第44話
次の日。
ワーウルフたちが慌てた様子でかけてきた。
「く、クレスト様!」
「どうした?」
「お、オーガの首領たちがやってきたんです!」
なんだと?
以前侵入したときのことを思い出していた。
北門の方へと向かうと、オーガたちが確かにいた。数は五人。
その先頭にはオーガの首領と呼ばれていた男もいた。
全員が大柄だ。俺はリビア、オルフェ、スフィー、エリスの四人を連れ、彼らの前に立っていた。
ヴァンニャには姿を隠してもらっている。彼女がいれば、協力関係を疑われるからだ。
「なんだ? 人間がいるのか?」
オーガの首領が眉根を寄せる。
先頭に立っていた俺に視線を向けてきたオーガに、俺は首を傾げた。
「何か、用か?」
「ここの首領を呼びな。人間みたいな雑魚に興味はねぇんだよ」
「人間が雑魚?」
「亜人にびびって下界送りにしているんだろ? オレの先祖様がそう話してたぜ。で、首領はどこにいるんだ?」
「俺が首領のクレストだ。そっちの首領は?」
そういうと、オーガの首領はケラケラと笑っていた。
首領だけではない。後ろに控えていたオーガたちもだ。
「おいおい! 人間が首領かよ!」
「お笑いじゃねぇか!」
「マジでふざけてんのか!? ワーウルフもゴブリンもスライムも……弱すぎんだろ!」
大きな声で笑う彼に、オルフェとスフィーが苛立ったような空気を出していた。
それでも斬りかからなかったのは、俺がいるからだろう。
「別に誰が首領でもいいだろ? そっちの首領は? 用件はなんなんだ?」
「オレがオーガの首領のルガーだ。で、用件だが……オレたちの奴隷になりな、おまえら」
「奴隷?」
「ああ、そうだ。おまえらみたいな雑魚種族でもまあ、弾除けくらいにはなるだろうからな。これから北の亜人共と戦争になるかもしれねぇから数が欲しいんだよ」
「それなら、対等の関係でも――」
そう言った瞬間、オーガは背負っていた剣を振り下ろしてきた。
俺の眼前でぴたりと止まる。
「今のにも反応できねぇよな雑魚たちとオレらが対等? 笑わせるなよ?」
反応はできていた。ただ、どうせ止めるのは分かっていたので防御しなかっただけだ。
オーガたちはどうやら歩み寄るということはまったくないようだ。
「返事はまたあとで聞きに来てやる。拒否するなら全員殺してやる」
「そうか。分かった。……少しみんなと話をしたい。あと五回陽が昇るまで待ってくれないか?」
別に日付に関してはいつだってよかった。
その前に俺たちが襲撃するからだ。
「ああ、いいぜ。まあ、死にたくなかったら従っておいたほうがいいぜ?」
悪い顔をしたルガーは仲間たちを引き連れ、村を去っていった。
「……気にくわない男だな」
オルフェが去っていったルガーの背中へと視線を向けていた。
その時だった。ひょこりと日陰から姿を出し、ヴァンニャが声を上げる。
「お、オーガたちは去ったのかの?」
そう言ったヴァンニャに頷きながら、俺たちは襲撃のための準備へと戻っていった。
「さて、予定通りの三日後だ」
すでに準備を終えた亜人たちへ俺は視線を向ける。
皆が武器を持ち、いつでも戦える準備ができている。
「これから、脅威となるオーガたちと戦う! 皆、準備はいいな!?」
『おおお!』
俺の宣言に合わせ、皆が声を張り上げる。
それから俺はリビアとオルフェへと視線を向ける。
「それじゃあ、二手に分かれる。事前に話していた通り、オルフェにこれからの指示は任せる。オルフェ、頼んだ」
俺がそう言ってオルフェを見ると、彼はこくりと頷いた。
「分かっている」
「俺たちは先に内部に潜入する。門を開け、魔法を打ち上げたタイミングで攻め込んできてくれ」
「ああ」
オルフェに指示を出した後、俺はスフィーとヴァンニャを連れて以前のようにアサシンと忍び足術を使用した。
オーガの拠点に空から潜入した。
時刻は夕方だ。
まだ宴会は始まっていないようだ。
この時間に潜入した理由は簡単だ。食事に毒を混ぜるためだ。
オーガたちの居場所を感知術で把握する。
まだオーガたちはまばらだ。
村内にはあちこちにオーガがいるが、俺たちに気付いている者はいない。
まっすぐに食堂へと移動する。食堂内には亜人がいるようだ。
入り口の扉は半開きであり、中に入る分には問題ないようだ。
周囲にオーガがいないのを確認してから、扉を開けて中へと入る。
感知術で把握していた通り、中には二名のオーガがいた。
忙しい様子で料理を作っているオーガたちへと近づき、俺はその鍋へと視線を向ける。
鍋は火にかけられていて、弱火でことこと煮込まれている。
オーガたちは別の料理を作るために、鍋は放置されている。
これに毒を仕込む。スフィーに頼むと、スフィーが鍋に顔を近づける。
それから口から何かを吐き出した。
その液体が鍋に入っていくのだが、料理をしているオーガたちはもちろん気付かない。
アサシンと忍び足術のおかげだな。
毒を仕込み終えた俺は、それからしばらく内部で様子を伺う。
次にやることは、みんなの首輪を解除することだ。ただ、それを行うタイミングは多少の注意が必要になる。
亜人たちが捕まっているはずの建物へと向かう。
ちょうど、今日の仕事を終えたと思われる亜人たちが中へと入っていく。
ただ、そのうち数名は食堂の方へと向かう。
以前もそうだったが、宴会での給仕を任されていたな。
毒は飲んでからすぐに効果があるわけではないが、だとしてもあまり時間的な余裕はないな。
俺は捕まっている亜人たちの建物へと入り、スキルを解除してからゴルガに声をかける。
「ゴルガ、久しぶりだな」
「クレスト、良かった。来て、くれた」
「当たり前だ。……それで、ここに全員もう集まっているのか?」
「ああ、いる。ただ、何人かは給仕で外に、出ている」
「ああ、それはさっき見た。それなら、ここにいる全員分の奴隷の首輪は解除していく準備はいいな?」
「あ、ああ」
俺はすぐに亜人たちを集め、首輪を解除していく。
次々に首輪が外れていき、亜人たちは涙をこぼして喜んでいる。
「……す、凄い」
「こんなあっさり解除できるなんて……」
亜人たちが喜ぶ中、こちらへと歩いてきたカトリナがすっと頭を下げた。
「クレスト、ありがとう」
「いや、まだ作戦は途中だ。感謝は全部終わってからにしてくれ。俺はすぐに門の解放に向かう。みんなはここで待機してくれ」
「分かった」
カトリナにそう指示を出してから、俺はすぐに門がある方へと向かう。
門の方に向かうと、ちょうどオーガたちの交代の時間のようだった。
数は二体だ。
その後を追いかけていくと、門が解放される。
そこで、外で待機していた二名のオーガたちと交代のオーガ。合計四人のオーガが一か所に集まった。
「やっと交代かよ。おそくねぇか?」
「そんなことねぇよ。ほら、さっさと門しめ――」
俺はその場で即座に一体の首を斬り飛ばした。
鮮血が宙を舞う。
同時、スフィーが体を鋭利なものへと変化させ、一体の喉を突き刺した。
さらに残り二体。
オーガたちが悲鳴をあげるより先に、俺たちはそれぞれを仕留めた。
「スフィー、ありがとな」
剣についた血を払いながら、俺はスフィーを見た。
「いえ、このくらいは問題ないわ。クレスト、さすがに鮮やかね」
「いや、それより。すぐに食堂に向かうぞ。そろそろ、毒が効き始めるはずだよな?」
「ええ、そうね。行きましょう」
俺はスフィーとともに食堂へと向かう。
そこでは、オーガたちが倒れていて――
「おい! てめぇら! 何かしやがったか!?」
オーガの一人が声を荒らげ、ドリアードの腕を掴んでいた。
数は四体か。