11話 弟子は大賢者(確定)
メアリーから弟子になりたいとの話を受けた翌日。
僕は二人と共に観客席に座って試合が始まるのを待っている。
今日の僕の試合は第八試合目なのでまだまだ先だ。
ただ、今日はもう一人。
華奈の向こうに大賢者のメアリー・メメリーが座っていた。
昨日話し合った結果は今日の全試合終了後に話に行くつもりでいたのだがメアリーの方から来てくれたようで、気づいた時には華奈の隣に座っていた。
「……ナギ様、昨日ぶりですね。
そちらの二人の女性とはかなりの親密度を感じますがどのようなご関係なのでしょうか」
僕が居ると気づいて以来、黙って座っていたメアリーが口を開く。
メアリーと対面して感じるのは頑張って失礼の無いように喋ろうとしているようであった。
昨日と打って変わってかなりの変貌ぶりだ。
それほど弟子になりたいのだと伝わって来る。
「空色の髪の方がリリィ、黒髪の方が華奈。
どっちも僕の妻だよ」
「ああ、奥様でしたか。すいません……。
リリィ様に華奈様、始めまして。
大賢者と呼ばれるメアリー・メメリーです。
お話を聞いているかもしれませんがナギ様に弟子にしてもらいたいと考えています」
「メアリーちゃんだね。
凪から話は聞いてるよ。
私は華奈、よろしくね」
「リリィーです、よろしくお願いします。
メアリーさん」
二人はメアリーに気さくに話しかけていく。
メアリーの見た目が少女な感じもあってか子供をあやしているかのようにも見えなくもない。
まあ、そんな事は置いておいて昨日話し合った結果をメアリーに伝えておこうかと思う。
後々に引き延ばして後悔するのだけはもうしたくない。
「メアリーさん、昨日の話だけどよく考えたよ」
「はい」
メアリーが喉をゴクリと飲む音がよく聞こえる。
周囲の人々の喧騒は何一つ聞くことが出来ない。
しかし、周囲はそれ以外一切変わることなく動いていた。
これは僕が発動させた『空間隔離』の効果だ。
現在、指定した僕達四人の周りの空間をその周囲の空間から切り離し連続性を無くすことで周囲から自分たちを隔離している。
本来の用途としては防御や被害の防止だ。
「取りあえず弟子を取るという事、それに関しては認める。
ただし、細かい条件を呑んでもらってそれを『契約』する事。
それでいいかい?」
「はいっ!
私なんかの為にありがとうございます!
粗末な体ですがご自由にお使いください!」
「ちょっ……」
感極まったメアリーは涙を両目に浮かべながら感謝の気持ちを述べた。
が、感極まり過ぎて思考がオーバーヒートしたためか最初に弟子にして欲しいと言って来た時に言っていた体を好きに使ってもいいという事までも漏らし、両サイドからジト目を向けられる。
慌てて僕は直ぐに弁明を開始し、なかなか納得をしない二人に最後の手段にとその時の記憶を共有してやっと二人は納得をした。
その間にメアリーは自身の感情を落ち着かせることが出来たようで二人への弁明で頭がいっぱいだった僕が弁明を終えてメアリーの事を思い出して視線を向けたところ微笑ましそうに微笑を浮かべてこちらを見ていた。
「お二人と仲がとても宜しいようですね」
「ははは、そうですね」
僕は軽く髪をいじりながらそう答える。
二人への弁明の最後の方には頭を撫でたりとご機嫌取りの側面が大きくなっていたのでそこを指しての事を言っているのだろう。
「ああ、で、まあ見た通り二人も妻がいるからね、体とかそういうのは求めてないよ。
まあ、せいぜいメイドみたいなことをしてもらう位だね」
「はい、ありがとうございます」
「細かいことは今夜時間をくれないかな?
そこで話そうと思うんだけど……」
「はい! 大丈夫です。
何ならこのままメイドとして使ってください。
特にすることはありませんでしたので」
「う~ん、そっか。
それじゃあ取りあえずお試しで夜までそうしてもらおうか。
華奈もリリィもそれでいい?」
「私はいいよ」
「私も大丈夫です」
しっかりと二人にも意見を聞いて今日一日、メアリーをお試しメイドとして一緒に居てもらうことが決定する。
「では、よろしくお願いいたします。
ナギ様、華奈様、リリィ様」
そう言って立ち上がったメアリーさんは一度深く頭を下げた。
「それで、始めに何をしましょうか?」
メアリーにそう言われて僕たちは三人で顔を見合わせた。
何も考えていなかったからだ。
ただ、ここが“花園”の屋敷や“地球”の家であったならば掃除などを頼むことが出来たのだろうがあいにく、コロッセオの観客席にいる。
食事や飲み物などもここに来る道すがらで買い込んで<アイテムボックス>に色々と詰め込んであるのでお使いを頼む必要はない。
なので、頼むことが一切なかった。
「……えっと、頼むことは今は無いかな。
だから、隣に座って一緒に観戦してくれればと思うよ」
「わかりました」
そう言ってメアリーは華奈の隣に座ると会場の方に目を向けた。
ちょうど会場の方では選手が入場している所で、僕は発動させていた『空間隔離』を解除する。
「「「「「ワァァァァァァ!!!!!」」」」」
解除した途端にかなりの声量の歓声が入ってくる。
先ほどまで音を遮断していたため気づかなかったようだ。
それから、大歓声の上が中始まった試合を僕たちは観戦するのだった。




