序章:この世界の人間はクズだったよ
前回のあらすじ
勇者という字は人間側にとってまおうと読むと知り絶望する主人公だった。
公開処刑の日が来てしまった。
今日で僕の異世界人生も終わりなんだ。
あぁ、僅か一週間という短い人生だったな。
マイクを持った男が話し出す。
この人は一体何者だろう?
処刑執行する人かな?
「本日お集まりいただきましたのは、こちらの我々人間の外敵、勇者の公開処刑を行うためでありまーす」
あー等々死ぬのか。
神様の話もっと聞いておけばよかったな。
「その前にデモンストレーションを設けたいと思います。こちらのエルフをご覧ください」
そこにはお腹が大きいエルフの女性が首輪と手枷を付けて歩かされていた。
「こちらは子爵家の貴族が、性奴隷にしていたエルフでございます。汚らわしいですね」
汚らわしい?結構美人だと思うんだけど。
「エルフなんぞに避妊薬を使うのも勿体ないため子供を孕んでしまい、処分してほしいと先日受け取りました」
処分?まさか彼女も処刑されるのか?
「皆さまも知っての通り、亜人が人間の子を孕むことは法律で禁止されています。この罪深きエルフはその法を破りました」
「まぁ!汚らわしいわ!さっさと殺して頂戴!」
あれはフロートさんか。
彼女を少しでもいい人だと思った昔の自分を殴ってやりたい。
女性エルフの服を脱がす男。
こんな大勢の人達の前で裸にするなんて・・・。
「さぁ皆さま。この罪深きエルフの腹に一発拳を打ち込んで下さい」
何を言ってるんだ?そんなことをしたらお腹の子供が死んじゃ・・・それが狙いか!
「待って下さいどうかお腹の子にはどうかお慈悲を!」
「薄汚ぇエルフが何を人間様に口を利いてやがる!」
そうして腹を思い切り蹴り飛ばした。
エルフの女性の股から液体が流れてくる。
これは破水したんじゃないか!?
妊娠中に破水すると胎児への悪影響があるって聞いた。
「あ、あぁぁ」
エルフの女性が涙を流している。
なんとかしないと!
「お見苦しいところをお見せしました皆さま。それでは全員お腹に一発入れて下さい。汚らわしい亜人と人間のハーフなど生まれない方が幸せです」
見苦しい。たしかに彼の行動はとても人間とは思えない。
そしてここに居る奴らも。
ニコニコしながらガタイのいい男が上がってくる。
ギルドに入ったときに俺に喧嘩をふっかけてきたやつだ。
たしか名前はマスカレーダ。
「やめてください。早く医者に連れてかないとお腹の子が死んじゃいます。貴女達にはモラルと慈悲というモノがないんですか?」
「あぁん?勇者が何を訳わからないことを言ってるんだ?俺達はただ害虫を駆除してるだけだろ?」
「妊婦ですよ!?そんなことが許されるんですか!?お腹の子には罪は無いでしょう?」
しかし僕は次のマスカレーダという男の言葉に絶句する。
「罪だ。亜人の血があるそれだけで罪だ」
「な・・・」
ふ、ふざけるなよ!
そんなことだけで罪なんて・・・。
「マオウ?まさか勇者様?」
勇者?僕を勇者と認識できるのかこの女性!
「そうです。僕は勇者です!」
「ちげぇだろうが!てめぇはマオウだろうが!」
マスカレーダに顔面を殴られる。
しかしそこまで痛みはない。
「あぁ・・・勇者様・・お願いです!わたしとお腹の子を助けて下さい!」
助けたい。
けれど身体強化を持ってしても、ギルドに居た集団からも脱出できなかった。
それよりも大量にいるのにどうやって切り抜ければいいんだ。
そういえばたしかスキルの欄に・・・
ん?マスカレーダもエルフの女性も、いや周りの全員まるで時間が止まったかのように動かなくなってる。
”お困りのようですね”
神様の声が聞こえてきた。
はい!お困りです!
”これは貴方が本気で困ったときに流れるようにしたものなので会話はできません。これが発動すると世界の時間がⅠ分止まります”
すげぇ。ホントに時間を止めてたんだ。
てか僕は牢屋にいるときは本気では困ってなかったんだな。
いやそれとも脱力していたからか?
”貴方はおそらく、窮地の状況なのでしょう。そんな貴方に一つだけわたしが施した加護のスキルについて説明致します”
加護?
そうだたしかスキルの欄に【魔人化】って言うのがあった。
とても勇者に似合わない能力だったことを覚えている。
”貴方もお気づきでしょう。魔人化というスキルを”
やっぱり加護は魔人化だったのか。
”魔人化は自身の魔力1につき1秒だけ魔人・・・この世界で一番強い種族になれます”
たしか僕の魔力は150だったな。
じゃあ150秒間魔人になれるのか。
”魔人は現在、絶滅寸前で一人しかいません。亜人と呼ばれる人達のリーダーをやってる男性です”
マジか。会ってみたいな。
少なくとも妊婦を蹴っても平気でいる人の中で暮らしたくないし、どのみち僕はもう処刑寸前だ。
”また困ったら彼の所に顔を出してみるのもいいかもしれません”
そうしよう。ありがとう神様。
あ、でも肝心の魔人化のやり方は教えて貰っていない。
”わたしの名前はカリス。わたしに祈りを捧げることで魔人化できます。やり方は自由ですよ。それではご武運を”
そして周りの時間が動き出した。
「てめぇとその腹の子供は死ぬ運命なん・・・」
「神カリス様。どうか貴女の力を僕におかし下さい」
指示が無いんだからこれで大丈夫だよね?
「あん?急に何をとち狂って・・・やが・・る」
僕の身体が熱くなり始める。
そしてさっきエルフの女性を蹴り飛ばした男が焦り始める。
「これは一体?聞いてませんよ!彼は人間だったのではないのですか?」
今、僕は一体どんな姿なんだろうか。
「う、うわぁぁぁぁぁあ」
マスカレーダの股から温かく黄色い液体が流れてきた。
こいつ漏らしたのか?
エルフの女性のがもっと恐怖を感じていただろうに!
僕はマスカレーダの首を掴む。
そしてフロートさんの方に投げつけた。
「貴女の名前は?」
「わたしはリーンと申します」
そうかリーンさんか。
僕はリーンさんを抱え込む。
破水してるから事は一刻を争う。
「どこか安全な場所はありますか?今すぐにでもお子さんを産まないと大変なことになると思いますので」
「わたしは一年前に奴隷にされました。一年前に住んでいた村がここから馬車でⅠ週間の場所にあります」
一週間か・・・。
僕は強化されてるのがわかるけど、魔力量的に保ってあと2分ってところだろう。
「とりあえずここから脱出します。僕に捕まっていて下さい」
「おい、まて勇者!どこへ行く!」
先ほどリーンさんを蹴り飛ばした男性が叫んでくる。
「僕がどこに行こうと勝手でしょ?」
「勝手なわけあるか!この公開処刑にうちの商会がどれだけ金をつぎ込んだと思ってるんだ!」
僕が勇者だからとかそう言ったことでも言えないのかね。
「来たれ炎よ!」
うわっ!炎弾を打ってきた。
異世界っぽいなおい!
僕は手を震ったが風圧だけで吹き飛んでしまった。
「え?」
「貴方程度じゃ。僕には適わないってことだよ。じゃあね」
僕はリーンさんを抱えて走り始めた。
内心はすごい驚いてたけど!
30秒もしないうちに壁が見えてきて、飛ぶためにブレーキをかける。
風圧でその壁が壊れた。
魔人ってそんなに強いのか!?
てかそんなことよりリーンさんだ。
早く安全なところに行って出産しないと中の胎児に何かあっては事だ。
僕は魔人化が解けるまで、森を走り続けた。
一読ありがとうございます。
今回の話胸くそ悪いと思った方はごめんなさい!
更新不定期ですがよろしくお願いします。