序章:勇者って字がまおうって読むなんて聞いてないよ
薄暗い牢屋に何日閉じ込められただろうか・・・
僕は正の字を牢屋で夜が来る毎に壁に刻んでいた。
「今日でもう四日か・・・」
牢屋に入れられて以降、一度もご飯を持ってきて貰えていない。
「一体魔王ってどういうことなんだよ!」
僕は悪態を吐いたが、その声だけが薄暗い牢屋に鳴り響く。
しばらくすると珍しく足音がなった。
四日ぶりの人間だ。
髭を生やしたおじさんだ。
「おい、坊主。お前さんマオウなんだってな。飯を与えるなって話だったが、俺にはお前くらいの息子がいるから忍びなくてね。これ食え」
そうやってパンを投げ込んでくれるおじさん。
看守だろうか?
僕はそのパンを必死に食べる。
久しぶりの食べ物に涙が出てきた。
「坊主がマオウにはとても見えねぇなぁ。本当にマオウなのか?」
おじさんが聞いてくる。
僕の方が聞きたいよ!
「・・・わかりません。ただ僕のステータスをみたらマオウだって言われたんです」
「ほぅ。じゃあ職業がマオウだったとかかね?」
「いえ。ステータス表には職業:勇者とたしかに書かれていたんです」
おじさんは髭を撫でて考え込む。
「坊主。もしかして亜人か?」
「亜人?」
獣人達のことだろうか?
「亜人という単語を知らないと言うことは亜人か。見た目的にどっかの馬鹿が、奴隷エルフを犯して生まれたとかそんなところか?」
「あの、言ってる意味がわからないんですが」
話が全く見えない。
僕が亜人とのハーフと言いたいのだろうか?
「坊主の父親、または母親はエルフか?」
「いいえ。僕の親は両方とも人間です」
「本当か?ならなんで亜人という単語を知らないんだ?」
亜人って単語を知らないのがそんなにおかしいのだろうか?
「俺達ヒューマンは自分たちのことを人間、獣人やエルフみたいなのを亜人って呼ぶんだ」
「えっと・・・」
「そして亜人のクソ共は自分たちはヒューマンと変わらない人間だと言う。獣くせぇやつや、耳の長い気持ち悪い奴らなのに生意気にな」
亜人達はヒューマンに酷いことをしたのだろうか?
口調に怒りが籠もっている。
「そうなんですか?僕は異世界から神様によって召喚されました。なのでこの世界の事情が・・・その・・・よくわからないです」
ここはもう神によって召喚されたことを明かした方が早いと思い話してみた。
「神だと!?坊主、冗談はよせ!神が召喚するのはユウシャ様だけだ」
「だから勇者なんですよ僕は!」
「なら証拠をみせてもらおうか。少し待ってろ。水晶はこの牢屋にもある。もしユウシャ様ならすぐにでも釈放しよう。そして牢屋に入れた奴を逆にここに入れてやる」
そう言っておじさんはドアの向こうへと消えていった。
そうだよ。最初からもう一度ステータスを確認すればよかったんだ。
しばらくするとおじさんが戻ってくる。
「ほれ。持ってきたぞ水晶。さぁ手を触れな」
僕は言われたとおりに手を触れる。
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ネロ・アプレンティ
年齢:15歳
職業:勇者
ステータス
レベル:Lv1
筋力:120
魔力:150
体力:200
敏捷:180
スキル
【不屈】 Lv2
【身体強化】 Lv1
【統率】 Lv1
【魔人化】 Lv1
【根性】 Lv1
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なんか不屈のレベルが上がってるし、根性というスキルも手に入れた。
おそらく四日も飲まず食わずだったからだろう。
不屈がレベルが上がってるおかげで四日も生きられたのだろうか?
「やっぱり職業がマオウじゃねぇか。しかし本当にマオウとはなぁ」
「え!?なにを言ってるんですか!?どうみても勇者じゃないですか!」
「坊主こそ何を言ってるんだ?これはどうみても勇者って字だろ?」
僕は絶句する。
もしかしてこの世界で勇者って字は魔王って読むのか!?
「あのこれなんて読みますか?」
僕は床の汚れを利用して魔王という字を書いてみる。
「あ?そりゃもちろん魔王って読むに決まってるだろう?てかその字を知ってるならてめぇ嘘をついてたってことじゃねぇか!」
おじさんは髭をむしりとり、牢屋を蹴飛ばす。
優しいおじさんだと思ってたのに!
「はぁ・・・本当にマオウとはなぁ・・・。パンあげたの後悔だわ」
「あの・・・これから僕はどうなるんですか?」
「あぁ。亜人共のヒューマン反乱軍?とかなんとかの見せしめに公開処刑するらしいぞ」
嘘だろ・・・。
僕は異世界にきて魔王を倒して、異世界ハーレムを満喫しようと思っていたのに。
そんなワクワクする気持ちを返せよ!
あぁ神様も本当によろしいのですか?とか聞いてたなぁ。
こういうことだったんだなぁ。
僕はもう気力も何も失い、床に寝そべって、公開処刑の日まで一度も動かなかった。
一読ありがとうございます
勇者という字がまおうと読む。
あ、この世界の字も言葉も日本語です。
だから異世界モノでよくあるスキルの翻訳がないのもこのためですw
不定期ですがこれからもよろしくお願いします