第4話
「何もしてないならそれでいいんだ。……さすがに、初日から変なことはしない、か」
「クレストは何か思い当たる節はあるの?」
「まあ、色々と、な。それはとりあえず置いておくとして、エリスに怪しい動きはなかったんだな?」
「とりあえずは、問題ないと思ったわね。もう、そんなに疑わなくてもいいんじゃないかしら?」
「いや、でもな。例えば俺たちの調査に来たんじゃないかと思ってな」
「調査?」
「俺たちの力を把握して、上に報告して潰しにきているんじゃないかって。あるいは、隙を見て俺をどうにか上界に連れ戻すとか……」
「話し聞いたけど、今上界ってめっちゃ大変みたいよ? そんなことに、戦力割く暇はないんじゃないの? まして、エリスって結構凄い強い人なのよね?」
「……そうなのか?」
そこまでの話はしていなかったので、上界の様子は知らなかった。
俺の問いかけに、スフィーはこくりと頷いた。
「エリスから聞いたのだけど、次元穴があちこちで発生してそれはもう大量に魔物が出現しているらしいのよ。その対応がもう大変で、もう一人、神託で評価された子が頑張ってるって」
「……ミヌか」
「女の人?」
「ああ」
「もう、あんまり浮気は駄目よ?」
「一体誰視点での発言だ」
ため息を吐きながら、俺は考える。
エリスの話が本当なら、俺一人を潰すためにそのような行動はしないか。
ただ、上界がそれほど大変ならば、急いで俺を連れ戻すためにエリスを派遣してきた可能性もなくはないよな。
でも、スフィーが言ったように、上界を手薄にしてまで下界にエリスを送るというのは、得策ではないのかもしれない。
「とりあえず、クレストは敵対しないように言っていたけど、普通に私はオッケーよ。住民として認めても問題ないと思ったわね。亜人への偏見とかもないみたいだし」
「……まあ、エリスってそもそもあんまり周りの評価とか気にしないからな」
「それはいいわね。私もあのくらいなら嫌いじゃないわ」
エリスは外面もいいしな。
でも、スフィーがここまで言うのならば、エリスも他意はないのだろうか?
分からない。
彼女が一体何を考えているのか。
「とにかくありがとな。ゆっくり休んでくれ」
「あれ? ご褒美のチューは?」
「そんな約束はしてないから」
スフィーを部屋から追い出すように力をこめると、彼女は渋々と言った様子で出ていった。
とりあえず、しばらくは様子を見てみるしかないな。
それから数日が経過した。
町の人たちには、エリスが何かおかしな行動をしたらすぐに教えてほしいと話していたのだが、特に悪評が出てくることはなかった。
元々貴族という部分もあり、多少生活に不慣れなことはあるようだったが、それもこの数日である程度は慣れた。
特に、上界に連絡を取っているという様子もない。そもそも、下界で手紙を送るなんてできないしな。
本当に、本心で下界に降りてきたのか?
よく分からない。
それに、亜人たちからの評価も別に悪くない。
彼女はスキルをバンバン使って、手の内も見せてくるし警戒する必要はないのかもしれない。
「これで、傷の治療終わりましたわね」
エリスは、回復魔法、支援魔法、防御魔法を得意としている。
その回復魔法は、ある程度の傷までも一瞬で治してしまうし、エリスの支援魔法を受けたものは、それこそ能力が二倍くらいは跳ね上がっているのではというほどになる。
防御魔法も、並の攻撃を通さないほどに頑丈であり……このエリスを敵に回すようなことがあれば、かなり厄介なのではと思わされた。
エリス本人の戦闘能力が高いわけではないのだが、周りを含めてのエリスの能力はかなりのものだ。
俺も監視に混ざっていたが、特に大きな問題はなかった。
とりあえず、俺はもうすぐガチャ更新もあるし、そちらの準備もしておきたい。
オーガの拠点を中心に、新種のモンスターたちを狩ったため、ガチャポイントはかなり溜まってきた。
この前発見したモンスターを狩り終えれば、合計三万ポイントとなり、新しいガチャをコンプリートできるほどではある。
問題は、いつもの通り今のガチャで、全スキルのレベルをMAXまで上げるかどうかだ。
正直、アサシンがMAXになった今、別に無理に取らなくても良い気はする。
そもそも、アサシン自体が同格程度の相手には見破られてしまうしな。
そういうわけで、今回のガチャは見送ろうと考えていた。
しばらく街の様子を見ていたが、エリスが亜人たちに何か手をかけるとかはしていないので俺もそろそろ、自由に動いても問題ないだろう。
そう思って、一度家に戻り装備を整えてから出ると、ちょうどこちらにやってきたエリスと目があった。
俺を見つけると、パッと表情が明るくなる。
その素直すぎる反応に、まだ慣れない。
「クレスト、どこへ向かいますの?」
「街の外で、魔物を狩ってくるつもりだ」
ここ最近はエリスの見張りばかりだったからな……。
いざ、何かエリスが行動を起こした場合、恐らく止められるのは俺だけだろうし。
そんなこともあって気をもんでいたので、今日は久しぶりに息抜きがしたかった。
「それでは、わたくしも同行してもよろしいですの?」
「……ああ、別に構わないけど」
一瞬迷ったがそう返事をした。