【プロローグ】
[1]
俺が所ノ丘にきてから1か月がたった。ようやくこの町も見慣れてきたと思っていたのだが、少し散歩をしただけで見慣れない商店街に迷い込むようじゃまだまだこの町にも知らない場所があることを思い知らされる。
「ハムカツ1枚」
「はいよ、今から揚げるからちょっと待っててね」
ハムカツが揚がるのを待つ間、ゆっくり辺りを見渡してみた。幼稚園などがあるのだろうか、少し遠くで子供達の無邪気な声が聞こえてくる。また様々な場所でで主婦達は談笑している。ここは現代では珍しい活気のある商店街らしい。
「ハムカツできたよ」
「お、80円だよな」
80円を渡し、代わりにハムカツを手に取ると揚げたての熱さが手に伝わってきた。近くのベンチに座りハムカツを食べながらのんびり時の流れを感じていると主婦達による世間話が耳に入ってくる。
「ーんとこの子、今行方不明だそうよ」
「あらそうなの?まぁ中学生だったかしら、そのぐらいの年だったら仕方ないんじゃない?」
「私もそう思ったんだけど、やっぱり自分の息子だと心配らしくて警察にも協力を仰いでるらしいわよ」
「大がかりねぇ、そこまですることもないと思うけど・・・それより今朝のチラシ見た?そこのスーパー今月いっぱいでつぶれるらしいわよ」
「見た見た!そこのスーパーが潰れちゃうと隣の所ノ丘まで行かないといけないから面倒なのに・・・」
俺はいつの間にか隣町まで来てしまっていたようだ。あと中学生が行方不明になっているらしい、物騒なことだ、とここまで思考を巡らせたところで眠気が襲ってきた。まぁ確かに昼寝をするにはいい陽気だ。俺は吸い込まれるように見知らぬ街の見知らぬ商店街のベンチで眠りに落ちた。
[2]
「ここは・・・あ」
気付いたら夜になっていた。さっきまでの活気が嘘のように商店街は静寂に包まれている。子供達の声もない。
「まぁ、帰るか、こっちだったかな・・・」
人気のない商店街を抜け住宅街を歩いているところで違和感に気づいた。なにかに付けられている。いつからだろう、商店街からだろうか。そんなことを思いながらも段々早足になっているのを自覚していた。
「そういえば、中学生が行方不明になっていたっけ」
良くない考えが止まらないまま10分ぐらいだろうか、逃げるように歩き続けているとさっきの商店街に着いた。何回も道を折れながら歩いていた為どこかで戻ってきてしまっていたらしい。相変わらず人気はないが後ろから付けられていたなにかは撒けたらしい。
「あぁ怖かった。けっこう歩いて足も疲れたしとりあえず座るか・・・・・・え?」
あとから思えばあそこで付けてきていたなにかは俺を物語に巻き込む為の黒子のような存在だったのだろう。
先程まで自分が座ってたベンチには
一体の死体が先に寝ていた。