第27話
「え、そうなんですか?」
「人質がいる以上、こちらから強気には攻め込めないからな」
俺がそういうと、ヴァンニャがすっと目を伏せた。
「そうじゃな。迷惑をかけるんじゃ……」
ヴァンニャが気にしてしまった。これはいけない。
「別にそういうつもりで言ったんじゃなくてな……。とにかく、やるとしたら内側から破壊する。人質を解放して、中から外を攻め、その勢いのまま外から中まで攻める」
「そこまで言うということは、何か具体的な策があるのですか?」
リビアの問いはもっともだ。しかし俺は、それに対して笑顔とともに頷いた。
「ああ。俺が侵入して、人質の解放とあの門の解放を行う」
「なに!?」
驚いたように声を上げたのはオルフェだ。ヴァンニャもスフィーも目を見開いている。
まだ俺が手に入れたアサシンのスキルについて、みんなには話していない。
スキルの詳細まで知っているのは、リビアただ一人のみだ。
そのリビアも一瞬驚いた様子だったが、すぐに俺のスキルを思い出したようで考え込むように顎に手を当てている。
「き、危険すぎるぞクレスト! 確かにおまえは強いが、オーガに囲まれればどうなるか分からないぞ――!」
考えなしの発言だとオルフェは思ったようだ。全力で止めてくるが、彼に対して笑みを返した。
「大丈夫だ。俺が新しく手に入れたスキルならな」
「……なに? そ、そういえば、ガチャが更新されるとか何とか話していたな」
「ああ。それで、新しいスキルを手に入れたんだ」
「ど、どんなスキルなんだ?」
口で説明するよりは体験してもらった方が早いだろう。
俺はオルフェの目の前で、アサシンを自身に付与した。
その瞬間、オルフェは驚いた様子でこちらをじっと見て来た。
「く、クレストそれは……?」
どうにかかろうじて、と言った様子で俺を認識しているオルフェ。
ちらと見ると、ヴァンニャとスフィーも驚いている。
「アサシンというスキルだ。今使ったみたいに、存在を希薄化させるんだ。今は目の前で使用したから認識できているが、たぶんみんなの視界から消えれば認識さえ困難になるはずだ」
俺がそう言うと、オルフェが鼻をひくつかせた。
「確かに……そうだな。臭いも、まるでしない」
臭いも、そうなのか。新事実発見に俺も少し驚いていると、
「そうね……クレストの体液がまるで感じられないわ」
スフィーもそう言った。た、体液? それが何かは良く分からないが、アサシン状態ならばありとあらゆる探知から逃れられるということで間違いないだろう。
「これを使って侵入すれば、問題ないだろ?」
「確かにそれなら、クレストが内側から破壊する、というのも無理な話ではない、な。とはいえ、危険は残るが」
「まあな。ただ、これを使えば俺が内側で捕らわれている亜人たちを解放して、内部から暴れることも可能だ。その混乱の際に、俺が門を解放し、中と外から攻める。これが俺の考えていた作戦だ」
作戦、といえるほどたいそうなものではない。
ただ、皆は俺の作戦を聞いて納得してくれた。
「確かに……成功すれば相手は大きく混乱するな」
「……混乱した状況でなら、こちらの奇襲も成功しやすくなりますね」
そう思っていると、スフィーがじっとこちらを見て来た。
「ねえ、クレスト。クレストのアサシンの有効範囲ってどのくらいなの?」
「え? どういうことだ?」
「例えば、服とかは範囲に含まれているの?」
「……あー、そういえば。そうだな。たぶん、入っていると思う」
俺の服についた臭いなども一切しないのならば、アサシンによる効果は俺の身に着けているものにまで影響しているのだろう。
「それなら、私や他のスライムたちを身に着けた状態でも効果は発動するの?」
「……発動、するかもしれないな」
以前、スフィーが試した俺の衣服に融合する状態。
あの状態にも効果があるのなら、スフィーと一緒に行動することも可能だ。
「なら、試してみましょう。そうすれば、スライムたちをまとめて身に着けていけば、内部での戦闘でも使えるわ」
まとめて、か。
スフィーに融合してもらった時も、別に重みはほとんど感じなかった。
彼女が言うように、スライムたちを全員連れて行くことも可能か。
「そう、だな。珍しく、賢いな」
彼女の賢さの数値は恐ろしいまでに低かったが、まさかこんなことを提案してくれるとは。
もしかしたら彼女の賢さが成長したのかもしれない。
ステータスを見ようとした時だった。
「ふふ、クレストとくっつけるためのチャンスを常日頃から伺っているからね」
そんな理由かい。期待して損した。
がくりと俺が肩を落としている間に、スフィーは俺の服へと変化した。
準備万端だ。アサシンのスキルを使用してみるか。