12話 採用通知
そして、今日の試合が終了した。
今日あった第六試合の僕の決勝トーナメントの第三試合だが、昨日と同じような形で様子見で撃った『フレイムランス』三連打で速終了した。
昨日の試合を見ていなかったのだろうか?
正面から迎え撃とうとして次弾、次々弾に気づかないという全く同じ展開だったので細かい説明は割愛する。
そんな事よりも、これからメアリーと正式な師弟関係に関する『契約』の説明だ。
段取りとしては、始めに<箱庭>に移動。
夕食とシャワーを済ませる。
その後で詳しく契約内容について話し合うつもりだ。
「よし、そろそろ帰ろうか」
観客席にぎゅうぎゅうに詰まっていた人が半分以上出ていった頃にそう声を掛ける。
「うん」
「はい」
華奈とリリィの二人から返事を受け取ると僕たちは立ち上がる。
が、ふと今日はもう一人いる事を思い出した。
「メアリーさんはどうする?
一旦、別れる?」
「私もナギ様にお供します」
「うん、わかった。
それじゃあはぐれないようについて来てね」
僕はメアリーにそう声を掛けると客席の出口に向かって移動を始めた。
既に五回目となる街の裏通りまでやって来た。
ここでいつも通り<箱庭>を起動させるつもりだ。
「開け<箱庭>」
その言葉と共に路地の真ん中に白い立方体が生み出される。
これまで何度も使って来たので華奈とリリィは驚くことは無かったが、今日は初見の人が居た。
「えっ」
メアリーの口から驚くような声が飛び出した。
「これが僕たちの拠点の一つである<箱庭>。
これに触れれば私有の別空間に移動が出来るんだ」
僕が説明をするとメアリーは目を見開きながら頭を縦に振る。
「よし、じゃあ向こうにいこっか」
そう声を掛けると華奈とリリィは直ぐに立方体に触れて転移していった。
しかし、メアリーはその場から動かない。
あれっ? と思いながらメアリーの方に向き変えるとちょうどメアリーもこちらを向いていたのか視線が合う。
「えっと……これ、大丈夫なんですか?」
「それは、どういう事?」
「あ、他の人が間違って触ったりしないんですか?」
「ああ、それね。
これは僕が指定した人しか触れないから大丈夫だよ」
「そうだったんですか。
ありがとうございます」
防犯面について考えていて動きを止めていたようだった。
ここで立っているのもなんだからとりあえず中に入るために促す。
「それじゃあ、向こうにいこっか」
「はい」
そうして、僕とメアリーは同時に立方体に触れると<箱庭>へと移動した。
移動先は綺麗に整えられた庭園の中の少し開けた場所。
真後ろには小さいながらもしっかりとした噴水が設置され、また、アーチ状に花が咲いている小道や小川に掛かった橋に繋がる小道、東屋へと続く小道など色々な方向に道が伸びている。
そして、正面には他より少し大きめの道がありその奥にログハウスが見る。
ログハウスの窓からは明かりが漏れていた。
「うわぁ。
私の作ったものより綺麗かもしれない」
「うん。色んな世界から様々な花を揃えたからね」
「え?」
僕が漏らした色んな世界という部分に反応したのであろうか、少し驚いたような顔をしている。
が、ここで詳しくは話すつもりは無いのでごまかすかのように僕はログハウスに向かって歩き出した。
「ログハウスに行くよ。
二人が待ってるから急ぐよ!」
急かすようにして声を掛けるとメアリーも気にしないことにしたのか僕の後ろを付いてくるのだった。
そして、ログハウスに入れば既に二人は夕飯の準備を始めていた。
併設しているキッチンでは二人が食材を切っている。
ボウルに入っているのはニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ。
その横には茶色っぽい固体が幾つか用意されていた。
そして、コンロには深い鍋が置かれていて何を作っているのかは予想が出来る。
「華奈、リリィ、ただいま」
「ん? あ、凪お帰り~。
それにメアリーちゃんもいらっしゃい」
「ナギ様にメアリーさん、お帰りなさい」
「おじゃまします」
後ろを来ていたメアリーも少し遠慮がちに入って来る。
「それで、晩御飯はカレー?」
「おしい!」
あそこまで用意されていてカレーでは無いらしい。
思い返せば毎日ゲン担ぎのためにカツが出ていた。
という事は……。
「カツカレー?」
「お、正解!」
今日の晩御飯もブレずにカツだ。
ただ、毎日味の変化がついているのでまだ飽きていない。
「それで、シャワーはどうする?」
「う~ん。
今日も観戦するだけだったし、食後で良いよ。
ご飯の準備も私たちが全部やるから凪は先に入っちゃいなよ!」
「じゃあ、リリィは?」
「私も華奈ちゃんと一緒に入るのでナギ様は先に入って貰っていいですよ」
「うん、じゃあお言葉に甘えて」
二人が今日試合をして疲れたであろう僕のためにご飯を全部作ってくれるそうなのでそれに甘えて僕は先にシャワーを浴びに向かう。
後は、メアリーも放っておくわけにはいかない。
取りあえず、ここの説明だけはしておこうかと思う。
「じゃあ、メアリーさん。
ここの建物の説明をするからついて来て」
「分かりました」
少し手伝いたさそうにキッチンの方を見ていたがこの世界にない道具もあるだろうと思うし、正式な師弟契約をまだ結んではいないので一応お客扱いだ。
それから、このログハウスをぐるっと一周し、メアリーにはリビングにお茶を入れてご飯を待ってもらうことにして僕はシャワーを浴びに部屋を出た。




