第25話
夜になり、俺は必要最低限の人数を集めた。
リビア、オルフェ、スフィーの三人だ。
彼女らにオーガの拠点を一緒に見てもらい、皆に情報を共有してもらうつもりだ。
「それじゃあ、ヴァンニャ。案内を頼む」
「うむ、分かっているんじゃ」
ヴァンニャを先頭に俺たちは夜の森を移動していく。
想像していたよりも暗い。下界に降りたときは確かにこのくらいの明るさであったな。
もう二か月も前のことになる。
あの時は魔物たちに怯えていたものだ。今は、俺の周りにリビア、オルフェ、スフィーという力を持った人たちがいる。
まったくもって、恐怖などはない。
ただ、あまり暗闇に目は慣れていない。
目に魔力をこめれば、多少は視界もマシにはなるが、本当に多少だ。
俺はちら、とすぐ近くを歩いていたリビアを見る。
亜人の皆は、夜目が利くようでまったくもってこの暗闇を苦にしている様子はない。
しかし、リビアはやけに俺に近いところを歩いている。俺の右側で腕がくっつきそうなほどの距離だ。
「リビア、どうしたんだ?」
「な、何がですか?」
素っ頓狂な声を上げ、驚いた様子でこちらを見るリビア。
その過剰ともとれる反応に首を傾げていると、スフィーが近くへとやってきた。
「リビア。あなたもしかして暗いの苦手なの?」
「に、苦手ではありませんよ!」
「あっ、あっちに人魂が!」
「ひぃ!?」
リビアが可愛らしく悲鳴をあげ、俺の腕に抱きついてきた。
その様を見てスフィーがケラケラと笑った。
もちろん、人魂なんていやしない。すべて、スフィーがついた嘘である。
それを理解したリビアが、むっと眉間を寄せる。
俺から離れた彼女は、その勢いのままにスフィーへと近づく。むっと頬を膨らませ、表情は険しい。
「スフィー様……? ここで両断してもいいんですよ?」
とても物騒なことを言うリビアだったが、スフィーはあっけらかんとした様子だった。
「ふふふ、そんな怯えた剣で何ができるのかしら?」
スフィーが挑発するようにそう言った。
……よく見れば、確かにリビアの体は震えていた。
もしかして、この暗闇に怯えているのは確かなのかもしれない。
リビアはしばらくスフィーを睨みつけてから、ぷいっと顔をそらして歩き出す。
俺もその隣に並ぶ。
「リビア、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ? べ、別に怖くなんてアリマセンカラ」
若干棒読み気味になっていた。
……絶対リビア、怖がっているだろ。
リビアが困っているのなら助けたい。そう思った俺は彼女の手を取った。
するとリビアが驚いたようにこちらを見てくる。彼女に対して、俺は微笑みかけた。
「リビア、手つないでいかないか?」
「そ、それは、さすがに情けないと言いますか……」
「いやいや、別にそういう意味じゃなくてな。俺が怖いからさ。ほら、いいだろ?」
リビアはどうにも隠したい様子なので、あくまで俺が困っているから、という空気を出した。
すると彼女は一瞬目を開いた後、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます、クレスト様。それでは、腕に抱きついてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
返事をすると、リビアが俺の腕に抱きついてきた。
目が合うと、少し照れ臭そうにはにかんだ。
その笑顔に俺の心がきゅっとしまった気がする。
可愛い。
俺たちが並んで歩き出した瞬間だった。スフィーが俺の隣へとやってきた。
「あー、クレストー。私もお化けとかこわーい」
スフィーがリビアとは反対側へとやってきて、俺の腕へと抱きついて来ようとしたので、リビアとともにさっと距離を取る。
「おまえは大丈夫だろ? ほら、行くぞ」
「えー、リビアだけずるいわ。私もくっつきたいわ! くっついて、クレストの体液とかいただきたいわ!」
「やめろ変態」
俺はスフィーを睨みつけながら、少し前を歩いていたオルフェの隣へと並ぶ。
オルフェはこちらに気付くと、にやりと笑った。
「モテモテだな、クレスト」
「からかうなよ」
「別にいいじゃないか。首領ならばそれくらいはしないと」
まったく。
オルフェがにやにやと笑いこちらを見てくる。
俺たちはそれから一時間ほど歩いていく。しばらく続いた木々に囲まれた坂道が、急に開けた。
そこで、ヴァンニャが振り返った。
「おぬしらは緊張感というものがないのぉ。ほれ、あそこに明かりが見えるじゃろ? あそこが、奴らの拠点じゃよ」
俺たちが見下ろせる位置に、確かに明かりがあった。