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第1話

「クレスト。おまえの鑑定の儀、期待しているぞ」

 

 父の言葉に、俺は自信をもって頷いた。

 ……今日で十五歳になる。

 

 成人を迎えた俺は神によってスキルが与えられるのだ。

 俺はこれより鑑定の儀が行われる教会へと向かう。


 父とともに家を出て、庭に用意された馬車へと乗りこむ。

 それに合わせ、俺たちの護衛である騎士がついてきた。

 俺の家は公爵家だ。

 

 こういったちょっとしたお出かけでも騎士を伴って行う。

 まあ、公爵家といっても俺は五男であり、家での立場は正直いって酷いものだ。

 政治の道具ぐらいにしかみられていない。


 だが、今は違う!

 俺は父を見ながら、口元を緩める。


 俺だけでなく、父も上機嫌だった。

 それもそうだ。

 俺のスキルが大当たりのスキルだと分かっているからだ!


「それにしてもおまえが一週間前に見たという夢……本当に凄いスキルをもらえるようだな!」


 父が上機嫌にそういって、俺は頷いた。

 ……成人になる前に、人は神夢じんむを見る。

 神夢とは……すなわち、神様が与えてくれる夢だ。

 その夢によって、神から与えられるスキルの紹介をしてもらえるのだ。


 そして俺のスキルは――『ガチャ』。


 ポイントを消費することで、ガチャを回し、任意の新しいスキルを獲得できるというものだ。


「今日の教会には、私の関係者をたくさん呼んでいる。そこで、おまえのスキルのお披露目を行うつもりだ! まさか、スキルを手に入れられるスキルだなんてな……素晴らしいな!」

「……はいっ! わかりました!」


 ……これで、俺の家での立場も変わるんだ。

 俺は小躍りしたくなるのを必死に抑えながら、教会につくのを今か今かと待ち続けた。



 〇


 

 教会についた俺たちはすぐに鑑定の儀へと移る。

 ちらと背後を見ると、用意された座席にずらりと貴族たちが座っていた。

 ……みな、期待するようにこちらを見ている。


 俺のスキルの効果を知っているんだからな。

 期待されている。そう思うと自然口元が緩む。


「クレスト」


 聞きなれた声に名前を呼ばれ、俺は思わず体がびくりとはねた。

 振り返ると……そこには美しい女性がいた。


「え、エリス。きょ、今日は……こちらには来られないと聞いていましたが」

「そんな……婚約者であるクレストの成人の儀なのですから……多少体が優れないくらいで休むわけにはいきませんわ」


 エリスは……俺の婚約者だ。

 とはいえ、彼女は恐ろしい。


「ええ、期待していますわね。素晴らしいスキルであれば、良いですわね」


 ……にこにこ、と微笑んでいた彼女だが、どうにも怒っている様子だった。

 ……そりゃあ、そうだ。

 エリスは俺を虐めることに快感を覚えるような異常な人間だ。


 これまで俺は、生まれや立場もあって……エリスには散々にいじめられていた。


 だが、だが!

 今日は違う! ここから、俺の新しい人生が始まるんだ!

 知り合いに軽く会釈をしながら、俺は用意された鑑定石の前まで歩いていった。


「クレスト・ハバーストよ。これより鑑定の儀を行う。準備は良いな?」

「はい!」


 司教の言葉に俺は元気よく返事をする。

 すでにスキルの名前、効果を知っている俺に緊張はなかった。


「この石碑に手をかざすんだ。神が与えてくださったスキルがここに表れるだろう」


 俺の眼前には大きな長方形の石があった。

 俺はそれに片手をかざす。


 石碑が一度光り、文字が刻まれる。

 期待の声がもれる。

 そして、文字が完全に読める状況になった瞬間、集まった皆から驚きの声が漏れた。


『ガチャ』


 スキルは一つだけ。

 これまでに発現したことのないスキルだ。

 夢で事前に情報を得ていなければ外れスキルと馬鹿にされていたことだろう。


 だが、今会場の空気は最高潮に達していたっ!

 俺が事前に言っていたスキル名とまったく同じだからだっ。

 つまり、スキルの効果は、ガチャを回すことによって新しいスキルを獲得できるというもの。


 皆の期待する目を見ていると、父が俺のほうへとやってきた。


「それじゃあ、クレスト。さっそくガチャというスキルを使用し、新たなスキルの獲得を行ってくれないか?」

「……わかりました!」


 俺は自分の眼前にスキルを発動する。

 ガチャと念じると、ウィンドウが表示される。この辺りは、事前に夢で聞いていたので問題なかった。


 『四月開催記念ガチャ! これでキミも薬師デビュー!? 三点ピックアップガチャ開催!』と書かれたガチャを確認する。


 ……まあ、みんなにはみえていないから説明しないとな。

 俺は状況を説明する。


「……いま、私の目の前にはガチャの画面が出ています。一回ガチャ、十一回ガチャとありまして……あとはこのガチャを回すだけで――」


 皆に状況を説明しながら、俺はガチャを回そうとして――そこではたと手をとめた。

 まずはとりあえず一回ガチャで様子を見ようと思ったのだが……回せない。


 眼前に表示された、『ポイントが足りません』という文字を見てそれまでの期待が一転、焦りへと変わる。


「どうした、クレストよ」


 ニコニコと微笑んでいる父と、期待するような貴族たち。

 ……ぽ、ポイントってなんだ!? なんで足りない!? 夢ではガチャを回していたじゃないか!


 焦りながら、一回ガチャと十一回ガチャを連打したが、どちらもポイントが足りないと表示される。


 よく見れば、右上のところに表示されているポイントは0。

 一回ガチャを回すのに、ポイントは500必要なようだ。

 どうやってポイントをためる!? そんなこと、夢では一切触れていなかった。


「クレスト、もうスキルを手に入れたのか? ならばそれを実演してみてくれないか?」

「……」


 期待してこちらを見てくる父に、俺は冷や汗がもれた。

 正直に話せば、父はどんな顔を向けてくるだろうか? 貴族たちは?


「が、ガチャが、回せなかった、です」

「……回せない? どういうことだ?」


 父の声が一瞬で怒りを含んだものになる。

 と、教会に来ていた兄たちが、くすくすと笑った。


「クレスト、まさかおまえ……嘘ついたのか?」


 長男がそう言ってくる。

 ……兄たちは、これまで俺をバカにし続けてきた。

 今更、俺に有用なスキルが見つかったことを昨日までずっと妬んでいた。

 だからこその、この発言だった。


「ち、違います! 俺はちゃんと夢でこのスキルについてみたんです!」

「……くははっ! 嘘つけ! なら、早くスキルを獲得してみせろよ!」


 次男がそう続ける。

 彼らの挑発に乗っている場合ではない。


「が、ガチャを回すのにポイントがないんです! そ、それさえあればガチャを回せます!」

「おいおい、今度はそんな嘘ついてどうするつもりだよ? ポイントがたまるまで家に置いてくださいってか?」


 三男がそう続ける。


「ち、違います! 信じてください!」

「じゃあ、ポイントはどうやって貯めるんだ? 兄さんたちが手伝ってやるよ? ほら、言ってみろよ」


 トドメ、とばかりに四男がそう言った。


「そ、それは……分かりません」


 ポイントの集め方は夢では一切触れてくれなかった。

 俺の言葉を聞いた瞬間、兄たちが大笑いした。


「嘘をつくなら、きちんと考えてから言えよな。父上、この嘘つきの処罰はどうしますか?」


 長男が父にそう訊ねる。……父の顔からは、感情の一切が消えたようだった。


「ち、違います! 嘘はついていないんです! ポイントさえたまれば――!」


 俺が必死にそう説得すると、貴族たちがくすくすと笑う。

 そして、それは――父に対してもだ。

 ……自分の息子の嘘に騙され、わざわざこうして集めた馬鹿な親。

 まるで、貴族たちの笑みはそんな意味がこめられているようで――。


 父が顔を真っ赤にして、激怒した。


「夢のことも、すべて嘘だったのだな」

「ち、違います! 本当に見たのです!」

「黙れ! 貴様のようなうそつきのクズは、家になど必要ない!」

 

 父が激怒する。

 俺が必死に説明しようとしたときだった。エリスが俺のもとにやってきた。


「面白かったですわね、クレスト」


 エリスがくすくすと笑顔とともにそういった。

 ……俺は、俺は……結局何も変わらないのか? 


 それから、数日の運命。

 俺が家から追放されることが決まった瞬間だった。 

 


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