22話 神の使徒ミラ
「神の使徒らしいよ。
凪、どうするの?」
先ほど受けた一撃はかなりの威力であり、辺りはまだ砂埃に包まれていて状況が分からない。
ただ、神の使徒と名乗っている存在からはこちらを確認できていないようなので先に相手の存在を確認した僕たちにアドバンテージがあるとみてよい。
「何がどうなってるか分からないけど、取りあえずその神の使徒っていう存在を確保して話を聞こうと思う。
基本、聖杯の事は知らされてないはずだから」
聖杯というものは具体的にどのようなものかを知っているのは神皇位だ。
後は、それぞれの世界で聖杯が使用された後にそれがどういったものだったのかを管理神は知ることになる。
その為、今回のように先に知っているという事はあり得ない。
万が一、一度聖杯が使用されたことのある世界であったとしても、神の使徒が聖杯を知っているという事にいささか疑問を覚える。
この場に居る四人でこの後の動きを共有した所で都合よく砂埃が晴れる。
「聖杯♪ 聖杯♪ 聖杯♪ これで記憶にある昔みたいに……。
……え?」
気分良さそうに聖杯の歌?を歌っていた神の使徒なる存在と僕達との視線がしっかりと合う。
神の使徒は外見、もろ天使だ。
頭に輪は無いが、金色の長髪に白い貫頭衣、そして存在感満載の白い一対の羽。
腰にはベルトを着け、首にはネックレス。
僅かなオシャレだろうか?
神の使徒は「記憶にある昔」と言うかなり気になるワードをもらしていたのだが何なのだろうか。
「え、え? さっきの魔法に耐えたってこと?
聖杯はあの男の人が持ってるし……。
ええい! こうなったらもう一発!!」
なんだか混乱している神の使徒だが先ほどの魔法をもう一度使うことにしたようだ。
だが、そんな事を誰が見逃すのだろうか?
僕はもう一度、麻痺の魔眼を発動させた。
「『天より注ぐ』……ふべっ!!」
丁度、詠唱を始めたところだった。
神の使徒は麻痺の魔眼を受け体全体を痺れさせてそのまま飛び続ける事が出来ずにそのまま宙から落下した。
「『風の抱擁』」
そのまま墜落させるのは少し抵抗があったので魔法を使って受け止める。
その後、黒服の男と同じく<アイテムボックス>から出した縄でしっかりと縛った。
神の使徒は黒い服の男と違って多少は耐性があったのか魔眼を使ってもまだ意識がある。
その為、話を聞くことが出来た。
「それで、始めに名前を教えて貰っていい?」
「人間如きに教える名前は無いですぅ~」
縛られている状態であるのに神の使徒は生きが良かった。
ただ、イラっと来るような物言いは変わらない。
その為、威圧を込めてもう一度。
「名前は?」
「ヒッ、ヒィ!! ミ、ミラ! ミラです!」
威圧効果は大成功。
簡単に口を割ってくれた。
「それで、襲って来た目的は何なの?」
「だから人間に何て……ヒィ!
聖杯を奪うためですぅ……」
生意気を再び言い始めたので威圧をすればコロッと喋ってくれた。
やはり、先程漏らしていたことに間違いはないようだ。
「じゃあ、記憶にある昔っていうのは?」
「そ、それは……」
「威圧」
「ヒ! お、教えますから~、それだけは勘弁ですぅ~」
「じゃあ早く」
相当堪えたのか威圧をほのめかすだけでも答えてくれる。
「え、えっと……あなた方に話しても分からないとは思うんですけどぉ……。
私って前世の記憶があるんですよぉ。
そこでは、今みたいに神の使徒ではなくその上司? みたいなもので世界を管理する神の一人だったみたいで……。
その時は今とは扱いが大違いだったんですよ!
今なんて掃除に洗濯、料理と皿洗い、それに加えて世界の監視や天候の管理、神託に不具合の解消。
前半はまあいいんですけど、後半!
これは神のするべき業務なんですよ!
そんな仕事まで任されてしまって大変なんてものじゃないですよ。
そして、神本人は引きこもってどこかの世界のゲームなるものに熱中してますし。
どこかの世界で噂に聞くブラック企業そのものなんです!」
長々と話しているがここまでの話を纏めると、本来は神のサポートをする為の神の使徒であるが、それを逸脱して神がするべき仕事を全て任されており手一杯だという事だ。
これは、知ってしまったからには解決するべきであろう。
と、考えている所であるが神の使徒であるミラの話には続きがある。
「それで、数か月前にその任されていた世界の監視業務をしていた時です。
聖杯が生まれるのを見つけたんです。
それが何であるか、どう使うのかというのは私の前世の記憶にありました。
バグ聖杯っていうものだそうです。
それは、本来ならば生まれるはずが無いものだそうでそれを使用すれば破滅的な方法でですがなんでも願いが一つだけ叶えられるものだそうでこれしかない! と思った私は早速、聖杯の入手を画策しました。
そして、神に任されていた神託などを濫用し開催したのが聖杯争奪戦です。
表彰式で人間たちが油断した所を報酬で釣ってその男に聖杯を盗ませて私が受け取るつもりだったのですが……。
貴方が予想外の動きをしたものですから私はこうして捕まってしまったわけです」
ブラック業務に耐え切れなくなってきた所に頭の前にぶら下がって来たニンジン、もとい聖杯を入手して使用する為に動いた結果がこれだそうだ。
何とも酷な話だ。
半分は同情しよう。
だが、僕の神皇と言う立場からしたら危険性を分かったうえで行おうとしたバグ聖杯の使用は咎めるべき事態である。
もっとも、咎めるべきはそれだけではなくここまで追い込んだ上司である管理神にも及ぶものである。
「うん、話は分かった。
続きは、……神域で話し合おうか」




