第26話
明かりの中を目をこらすようにして見ていく。
オーガたちの拠点は木製の家が立ち並んでいる。
ぽつりぽつりと明かりもある。
下界に降りてから様々な村を見てきた。
ゴブリン、ワーウルフ、スライム。
それら三つの村とは根本的に技術レベルが違った。
今でこそ、俺のスキルのおかげで俺たちの村は発展しているが、オーガの村と同じ程度だ。
「明かりは、火じゃないよな? 魔法か?」
「あの明かりは魔道具で用意したものじゃな。わしの仲間たちに作らせたもののはずじゃ」
苦々しそうな表情でヴァンニャはそう言った。
大きな拠点の周囲は、岩の壁によって覆われている。
上界の王都などと同じような大きな壁だ。あれらは生半可な魔物が攻撃してもびくともしないはずだ。
明らかに、あの壁に関しては俺たちの村を遥かに超えた技術力だ。
「あの壁は誰が造ったんだ?」
「ゴーレムたちじゃ。ゴーレムたちは石に関する製造スキルを持っているようじゃからな」
「……それじゃあ、木々の家は?」
「それらはドリアードじゃ。そして、わしらヴァンパイアが細かい魔道具を作らせられ、こうしてあの村は出来上がったんじゃ」
なるほど、な。複数の種族と協力――いや、一方的にこき使うことであの村は完成しているのか。
立派な村だ。俺たちの村よりもずっと。
まず外壁となる石の壁が、強固すぎる。アレを正面から破るのは不可能だ。
門だって、石でできているため、並大抵の攻撃では破壊できない。
やるなら、やはり内側から破壊する必要がある。
俺は目をこらし、鑑定などを駆使して門付近にいたオーガを発見する。
身長は二メートルほどだ。鋭い角を持ち、体もがっしりとしている。
手に持っていたハンマーのような武器。あの体で振りぬかれ、直撃でもしたらひとたまりもないのではないだろうか。
先ほどまでの空気は霧散していた。
オルフェやリビアたちの表情も険しいものへと変わっている。
「……やはり、種族として奴らは一段上にいるな」
「そうですね。正面から戦うのは……得策ではないでしょう」
「ただの攻撃だけならいいんだけど、魔道具とか使われると厄介よねー」
スフィーがのん気な様子でそう声を上げる。それにヴァンニャが反応した。
「もちろん、奴らの武器にはわしの仲間たちも手を貸しているんじゃ。スライムだからといって油断しない方がいいんじゃよ。わしらの魔道具技術は凄いんじゃからな」
「そうなのね。偉い偉い」
スフィーはヴァンニャの背中に乗るようにして、頭をなでなでしている。
「子ども扱いするんじゃない!」
「ふふ、いいじゃない。だってあなたまだ若いでしょ? あなたの肌、リビアよりぴちぴちだし」
「私に対して変な疑惑を生むような発言しないでくれますか?」
リビアがスフィーをじっと見る。
……リビアって何歳なんだろうか? 見た目通りの年齢じゃないのか?
「なあ、オルフェ。おまえは何歳なんだ?」
「50くらいだったな」
「え? そうなのか?」
「とはいえ、人間と亜人は寿命が違うからな。オレとおまえの体的な年齢はそうは変わらないよ」
「そうなんだな」
亜人は長生きなんだ。そういえば聞いたことがあったかも。
亜人は長寿のためか、中々子どもが生まれないのだとか。そういう種族的な進化をしているそうだ。
「種族によっても違ってくる。特にエルフなどは長寿と聞くだろう?」
「なるほど。リビアは何歳くらいだと思う?」
「オレと同じくらいじゃないか? だから、体的にはクレストとそう変わらない年齢のはずだ。安心して大丈夫だ」
「何が、安心なんですかね?」
スフィーと話していたはずのリビアが、こちらへとやってきた。
頬を膨らませ、オルフェを睨みつける。オルフェは愛想笑いを浮かべ、それから俺の後ろへと隠れた。おい。
「り、リビア。オルフェは悪くないぞ? 俺が勝手に聞いただけだからな?」
「……別にそれは構いませんよ。私は今60くらいですね。あまり亜人は年齢を気にしませんので。寿命的には150歳程度になりますので、まあ人間の年齢でいえば20歳くらいですね」
確かにそうだな。我が国の平均寿命が50歳とちょっとくらいだったはずだ。
でも、リビアもオルフェも、かなり年上なんだな。
そう考えると、今までとは接し方を変えた方がいいのかもしれない。
「もう、私の年齢はいいですよね? というかどうしてこんな話になったんですか? 原因はスフィーですよね」
「私じゃないわ。ちなみに私はまだ40よ。ふふ、ぴちぴちよ。スライムだけにね」
それは物理的な意味でな。
俺は小さくため息をついてから、話を戻す。
「さっきリビアは正面からやりあったら危険と言っていたけど、元々、正面から戦うつもりはないんだ」
俺がそういうと、リビアが目を見開いた。