
……自分自身に補助魔法をかけるか。
それは考慮していなかったな。
そんな話をしていると、キングコングの討伐数が二十五体に到達した。
ガチャポイントを確認すると、今は三万ポイントたまっており、これでガチャを六十六回回すことができる。
これで、キングコングを狩る必要はなくなった。
「それじゃあ、少し森を歩こうか」
「もういいですの?」
「ああ。もらえるポイントには限界があるんだ。まだ新種がいるかもしれないし、少し探してみようと思ってる」
「なるほど、そうですのね」
席を立ちあがった俺たちは、他の魔物を探して歩き出す。
といっても、事前にこの周辺は調べていたので、新たに魔物が見つかるということはない。
それでも、こちらに気づき襲い掛かってくる魔物たちを退けるように戦闘をしていく。
「エリス。少し補助魔法の効果を試してみたいんだけど、いいか?」
「ええ、構いませんわ」
話をするとすぐにエリスがこちらに補助魔法をかけてくれる。
体が一気に軽くなる。まるで羽でも生えたかのようだ。
そうして、剣を振りぬく。
……凄いな。
ステータスを確認してみたが、特に数値が変わるわけではないのだが、身体能力は単純に二倍ほど上がっているように感じる。
エリスの補助魔法が解除された後だと、体が重く感じてしまう。
身体強化された状態は確かに強力なのだが、普段以上に力が出せてしまうため、感覚が狂う。
実戦でその感覚のズレはわりと問題だ。力に振り回されてしまう可能性があるため、エリスの補助魔法は普段から慣れておく必要がありそうだ。
「クレスト、凄いですわね」
「いや、エリスの補助魔法のおかげだ。ありがとな」
「ふふ、嬉しいですわ」
……本当に、エリスなんだよな?
俺の感謝の言葉を素直に受け取るなんて。
前までのエリスなら考えられなかった。
これが演技なのか、本当に俺に対してのこれまでの行動について反省しているのか……。
どちらにせよ、今のところ敵対している様子はないし、必要以上に疑うのはやめておいたほうが無難だよな。
「クレスト、怪我はしていませんの?」
「ああ、大丈夫だ」
「それでしたら良かったですわ。ちなみにですが、わたくしの回復魔法ならたいていの傷は治せますので、いつでも言ってくださいまし」
「……たいていのって具体的にはどのくらいなんだ?」
「そうですわね……上界で治した傷の中で一番酷かったのは切断された腕の回復、ですわね」
「せ、切断された腕を? く、くっつけられるってことか?」
「そうですわね。ただ、あまりにも時間が経ちすぎてしまうとできませんでしたわ。さすがに、どのくらいの時間かまでは検証していませんので分かりませんの」
「そうか……」
そんな検証をしている余裕はさすがにないだろう。
上界が慌ただしいのもあるが、「治せませんでした」なんてなったらその相手にどんな顔をすればいいのか分からないからな。
……昔ならば、犯罪者を使って人体実験などもしていたので、もしかしたらできたかもしれないが。
今はエリスの回復魔法がかなり優れていて、頼りになるということだけ分かれば十分だ。
そんなことを考えていると、リビアが俺の隣に並ぶ。
「この周囲にはやはりもう魔物は確認できませんね。一度、村まで戻りますか?」
「そうだな。エリスも他に何かやることはないだろ?」
「ええ、問題ありませんわ」
エリスが頷いたのを合図に、俺たちは村へと戻った。