6話 予選第三試合
試合が始まると共に、周囲の人達全てが僕に向かって突っ込んでくる。
パッと見で約五名。
前方からそれぞれ剣と大剣を持った者が二人、その後ろで魔法を唱えるのが一人。
後方からは弓持ちが一人こちらを狙っていて、後は巨大な盾が猪のように突っ込んできていた。
ここ以外の場所でも戦闘は起こっていた。
手始めに向かってくる五人の排除だ。
「『フレイムランス』」
炎で出来た槍を向かってくる、剣士二人に飛ばす。
槍は寸分違わず二人に真っ直ぐ飛んでいく。
そうして、それを剣で受け止めた二人は後ろへ吹き飛ばされ、何度が転がった後にその体が消失した。
二人を退場させた。
二人が、『フレイムンス』を受け止めた時に出た衝撃で辺りを砂埃が立ち込める中、位置を少し右にずれる。
瞬間、僕がいた位置を水弾が突き抜けていった。
剣士二人の後ろに居た魔法使いの攻撃だと予想し、僕は砂埃が晴れないうちに魔法使いの方に一気に駆け出す。
フッと砂埃を抜けた瞬間、目前には先ほど剣士の後ろに居た魔法使いの前であった。
「『アイスコフィン』」
一瞬で氷像が完成し、その後すぐに中に居た魔法使いの姿は消え去った。
これで三人退場だ。
そして、後ろを振り返る。
「『ウォーターウォール』」
咄嗟に水で壁を作る。
そこに、大盾が正面から突っ込んで水を浴びながら体勢を崩した。
「『電撃』」
元々壁だった水へ電気を流し、そのまま盾持ちの人を感電させて退場させた。
「『アイスショット』」
四人目を退場させ、一息つく間もなく魔法を発動させ、矢と相殺させる。
続いて、魔法で遠距離で弓使いを攻撃しようとした瞬間、弓使いは警戒を怠ったのか、横から大剣の直撃を受けて吹き飛び退場となった。
そして、一度、僕に辺りを確認する時間が生まれる。
決闘場では、既に最初の場所取りは関係が無いような混戦となっていた。
人数は大体三割ほど減っており、退場者は時間を経るごとに増えていく。
僕は、基本掛かって来る人を相手にして生き残る。
試合開始から三十分が経った。
辺りに選手の姿は少なく決闘場はすっきりとしている。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
声を上げながら切りかかって来る鎧の騎士の一撃をひらりと躱す。
それが、過ぎると決闘場に居た全ての人の動きが一度停止する。
先ほど切りかかって来た鎧の騎士。
刀を、鞘に納刀した状態で立っている羽織を着た侍。
緑色の民族衣装のようなものを纏ったエルフの魔法使い。
鎧などは何も付けずに自身の背を超える刃渡りの大剣を片手で一本ずつ持ったオーガのような体格の男。
そして、僕。
残るはこの五人だ。
現在はそれぞれ輪のようになって見合っている状態だ。
一瞬の内に全員と目が合う。
瞬間、全員が示し合わせたかのように自身の最後の力を発揮し僕の方に向かって突っ込んでくる。
騎士は剣を肩の上に振り上げて単純な突撃。
侍は居合抜きを、エルフは魔法を唱え、巨漢の男は自慢の双大剣を振り上げてくる。
「『ブリザード』」
そう唱えて手を五人の方に向ける。
手の先から多量の微細な氷を含み、白くなった旋風が螺旋を描きながら五人の方に襲い掛かる。
螺旋の直径は距離を進むごとに大きくなっていて、単に後ろに下がるだけでは躱すことは出来ない。
五人はそれぞれ対応を考えるようであったが、数秒の内に全員飲み込まれていった。
旋風はそれから十秒ほど続きその勢いを減衰させていった。
旋風が通った跡は地面が扇状に凍っている。
五人はどうなったのか?
白く染まっていた視界が見えるようになってくると、二つのシルエットが残っていた。
一人は、自身の剣を地面に突き立てて何事も無かったように堂々と立つ騎士。
そして、自身の杖を前に構えて肩で呼吸をしているエルフの魔法使いであった。
「おっと! 残りが三人になったのでここで試合終了だ~!」
司会が、試合終了のコールをすると共に結界が解ける。
「第三試合、勝者はイステリア帝国元帥、イーズ・フレッド!
暁の丘のエルフ、サーシャ・ルルベッド・アカツキ!
そして、謎の魔法使いナギだ!」
司会の勝者のコールと共に盛大な歓声が上がる。
僕は、それを背に決闘場を後にした。
「ナギ! おめでとう!」
「ナギ様、予選勝利おめでとうございます」
僕が、観客席の方に居た二人の所に着くとそう言って出迎えてくれた。
「ありがと」
僕は、そう返すと華奈とリリィの間に空いていた席に座った。
立ち見人がいる中で、都合よくここが開いているのか尋ねたら二人から幻影を使って関取をしていたと返って来た。
「で、ナギ。この後の予定は?」
「えっと、次は決勝トーナメントだって。
決勝トーナメントは予選が終わった次の日から二日間で最後の日に決勝戦をやるんだって。
それで、僕の試合はトーナメントの第九試合だね。
決勝は同時に五試合開催だから二試合目だね」
「じゃあ、取りあえず二日間は暇って事?」
「そうだね。
試合見てようと思うんだけど二人はそれでいい?」
「うん」
「はい」
「じゃあそれでいこう」
これ以降の予定を決めたところで、突然客席全体で歓声が上がる。
何事かと思ってみれば第四試合の選手が入場していた。
観客席に来てよりはっきり分かるのだが選手の名前を呼ぶ人が多い。
「名前呼んでる人が多いね」
「うん、だってこれで賭けてる人も多いもん」
「賭け?」
「うん。この試合で誰が残るのかその賭け」
「へ~。そんなのやってたんだ~」
確かに、こんなに客が来るんだったらかなり儲かると思う。
「因みに、さっき凪に賭けたので二十倍だったから、千二位百万アラになったよ」
「へ? えっと、千二百万アラで二十倍って事は、六十万だから……渡した全額賭けたの?」
武器の売却代二百四十万アラは四等分にして、六十万ずつをそれぞれの小遣いに。
残りの六十万を共有の財産として分配していた。
華奈はその小遣い全額を僕に賭けたようだ。
「うん♪ もちろんリリィちゃんもだよ」
リリィもであった。
「はい! ナギ様は負けませんから」
「二人とも大胆だね」
ハハッと僕は笑いながら二人の頭を順に撫でた。
それからその日、僕たちはそのまま試合を見続けるのだった。




