9話 初戦突破
「日輪魔法か……」
「知ってるの?」
「ああ、火魔法の上位魔法だな」
なぜ、このような疑問が出るのか?
それは、この世界の魔法レベルが原因だ。
魔法が発展していないのだ。
世界システムから仕入れた情報だと大体、一人一属性でスキルレベルにしてLv6が平均らしい。
そこから突出するとしても上位魔法に届くか届かないか、それ位なのだ。
「それも知っているのね。
最初はどうせ魔法の使い方がただ上手いだけかと思ったけど……。
これは楽しめそうね」
「それは、どうも。
けど、こちらからしたらまだ物足りない」
メアリーの上からの物言いに対し少しイラっと来たのでそんな言葉を返してしまった。
「あら、そうなの?
じゃあ、見せて頂戴、貴方の実力を」
やはり、メアリーの口調は変わらない。
世界システムでチラッと大賢者に関して見た時、年齢が五〇〇を超えていたのでそのせいかもな、とも思うがイラっと来ている事には大差ない。
「じゃあ、少しだけ。
『プロミネンスセイバー』」
そして、サラッと発動させたのは先ほど食らった『イグニスブラスト』よりも二段階位階が高い日輪魔法第七位の魔法である。
過去に“アルメア”で華奈が使った『エアロセイバー』やグレイルの『ガイアセイバー』と同じ上位の剣シリーズの魔法だ。
例によって白みがかった赤い炎の刀身を持った剣が僕の振り上げた手の先に形成される。
そして、振り下ろし地面と接触すると同時に、爆破する。
爆炎やその衝撃は、剣の前方方向のみに飛んでいくようにされており、それに飲まれた地面は、一直線に抉れていく。
後から、そこを見れば全体的に黒く焦げていた。
「おっと!
大賢者とナギの少しの対話の後にナギが発動させた炎の剣の魔法が一直線に爆撃を与えていった!
さて、砂埃が舞う中、大賢者はどうなっているのか!?」
爆風で巻き上げられていた砂埃が収まった。
そして、視線の先には……
「何よこれぇ~。
どんな魔法なのよ! もう!」
そんな事を漏らす大賢者が持っていた杖を支えに立っていた。
喋っている事は元気そうなのだが、実際の所はもうギリギリのようだ。
着てきていたポンチョは所々焼け焦げ、穴が開いて素肌が見えているような所もある。
「これで、良い?」
「ええ! こんなの受けたら認めざるを得ないわよ!
って言うか、こんなのどうやったら無詠唱で撃てるのよ!
私の『イグニスブラスト』だって無詠唱にするまで三〇年はかかったのに。
よし! 決めたわ!
貴方、これが終わったらま……」
そうして、メアリーの体は光に包まれて消えていった。
結界の効果によって決闘場から排出されたようだ。
まだ、気絶したわけでは無さそうだったので恐らく時間制限に引っかかったのだろう。
まあ、何はともあれ決勝トーナメントの一回戦は突破だ。
「凪! 一回戦突破おめでと!」
「ナギ様! おめでとうございます!」
観客席に向かうと、二人に出迎えられる。
今回も幻影を使って二人の間の席が確保されていたのでそこに座った。
「凪、対戦相手の大賢者ってどうだった?」
「そうだね~、まあまあかな。
リリィの方が強いね。
ただ、この世界だと彼女の魔法が一番みたいだよ」
「へ~、そうだったんですか」
「だから、注目は集まっちゃったね」
聖杯を回収したらこの世界から撤収する予定の為、あまり注目は集めたくは無かった。
まあ、優勝すれば注目を集めるのに変わりは無いが、もう少し後の方が良かったと僕は思う。
こんな事を話している中で既に周りからの視線が集まっていることを感じる。
今更、認識阻害を使った所で気づかれている以上無意味だ。
明日からは注意しておこうと思う。
「それで、凪の次の試合はいつなの?」
「今日の最終試合だな」
「じゃあ、それまでは観戦だね」
「そうだな」
それから、三人で試合観戦を楽しむ事となった。
観客席からゆっくり観戦していて分かった事なのだが、今回の大会には国家から参加している者が多い。
例えば、予選で僕と一緒に決勝トーナメントに進出した内の一人、イーズ・フレッドという男だが彼は、イスリア帝国と言う国の宰相だ。
そのような感じで、名のある国家所属の騎士も多数参加している。
そして、その理由としてはどの国も大陸での国家統一を目指しているというのをうわさ話として耳にした。
「それでは、決勝トーナメント一回戦第七グループの試合を開始する!
三・二・一・試合開始!」
そうして、第七グループの試合が始まった。
一日で行われる試合数は、九回。
僕は、その九回目の試合に出場の為、そろそろ控室に移動しなければならない。
「よし! それじゃあ、二人とも行ってくるね」
僕は気合を入れて立ち上がると二人に声を掛けた。
「頑張ってね、凪」
「ナギ様、頑張って来てください」
「うん、じゃあ行ってくる」
僕はそう言って、観客席を後にした。
「ねえ?」
僕が控室までの廊下を歩いていた所で声を掛けられた。
振り返るとそこに居たのは初戦で戦った大賢者のメメリー・メアリーが居た。
「大賢者のメアリーさんでしたよね。
どうしたんですか?」
メアリーはキッと睨みつけるような視線をこちらに向けてくるが敵意は感じられない。
「大賢者なんてのは周りの人が言っているだけよ。
ただ単に一番魔法が使えるから、ただそれだけ。
まあ、実際はあなたが一番のようだけど」
「えっと、それで何のご用でしょうか?」
「一つ聞きたいの。
貴方は、日輪魔法以外の上位魔法を知っているの?」
「ええ、日輪の他に、天・地・嵐・聖・魔性ですね」
「……そう」
「これで、終わりですか?」
メアリーは、僕が上位魔法を答えた後から俯いて何かを呟いているようだった。
僕は、控室へ急ぎたかったのでもう行っていいか尋ねる。
「……私に、私を弟子にしてください!」
メアリーは、一度言いなおしながらも廊下に軽く響き渡る声でそう言うと、手を差し出しながら頭を九十度になるほど下げたのだった。




