第29話
村へと戻った後、皆で俺の家へと集まった。
ここで会議をするにはさすがに暗い。
とはいえ、今日拠点を見てきて方針は固まっていたので、それについてくらいは話しておきたかった。
その時だった。ヴァンニャがぽんと手を叩いた。まるで何かを思いついたかのような動きと表情だ。少しばかり気の抜ける音が響いた後、ヴァンニャはポケットから一つの魔石を取り出した。
魔物から回収した時とは色が変わっている。綺麗な透明色の魔石。芸術品として発売したらそれなりに高値で売れそうだ。少なくとも、鑑定を使用しないで見た俺にとっては、宝石か何かと勘違いしてしまう程度には美しい。
「これを明かりとして使うといいんじゃよ」
「それは何だ?」
「わしが造った光魔石じゃよ。明かり用の魔石じゃな。部屋の天井などに設置して――」
ヴァンニャが立ち上がり、翼を動かして天井付近まで上がった。
そこで彼女は、少しばかり動いた後、魔石を天井にくっつけた。俺たちの前まで戻ってきた彼女は、椅子に座りなおした。
「使い方は簡単じゃ。あの魔石に魔力をぶつければいいんじゃ」
ヴァンニャは先ほどの自分の発言を実践するように腕を持ち上げた。
彼女の小さな手から魔力が放出される。その魔力を吸い込んだ光魔石は、ぱっ! と一瞬目を覆いたくなるほどの明かりを放ち、それから光を放ち部屋を照らしてくれる。
まるでそれは太陽のような明るさだ。昼と勘違いしてしまいそうなほどに、明るい。
リビア、オルフェ、スフィーは感激した様子で光魔石の方に視線を向けている。
俺は喜びよりも懐かしさを感じていた。貴族として暮らしていた時は、この魔道具による人工的な明かりはごくありふれたものだったからだ。
「これは便利だな。明かりを消すときは魔力を取り払えばいいのか?」
「おお、さすが人間じゃな。その通りじゃよ」
使い方も上界にいたときと同じだ。
これなら、夜であっても問題なく活動できるだろう。
「とりあえずいくつか作ってあるんじゃ。自由に使ってくれていいんじゃよ」
ヴァンニャはごろごろと魔石を取り出し、テーブルに並べる。その数は十個だ。
「分かった。ただ、どこで誰に見つかるか分からない。オーガという脅威を取り除くまでは、村内の設置は制限した方がいいかもな」
オーガの拠点の特定が容易だったのも、明かりがあったからこそだ。
彼らは自分たちがこの周辺で最強だという自負があるから、夜だろうが平気で明かりをつけているのかもしれないが。
「そうじゃな。まあ、各家につけて困ったときに使うくらいにとどめておいた方が良いかもの」
「ああ、そうだな。さっきの光魔石だけど、あの一瞬の光を利用して目つぶしとかにも使いたいんだが、そういった改良は可能か?」
ぴかっと光ったあの明かりの強さ。直視すれば、一時的に視界を奪うことは可能だろう。
俺が潜入するときなどに、もしも見つかってしまったら使えるかもしれない。先ほどの設置を見て、俺はそんなことを思っていた。
「おお!? そんな発想はなかったんじゃ! それは面白そうじゃな、やってみよう!」
ヴァンニャはうきうきとした様子だ。
できるかどうかは分からないが、もしもできたらいい武器になりそうだ。
他にも何かないだろうか? そんなことを考えていると、リビアがこほんと咳払い。
「クレスト様。色々考えるのはいいですが、まずはこれからの作戦について話しましょう」
「そ、そうだったな」
いけない。
ヴァンニャの魔道具について考えるのはまた後だな。
俺も一度咳ばらいをしてから、皆の注目を集める。しんと静かになったところで、俺は口を開いた。
「まず、さっきも説明したが、俺がオーガの拠点に忍び込む。ただ、この時はあくまで情報収集だ。攻め込むのは、二度目の潜入時だ」
「二度も潜入するのか?」
驚いた様子でオルフェがそう問いかけて来た。
「ああ。一度目の潜入ではあくまで情報収集に徹する。オーガの数や拠点の配置。敵のリーダーがどこにいるのか……とかだな。また、捕まっている亜人たちの数もだ。そこで、できればそれぞれの種族のリーダーとも話したいと思っている」
「……まさか」
「そうだ。救出作戦に協力してもらえるかどうかだ。ついでに、俺たちと同盟、あるいは仲間になってもらえるかについてもだな」
ドリアードやゴーレムたちが協力してくれれば、さらに拠点の守りも強固なものになるだろう。
俺は続けて口を開いた。
「それで、一度目の主な潜入調査は終了だ。ここからは憶測で話を進めるが、捕まっている亜人たちが協力してくれるのなら、二度目に俺が潜入した時に彼らにも協力して暴れてもらう。無理そうなら、またそこから考えるつもりだが……まあやるとしたら、俺が内部に潜入してオーガの首領を暗殺するのが手っ取り早いと思っている」
アサシンさえ使えば、恐らくそれは容易だろう。
俺の計画を伝えると、皆は納得した様子で頷いてくれた。




