第23話
次の日。
俺はヴァンニャのもとへと訪れた。
彼女の家は、俺の家から近くにある。
部屋の扉をノックすると、眠たそうな顔のヴァンニャがいた。
「なんじゃ……まだ朝じゃぞ……」
ヴァンパイアにとっては朝が「まだ」なんだな。
「魔道具に関しての話をしたいと思ってな」
「なるほどのぉ、それじゃあ中に入ってくれぬ? 陽に当たりたくないんじゃ」
ヴァンニャは忌々しげに太陽を睨みつけている。
俺としても中で話をしたいと思っていたので、好都合だった。
ヴァンニャに導かれるままに、部屋へと入る。テーブルと椅子、そしてベッドと最低限の家具は揃っている。
「どうだ、ここでの生活は?」
「うむ! 快適じゃ! おぬしや仲間たちのスキル、凄まじいものじゃぞ!」
「まあな」
とりあえず、生活に関しては問題なさそうだ。
「それで、どんな魔道具を作ってほしいんじゃ?」
「そうだな……。前に話していた魔石による強化について改めて聞きたいんだけど、副作用とかはないんだよな?」
「わしが造るものなら大丈夫じゃ。適性のない者が使ったら色々と大変じゃが、この村の者たちは皆使えるようじゃったな」
「……そうなのか?」
「ああ。もしかしたら、魔名を皆が持っているのが理由かもしれぬの。ある程度器が頑丈でないと使えないのじゃが、ここにいる皆はそれを満たしておったの」
なるほどな。
「それなら、例の魔石を作ってもらいたいんだが……どんな構造になっているんだ?」
「ほぉ!? おぬし、魔道具に興味あるんじゃな!?」
「まあな。それに、自分が使う物がどんな物なのかは知っておきたいからな」
無知のままで使用するのは怖い部分がある。
俺の問いかけに、ヴァンニャは嬉しそうに笑う。
「それなら、説明してあげるんじゃ! わしらは、スキルによって魔石の情報に干渉しているんじゃよ!」
「魔石の情報にか?」
「そうじゃ。魔石内にある情報へと干渉し、それを書き換え自分の求める効果を発動するようにしているんじゃ。ようは、魔石を用いて魔法を使用している、というわけじゃな」
「……なるほど。魔石の情報を弄り、強化魔法に似たものを作り、あくまでそれを発動しているだけだ、と?」
「そういうことじゃ。じゃから、魔石が持つ以上のことは基本的にできないんじゃ。おぬしが持っていたあのヤバい魔石を見せてもらってもいいかの?」
「ああ」
ヴァンニャに言われるがまま、俺は魔石を取り出して彼女に渡した。
身に着けているのも嫌だったが、適当なところに置いておくのも危険と思い、俺はだいたいいつも持ち歩いていた。
ヴァンニャは警戒した様子でそれを手に持ち、顔を顰める。
「……これは質の良い魔石じゃな。かなり悪質な魔力も込められておる。妖狐の類がこれを使っていたのかもしれぬの」
そういえば、リオンもそんなことを言っていたな。
リオンが奴隷として持っていた妖狐とは、俺も多少の面識があった。何度か話をしたこともある。
「使用者を殺すための魔石。……これはそう言われてもおかしくないの」
「……なるほど。とにかく、これと一緒の物は作らないでくれ」
「分かっておるんじゃよ! わしが造るのは普通の強化魔石じゃよ!」
「そうか。それじゃあ、村の人たちに集めさせている魔石はすべてヴァンニャのもとに届けるように伝えておくからな」
「任せるんじゃ」
ばしっと彼女は小さな胸を叩いた。
背中の翼も、彼女のやる気を示すかのようにぴくぴくと上下に揺れている。
「他に作ってほしいものはあるかの!?」
魔道具の作製は好きなのか、ヴァンニャの目が輝いている。
「何を作れるのかも分からないし、まあ村のためになる物ならなんでもいいぞ?」
「本当かの!? それじゃあ例えば、魔法冷蔵庫というのはどうじゃ!?」
「魔法冷蔵庫か」
それは上界でも聞いたことがある。
食材などを保存するための魔道具だ。
俺も実家の食堂でそれを見たことがある。さらに上のものだと、魔法冷凍庫などもある。
高級品、とまではいかないが裕福な家庭でなければ持てない代物でもある。
「作れるのか?」
「それに必要な魔石は用意できるんじゃ。魔法冷蔵庫に必要な魔石は冷風を送り出す魔石なんじゃが、これならば簡単に作れるんじゃ。これの名称は、冷魔石と言うんじゃが具体的な作り方としては――」
ヴァンニャが興奮した様子で語りだす。
そ、そこまで具体的な話はしなくてもいい。危険のないものなら、別にな。
「わ、分かった。つまり、箱さえ用意すればいいんだよな?」
「そうじゃな!」
「今食糧庫として小屋を作ってあるんだけど、そこにその冷魔石を設置してくれないか?」
「任せるんじゃ!」
ばしっとヴァンニャは再び胸を叩いた。
無邪気な子どものような笑顔に俺も頬を緩める。
さて、本題に入ろうか。
俺がここにきたもう一つの理由は、オーガの拠点について知ることだった。