第37話
俺たちは外へと出て、普段亜人たちが利用している訓練場へと来た。
広い空間を確保しているだけで、特に何か訓練するための道具が置かれているわけではない。
強いてあげるのなら、刃のない剣がいくつか置かれているくらいだろうか。
完全に訓練用で、刃を潰した剣が箱に乱雑にしまわれていた。
俺たちはそれぞれそこから一本を借りた。
オルフェ、リビアが並ぶように立ち、俺も二人から少し離れてその前に立った。
すると、周囲の亜人たちがざわつき始めた。
「く、クレスト様とはいえ、さすがに二人相手はきついんじゃないか?」
「そう、だよな? オルフェ様もリビア様も、オレたちじゃまるで歯が立たないくらい強いしな」
ワーウルフやゴブリンたちに訓練をつけているのは、主にオルフェとリビアだ。
この場にいる亜人たちがもっとも、オルフェたちの能力を理解しているだろう。
それは俺も理解している。各種族のリーダーたちの戦闘能力がずば抜けていることはな。
ただ、それでも。
アサシンスキルが機能すれば、俺は負けないとも思っていた。
「それじゃあ、始めるとしようか。オルフェ、リビア。自由に攻めてきてくれ」
「それなら……いかせてもらおうか!」
オルフェが声を上げ、こちらへと迫る。その体の後ろに隠れるようにリビアも動いていた。
俺は後退しながら、アサシンと忍び足術を発動する。
その瞬間だった。
「ど、どういうことだ?」
オルフェがぴたりと止まり、周囲をきょろきょろと見まわしていた。
見失ったかのような反応は、オルフェだけではなく、リビアもだ。
――完全に姿が見えていないようだった。
レベルマックスになったことで、さらに隠れるための能力が向上したということか。
まさか、目の前で敵意むき出しなのに隠れられるなんてな。
そう思っていた時、リビアがこちらへと迫ってきた。
そして、剣を振りぬいてきた。俺はそれを横に転がってかわす。
足音や俺の歩いた痕跡などもまるでない。
リビアは目をこらすように細め、そして何やら目を閉じている。
「リビア、分かるのか?」
「いえ、断定はできません。ただ、自分自身の体内の魔力を高め、意識をすれば――うっすらと何かがいる、かもしれないくらいには感じられました」
「そう、なのか?」
剣術指導をしたときに、魔力に関しては説明している。
リビアとオルフェは必死に魔力を高めていたが、俺はその真逆に体内の魔力をより落ち着かせていった。
彼らがアサシンスキルで隠れている俺の魔力を探っているというのなら、俺はその逆をすればいい。
そう考えたのだが、これは大成功だったようで、リビアもオルフェも完全に困惑していた。
俺はゆっくりと近づき、そして軽く剣を振るった。
その一撃はオルフェの左半身へと当たる。びくっとオルフェが驚くと同時、剣を振りぬいてきた。
凄まじい反応だ。しかし、すでにそこに俺はいない。
これで十分、スキルの使いやすさは理解できた。
俺は発動していたスキルたちを解除し、オルフェとリビアを見た。
「ありがとな。十分スキルの性能が分かったよ」
「おまえな。そのスキル、反則すぎるぞ」
「みたい、だな。まさか視界に入っていても隠れられるとは思わなかったよ」
「……本当にな。目の前でいきなり姿が消えたんだから驚いたよ」
俺が苦笑していると、リビアが口を開いた。
「ですが、それだけのステルス能力があるのなら、万が一の場合も問題はなさそうですね」
「そうだな」
リビアの言う通り、よほどのことがなければ問題ないだろう。
そう思えるほどに、このスキルは優秀だ。
俺がそう思っていると、オルフェが剣を構えた。
「今度は、スキルはなしで戦ってみないか?」
「そうだな。少しやるか。スキルなしなら一対一でいいか?」
「ああ、そうだな。リビア、下がってくれ。オレ一人にやらせてくれ」
好戦的に笑みを浮かべるオルフェ。
どうやら俺と戦いたかったようだ。
笑みを浮かべる彼に、俺も剣を構えると、リビアが苦笑した。
「あまりやりすぎないでくださいね、お二人とも」
そう言ったリビアは俺たちから離れた。
俺はオルフェとともに剣を打ちあった。