1.誰このイケメン…
「本当にごめん!いや、すみませんでした」
何も無い真っ白な空間で、黒く長いだろう髪をボサボサにするほど、床に頭を擦りつけ土下座する男。多分、声低いから男だよね。うん。
「あの…?」
状況が全く掴めない。どうして謝られているのか…。
「すみませんでした!」
「よく分からないのですが、顔をあげてください?」
男は勢い良く顔を上げる。が、体勢は正座状態。黄色い目が綺麗だった。ボサボサの黒髪の中から星のように煌めく目に吸い込まれそうになる。髪の毛が整えられ、顔が見える。少し、キツめの顔立ちだがタイプだ。もう一度言おう。タイプだ。
「……えっ」
男は暫く私の顔を見つめ、漸くフリーズが解けたと思ったら驚き出した。
「えっ!?」
それに驚き私も過剰な反応をしてしまう。我ながら低い声が出たわ。
「いや、あの、その……」
男はモジモジしだした。どうした。何があった。
「君の人生を奪ってしまった。故意的にやった訳じゃないんだがすまなかった。」
男は急に真面目になった!なんだコイツ、情緒不安定野郎か?
「責任を取る。いや、取らせてくれ」
「いや、責任とかより、私まだ生きてるよ?」
「えっ!」
「えっ?」
「いや、死んでるんだ」
「え?」
「僕が兄さんと喧嘩したから……」
私はまだ、体も自我もある。確かに変な場所に来たけれど、さすがに死んだとは思わなかった。
話を聞くと、この男は、所謂神様らしい。そして兄弟喧嘩をしていたら次元の歪みを作ってしまってたまたまそこに居た私が次元の歪みに落ち、無くなったそうだ。体はもちろん、家族たちの記憶からも。最初から無かったことにされたそうだ。そして、戻れないという事だ。
「え、じゃあ私これからどうするの?」
折角社会人デビューする所だったのに。これからって時だったのに。
「僕が責任を取る。なんでも言ってくれ」
男は未だに正座状態だが真剣な眼差しを私に向けてくる。
「なんでも?」
「ああ、なんでもだ。これをやろう」
僕とか謙虚そうな一人称のくせに、意外と口調が威張ってない?気の所為かな?
彼から渡されたのは青い玉。飴の様な小さい玉。
「それを飲め」
「飲む!?」
飲むのを渋っていたら口移しでもいいとか言い出したので渋々その青い玉を口に放り込む。
「甘い……」
本当に飴のようだった。
「ん、それでいい。」
何がいいのか全く分からないんだけどぉ!?
「僕はユフェル。君の名前を聞いてもいいかい?」
「えっと、爽空」
名前を答えるとぶわっと下から風が舞い上がった。これ、あれだマ○リン・○ンロー?違うっけ?
「サク、サクの人生を奪ってごめんね。戻れないし、新しい人生謳歌してみる?」
謝る気あんのかコイツ。てか、さっきとキャラ違くない?
「サクは剣と魔法の世界とか好き?」
「異世界ファンタジー!?」
てか、こいつ馴れ馴れしいな。
「そう、だね。サクの世界で言うところの異世界転生だよ?してみる?」
「する!」
「決断早いね!サクの望むように体も能力も作るよ。どうする?」
「最強で!」
「最強?」
「何と戦っても負け無しで!」
「わかったよ。じゃあ、用意するからしばらく待ってて?」
え、すぐじゃないの!?大体の異世界転生はすぐに転生させられてるじゃない?
「準備が必要なんだよ」
ニコっと良い笑顔。正座を辞め、立ち上がるユフェル。意外と身長が高い。彼の胸の当たりが私の頭の位置だと考えてくれればいい。もう、考えるのはやめよう。
「さあ、サク。ゆっくりしててね。」
彼が指をパチンッと一鳴らしすると、今まで何も無かった空間にソファや、ベッド。何故かキッチンまで現れる。一人暮らしにちょうどいい部屋になってしまった。
「じゃあまた明日ね」
この何も無い空間に明日なんて概念はあるのか分からないが、ユフェルはどこかへ行ってしまった。ドアも何も無いこの空間からどうやって消えたんだ……。
異世界転生する、けど。まだ神様の元にいます。
今度こそ、今度こそ書き終えて…見せる……。