15話 決勝トーナメント最終日②
「「はぁぁぁぁぁ!!!!!」」
同時に飛び出した僕とイーズさんの雄叫びが重なり響き渡る。
イーズさんは剣を腰の横に剣を構えてこちらへ飛び出してきている。
動き的にはそのまま横に切り払うのか、上に向かって切っていくのだろう。
そして、対する僕は先ほど使用したバフ系の魔法以外は使うつもりは一切ない。
イーズさんからは超至近距離で魔法を使うと思われているのだろうか?
「「はぁぁぁぁぁ!!!!!」」
僕とイーズさんの間が更に狭まる。
イーズさんの口元には笑みが浮かんでいた。
それが自分の予測通りに事が進んで出た歓喜の笑みか、それとも純粋に試合を楽しんでいるのか。
その答えは出せないままイーズさんとの距離が更に近づく。
「「はぁぁぁぁぁ!!!!!」」
そして、イーズさんの間合いに入ったのだろうか。
腰の横に構えられた剣が動き出した。
上に向かって刃が切り裂いていく。
僕は、その場で一度スピードを抑えて後ろに一歩後退。
その動きを見たイーズさんは驚愕の表情を浮かべながらも振った剣の軌道を急いで変えようと力を込める。
「はっ!」
僕の短い掛け声とともに拳が放たれた。
剣を振り上げている為、がら空きになっていたわき腹に拳がしっかりと食い込み、イーズさんの着る鎧にも拳の跡が残る。
拳の威力はそれだけに留まらず、片足が宙に浮くとそのままイーズさんの体を後方に低い軌道で大きく吹き飛ばした。
「決まった~!
謎の魔術師ナギ対イスリア帝国元帥イーズ・フレッドの試合。
ナギの拳ががら空きになっていたイーズのわき腹にクリーンヒット。
今まで魔法のみ使っていた凪だが驚愕の勝利だ!」
あの後、吹き飛ばされていったイーズさんの体は地面を何度か回転したのちに白い光となって消えていった。
体術と言う手札を見せてしまったが最終日であり残り三試合を切り抜けるには十分であろう。
そして、僕は次の試合の為に控室に戻る。
今日はこの後も試合があるために三人のもとに戻る暇は無い。
次の試合は大体一時間後。
それまで、時間を潰すために外を回るにしても微妙であるし、部屋の中に居ようと決めた僕は部屋の中にあったソファで一眠り着くことに決めた。
「……ナギ様、ナギ様。
ナギ様、そろそろお時間になります。
お目覚めください」
だんだんと覚醒してくる意識の中で、そのようなかえ声を聞き目を開く。
するとそこには、係の女性が立っていた。
「おはようございます。
ナギ様。
お時間になりましたので会場への移動をお願いいたします」
どうやら次の試合の入場の時間になるまで寝ていてしまったようだ。
僕はその場に立ち上がって一度体を大きく伸ばしてから移動を開始した。
今から行われる試合は準々決勝となる。
準決勝からは二試合の同時開催だ。
先ほどの試合の終了後にフィールドを作り変えて二面にしたらしい。
その為、面積も広くなったそうだ。
そして、その後の今日の試合は準決勝と決勝だ。
準決勝と呼べるものが二試合しか行われない理由はトーナメント表にある。
今回のトーナメント表は二つのブロックに分けてそれぞれの優勝者同士で戦い最終的な優勝者を決める形だ。
その上で人数の問題から試合数の差が出ており、最大で七試合。
最小で四試合と個人の試合数に差が生まれているが、運営側はこれを運も実力の内と抗議を否定している。
そうして、廊下を少し歩いてコロッセオのフィールドに入るための入口へと到着した。
「それでは、ここでお待ちください」
フィールドに入る少し前の所で係員は下がっていった。
この試合からは同時に試合をするのが二試合のみであるため、それぞれの紹介を受けながらの入場だそうだ。
その為、僕の名前が呼ばれるまではここで待機することとなる。
それから、数分して客席から歓声が上がるのが聞こえるようになった。
その間に、司会のアナウンスも所々聞えてくるため入場が始まったのだろうと思う。
「続いて、ナギの入場だ!
無名ながらも卓越した魔術の腕を持ち、初戦では大賢者を下す!
そして、この試合の前に行われた試合ではイスリア帝国元帥イーズ・フレッドの持つ魔断の剣により自慢の魔法が無効化されるも、今まで使ってこなかった体術を使い勝利した!
さて、次の試合ではどのような活躍を見せるのだろうか!」
僕の簡単な紹介がされて、観客からは歓声が上がる。
その中を僕はフィールドに向かい、手を振りながら歩いていく。
「そして、最後にナギが相手をするのは~武王ブレイズだ!
武王ブレイズは、山を拳一つで焼失させた、街から街まで走って一時間掛からないなど、その能力が伺えるような噂が絶えない!
さて、今回はどのような試合を見せてくれるのだろうか!」
そのアナウンスと共に入場してきたのは紙をオールバックにした軽装の男だった。
体格はしっかりしていてどれだけ筋トレすればいいのだろうかと思う程の筋肉が体全体についており、一歩一歩進むごとに歴戦の威圧感が伝わって来る。
そうして、ブレイズさんもフィールドへと上がってきて僕の向かいに立った。
「どうだ、怖気づいたか?
怖ければこのまま降参しても構わんぞ」
降参を勧めてくるが世界の崩壊をさせない為には聖杯を必ず回収しなければならない。
その申し出に僕は首を横に振った。
「いや、問題ない」
「そうか、俺は手を抜くことはしない。
覚悟しておくことだ」
その一言を言い終えるとブレイズさんは静かに目を閉じた。
目を閉じているブレイズさんからはかなりの集中力と圧が伝わって来る。
「それでは、準備が整ったようだ!
これより、決勝トーナメント最終日第二試合を開始する!
三・二・一・試合開始!」




