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第38話

 陽は落ち、暗躍するには最適な時間帯となった。

 俺はヴァンニャからもらっていた携帯用の魔石に魔力をこめる。

 ぼうっとした明かりがつき、俺の手元で光った。

 それから俺は後ろへと振り返った。

 俺の後についてきていたリビアが、そこにはいた。少しだけ不安そうに、けれど彼女は俺と目が合うと柔らかく微笑んでくれた。


「村の出口まで、お見送りします」

「別に、そこまでしなくても……」

「させてください。それくらいしかできませんから」

「……分かったよ」


 そこまで言われてしまえば、俺としては止めることもできない。

 小さく息を吐いてから、俺は彼女に頷いた。

 共に村内を歩いていたのだが、思っていたよりも村内に人影はあった。

 それは他の亜人たちだ。


 俺たちの方へと近づいてきた彼らは、不安そうな表情で口を開いた。


「クレスト様。気をつけてください」

「……ええ、オレたちにとってあなたは大切な人なんです。絶対に生きて戻ってきてくださいね!」

「……ああ、分かっているよ」


 まさか、そこまで言われるとは思っていなかった。彼らの真剣な眼差しに、俺はこくりと頷いてさらに歩いていく。

 村の出口付近につくと、明かりを持ったオルフェがいた。


 他にも、オルフェの周囲に亜人たちが集まっていた。……たぶん、さっきまでの亜人たちと合わせて、村全体の亜人が集まっているんじゃないだろうか。


 そんな大層な見送りなんてしなくても……。

 何もなければ、それこそ数時間で戻ってくるようなことなんだ。

 そうは思っていたのだが、彼らにとって俺は大事な首領なんだろう。


 俺はそこまで首領としての自覚はなかったが、首領が積極的に敵地に少数で乗り込むのはやめたほうがいいのかもしれない。


 彼の近くでは、出発の準備を整えたヴァンニャとスフィーの姿もある。


 ヴァンニャの表情は心なしか険しい。緊張しているのだろう。彼女を安心させるためにも、俺は努めて笑顔を浮かべた。


「準備は大丈夫だな?」

「ああ、もちろんじゃ。それとこれ。奴隷の首輪になるんじゃ」


 ヴァンニャが小さな手で差し出してきたものは、一つの首輪だ。

 手に持ってみると、しっかりとした重みがある。


「石でできているのか?」

「まあ、無難なものだとそうじゃな。より頑丈にしたい場合は魔鉱石なども使う場合はあるんじゃが、わしの加工技術じゃとこれが限界じゃ。やるならゴーレムたちに頼むしかないの」

「……なるほど」


 ゴーレムが外壁を作ったと言っていたし、石に関する加工技術はかなりのものなんだろう。


「使い方はどうなっているんだ?」


 首輪はすでに輪の状態になっているため、これを誰かにはめることはできない。

 するとヴァンニャが手を差し出してきたので、首輪を渡す。

 彼女が魔力をこめると、首輪の一部分から開いた。

 

「これで一応はめられるんじゃよ」

「……なるほどな」


 渡された首輪を俺は自分の首につけてみた。すると、首輪はがちっとしまり、動かなくなる。

 それによって、周囲はにわかに騒がしくなる。

 俺がわざわざ首輪なんてつけたものだから、心配しているようだ。

 

「これで鍵はかかっているのか?」

「そうじゃな。ただ、鍵を用いた穴を作るほどの技術はなかったから魔力式の鍵にしてあるんじゃよ」

「みたいだな」


 奴隷の首輪についての知識もついてきたな。


「相手の首につけ、主人と奴隷両方の魔力を込める必要があるんじゃ」

「両方の?」

「そうじゃ。つまりは、基本的に奴隷の首輪を使用するには相手に納得させる必要があるというわけじゃ。……まあ、力で脅せばいくらでも可能なことではあるんじゃがな」


 そういうことか。ゴーレムやドリアード、ヴァンパイアたちが納得して奴隷になったはずがない。

 オーガたちが無理やりに従わせ、奴隷の首輪をつけたのだろう。


 俺は自分の首につけた奴隷の首輪へ鍵術を発動する。

 魔力を消費すれば、奴隷の首輪は簡単にとれた。

 すると驚いたようにヴァンニャが目を見開いた。


「そ、そんな簡単に開けられるなんて……」

「とりあえず、俺のスキルで対応可能みたいだ。ヴァンパイアたちが作った奴隷の首輪もこのくらいのものだよな?」

「ああ、そうじゃ。わしがもっとも魔道具の作製に関しての技術はあるから……たぶん、問題なく開錠できるはずじゃ」

「それなら、よかった」


 わざわざ鍵を解除するための手間が省けるというものだ。


「それじゃあ、スフィー、ヴァンニャ。出発しようか」

「ええ、楽しみね」

「……楽しむんじゃないんじゃよ」

「いいじゃない。なんだかドキドキするじゃない? バレたらどうなるんだろうって」

「殺されるかもしれないんじゃからな」

「ふふ、その緊張感、たまらないわね」


 スフィーは恍惚とした笑みを浮かべ、体をよじらせている。

 スフィーは相変わらずだな……。そんな目で見ていると、彼女は俺の方に体を寄せてきて、腕に抱き着いてくる。

 それを見て、すかさず目じりを釣り上げたのはリビアだ。


「近すぎますよスフィー様」

「だってこうしないとアサシンのスキル発動しないし」

「……」


 正論ではある。リビアはむっとしながらスフィーをじっと睨んでいたが、スフィーはここぞとばかりにさらに体を寄せてくる。


「スフィー、まだ別にアサシンのスキルは使わないから大丈夫だ」

「万が一があるじゃない?」

「感知術があるからそれも問題無い。ほら、離れてくれ。歩きにくいから」

「んもー」


 スフィーをうまくあしらった後、ヴァンニャとスフィーとともに村の外へと向かって歩き出す。

 背後から、声が上がった。


「クレスト様、お気をつけてください!」

「何かあれば、俺たちいつでも助けに行きますから!」


 振り返ると、皆の心配そうな顔が見えた。

 これだけの仲間たちが、俺の帰りを待ってくれている。

 そう思うと嬉しかった。上界にいたときは、誰も俺のことなんて気にかけてくれなかった。

 ここが、今の俺の居場所だ。


「必ず戻ってくる。みんなも、村を頼むな」

「任せてください!」

「こっちの心配はしなくて大丈夫です!」

「命に代えても、守り抜きますから!」


 静寂に包まれた森の中に、彼らの声が響く。

 また彼らと会うために、俺は改めて決意を固めなおし、オーガの村へと向かって歩き出した。


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