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第43話



 感知術を発動し、周囲に気配がないのを理解したうえで俺たちは外へと出た。

 鍵術で再度鍵を閉めなおせば、俺たちの痕跡は何も残らない。

 外に出て、感知術を改めて発動した俺は、一つの建物に亜人たちの多くの気配があることに気付いた。


 恐らく、そこで宴会が行われているのだろう。

 とりあえず俺は、村全体を一通り歩いて回るつもりだった。


 俺は地図化術が使用できる。ただし、一度移動した範囲のみだ。

 ここでオーガの村全体を歩いておけば、作戦も立てやすくなるし、拠点に残してきた皆への情報共有も行いやすくなる。


 そうして、ぐるりとオーガの村を歩きながら、オーガたちの数を数える。


 オーガの数は百ほどか。


 感知術を使用し、建物内で眠るオーガたち含めての数はおおよそ100だ。

 やはりかなり多い。


 意図的に避けていた一番騒がしい建物の前に戻ってくると、さっきと違って入り口の扉は開け放たれていた。

 入り口の前を通るとむわっとした熱気が顔を襲う。


「臭いわね」


 スフィーのそんな声が漏れる。完全に同意だ。

 ヴァンニャも鼻を押さえながらも、中の様子を窺うように顔を伸ばしていた。

 ヴァンパイアたちが気になるのだろう。


 俺もヴァンニャについていくようにして、入り口から中をのぞく。

 魔道具による明かりのついた部屋には、たくさんのオーガたちが席に座り、宴会を楽しんでいた。


 いくつもの料理も並んでいるし、やはり料理系のスキルを持つオーガでもいるのかもしれない。

 奥の方では、ヴァンパイアたちが忙しない様子で給仕を行っている。

 皆小柄だ。


「おい、おせーぞ! じゃんじゃん酒持ってこいよ!」


 オーガが怒鳴りつけると、ヴァンパイアたちは今にも泣きだしそうな顔で奥の方へと消えていった。

 それからオーガたちは再び顔を合わせる。


「なあ、首領! そろそろ南の方にも攻め込もうぜ!」


 首領?

 オーガの一人が赤い顔でそう言って、ある方を見た。

 そちらには、他のオーガたちよりも一回り大きな男がいた。

 壁すら容易く貫きそうな鋭い角を持つその男は、オーガに対して笑みを浮かべていた。


「落ち着け。南の方にいるワーウルフ共はさして脅威じゃねぇが、さらに南に行けば人間共がいる」

「人間なんざ、それこそ大したことねぇんじゃねぇか?」

「いや、人間たちは頭を使える。奴らが持つ武器などは脅威になりうるかもしれない。あまり簡単に南に踏み込むのもな」

 

 オーガの首領は、思っていたよりも頭が回るようだ。

 木でできたグラスを揺らし、酒をあおる。


「つってもよ。そろそろ奴隷を増やしてよ、さらにぱーっと楽しい遊びでもしてぇんだよ」

「ははは、そうだな。だから、明日にでも南のワーウルフ共に顔くらいは見せに行こうと思っているさ。力で脅せば、奴らなんざすぐに言うこと聞くだろうからな。そうなりゃ、派手な争いも起きず、人間たちに気づかれることもないだろうからな」


 ……なるほどな。

 南の地で派手に動けば、人間を刺激する可能性があるからこれまで南に来なかったのか。

 ただ、オーガたちならそこまで人間を恐れる必要もなさそうだけどな。


「た、ただいまお持ちしました」


 ヴァンパイアがオーガの首領に料理の載ったトレイを渡す。

 オーガの首領はちらとヴァンパイアを見てから、そのトレイを受け取り、そしてヴァンパイアの頭を掴んで、テーブルにたたきつけた。


「あう……」

「遅すぎるぞ、奴隷。おまえたちは、オレたちの奴隷なんだ。言われたことは即座にこなせ。分かったな?」

「……も、申し訳、ございません」


 ヴァンパイアは涙をこらえるように唇をぎゅっと結び、首を縦に振っている。

 オーガたちはけらけらとその様を見て笑っていた。


 なぜ、笑えるんだ。

 俺の中で怒りが沸き上がる。ただ、それ以上にヴァンニャが怒りに震え、今にも飛び出しそうだったために、いくらか冷静になれた。


「ヴァンニャ、今は仕掛けるタイミングじゃない。こらえてくれ」

「……分かって、おるんじゃよ」


 オーガたちの食堂を眺めていても、怒りが沸きあがるだけだろう。

 俺たちはその場を離れ、空を見上げる。

 もう、この拠点でやることもない。


「ヴァンニャ、もう脱出しようと思うんだが……またお願いできるか」

「うむ、任せるのじゃ」


 ヴァンニャに飛んでもらうのが、脱出としては一番だ。

 お願いした通り、ヴァンニャはすぐに翼を広げる。

 俺たちを抱えるようにして、ヴァンニャは翼を動かす。


「クレスト、当日の具体的な行動は決まったのかしら?」


 スフィーがひょいと顔だけを作り、こちらに向けてきた。


「さすがにすべての相手をしていたら大変だからな。宴会の食事にスフィーの毒を混ぜて、数を減らそうと思っている」


 全員が食事をしてくれるとも限らないが、仮に数名でも倒せれば十分だ。


「ふふ、私の出番というわけね。とびっきりの毒を用意してあげるわ」

「ああ。頼んだ」


 そんな話をしていると、ヴァンニャがちらとこちらを見てきた。

 

「なあ、クレストよ」

「なんだ?」

「みんな、助け出せるかの?」

「心配するな。絶対に助けだす」


 俺がそう宣言すると、ヴァンニャは頬を緩めてくれた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] こうまで思い切りがいいと後腐れもない [気になる点] 奴隷制もいいなコミュ障だから俺は耐えられないけど [一言] オーガかわいそう
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