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第46話



 攻撃を弾くと、ルガーは驚いたように目を見開いた。

 ルガーが後退し、剣を持ち直す。

 立て直す暇は与えない。俺は距離を詰めるように動き、ルガーへと剣を振り下ろした。


「ぐが……!?」


 一撃はルガーの肩を捉えた。

 そのまま一気に剣を振りぬいた。

 鮮血が宙を舞い、ルガーがよろよろとよろめく。


 それでもまだルガーが剣を振るおうとしたので、その喉元に剣を突きつける。

 戦いは一瞬だった。

 これは戦争のようなものだ。


 これだけ一方的に攻められたのは、こちらが情報を集めたおかげだ。

 戦争の勝敗は、戦う前にほぼ決まる。


 人の数、食料などの道具、地理、内通者。とにかく情報を制することで勝敗は決する。

 今回に置いては、敵の人質をいかに活用するかが勝負の分れ目だったのだ。

 

 こちらが8割勝利が決まっていた。残り2割の不安様子は、ルガーの実力だけだった。

 逆に行けば、ルガーがこの戦況を打開するには、彼自身の力によって俺を打ち負かすことだけだった。

 それも俺の方が上回っていた。


 仲間たちや俺自身の成長によって、俺のステータスも爆発的に伸びている。

 今の俺なら、ルガーくらいの相手ならものともしないというわけだ。

 ルガーは喉元に突き付けられた剣をただただじっと見つめていた。

 呼吸することさえも出来ない様子で、じっと俺の剣を見ている。


 そして、次の瞬間だった。ルガーは口をゆっくりと開いた。


「わ、悪かった。た、頼む命だけは見逃してくれ!」


 全力の懇願。

 潔いと言えば潔い。

 この状況から下手に暴れたとしても、勝ち目はないだろう。


 ……情けない、とは思うが生き延びるために全力なんだろう。

 俺はちらと、ドリアード、ゴーレム、ヴァンパイアたちを見る。

 不服そうにルガーを睨んではいるが、何かを言っていることはない。

 俺はヴァンニャ、カトリナ、ゴルガの三人を見た。


「彼に関しては俺に任せてもらってもいいか?」


 俺の問いかけに、彼女らはこくりと頷いた。

 俺はルガーをもう一度見る。

 ここで殺す選択を取るべきか取らざるべきか。

 俺はルガーの怯え切った目を見て、首を横に振った。


「ルガー。二度と奴隷のような扱いをしないと誓えるか?」

「……あ、ああ! もちろんだ!」

「……そうか。それならば、仲間たちを連れてこの場から立ち去れ。そうすれば、命までは取らない」

「ほ、本当か?」

「ああ」


 俺は鋭く睨みつけ、それからルガーの喉へと剣を近づける。

 

「もしも、下手なことをするというのなら、次はない。そう思っておけ」

「……わ、分かってる! あ、ありがとう! お、恩に着る! この恩は絶対に忘れない!」


 俺が剣を下げるとルガーはぺこぺこと頭を地面にこすりつけていた。

 俺はため息を吐きながらルガーに向けていた剣をしまう。

 ルガーは体を起こしながら、へへへ、と乾いた笑いを浮かべ――そして、その口角が吊り上がった。


「はっ! お人よしが!! 死ね!」


 ルガーは狂気とともに、 俺へと剣を振り下ろしてきた。

 ……分かっていた。

 その程度の怒りは、容易に見抜けていた。

 俺は小さくため息を吐きながら、ルガーの一撃をかわす。


「な!?」


 あまりにもルガーの動きはゆったりと見える。

 自分自身の成長のおかげか、他の理由があるかは不明だ。


 だが、ルガーに隙を見せ、それから対応できるほどに、俺には余裕があった。

 ルガーが剣を引き戻すより先に、俺は剣を振りぬいた。

 今の自分に最適の魔力を意識した一閃は、すっと紙でも斬るかのようにルガーの右肩から腕へと振りぬかれ、切断した。


「があああ!?」


 大量の血が空を舞い、ルガーは痛みを訴えるように傷口へと逆の手を伸ばしていた。

 ごろごろと地面を転がるルガーを、俺は冷めた目で見下ろし、トドメの一撃を放った。


 騒ぎ立てていたルガーは、俺の攻撃によって静かになった。

 もしも、本当に反省をしていたのなら、俺だって見逃すつもりはある。

 少なくとも、ヴァンニャ、カトリナ、ゴルガの三人は俺に処分を任せてくれたのだから。


 だが、彼は俺を欺こうとした。

 裏切るというのなら、話は別だ。

 ここで見逃すことはしない。

 それは、俺自身の立場の揺らぎに繋がる。


 多少、恐怖されようとも……俺はすでに多くの付き従う人々がいる。

 彼らに舐められないように、最低限の示しをつける必要がある。

 

 ルガーが動かなくなり、戦場を静寂が支配する。

 俺が振り返ると、視線が集まっていることが分かった。


「……く、クレスト様。前よりも強くなってないか?」

「あ、ああ……オーガの首領を圧倒するなんて……」


 僅かにそんな怯えの混じった声も聞こえる。

 先程の戦いを見れば、仕方ないか。

 僅かながらの寂しさを覚えながらも、俺は拳を高々と突き上げた。


「この戦いは俺たちの勝利だ! 皆! 拠点に戻るぞ!」


 俺がそう宣言すると、遅れて亜人たちの歓声が沸き上がる。

 そんな俺の方へ、リビアがやってきてそっと声をかけてきた。


「お疲れさまでした、クレスト様」

「……ああ、ありがとう」


 これから先、どのように首領として進めばいいのか。

 僅かな迷いがありながらも、今はリビアの言葉を素直に受け取った。


 



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― 新着の感想 ―
首領のルガーが反逆したならその仲間たちも、直後当然皆殺しでしょ。
[気になる点] これから起こる苦難に対して、クレスト(+配下)の強化はされてるけど、上界の残りのキー能力者2名の動向が全く語られていないので、そろそろ平行して物語が語られないと・・・・・・。
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