3話 街へ
転移を行った凪達は木々の間から道が見える森の中に移動してきた。
「二人とも、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「問題ないです」
「じゃあ、取りあえず道に出ようか。
そしたら、目的の確認をしようか」
そして、三人は木々を抜けるとすぐそばにあった街道へと合流する。
街道の左は見えなくなるまで道が続いており、逆の右側は少し先に木々の背の倍ほどある石垣の壁を見ることが出来た。
「凪、あれ?」
街道に出ると、華奈が先に見える壁を指さした。
僕は、それに答えながら二人を促すように歩き出す。
「うん。今回の目的地、中層世界“アラブリア”その中である多数の小国家の内、リルテア国の三大都市の内の一つ決闘の街、”マティア”。
あの壁の中がそうだよ。
バグ聖杯は街の中央にあるコロッセオで行われる聖杯争奪戦っていう決闘みたいなものの優勝賞品だね。
エントリーは本日の日が落ちるまで。
予選が明日から三日、本選が二日で、本選二日目の最後に優勝賞品の受け渡しだって」
「じゃあ、ナギ様はそれに参加するんですか?」
「そうだね。何事も無い時は平和に行くよ」
「そうなんだ、じゃあ私はどうしよっかな?」
「そんな治安がいい世界じゃないから二人は参加しないで一緒に観戦してた方がいいと思う。
二人なら何があっても対処できるでしょ」
「そっか~。
リリィちゃんを一人にするわけにもいかないからね。
うん! 凪の言う通り応援する!」
「華奈ちゃん、出たかったら私の事は気にしなくてもいいですよ」
「ありがとう、リリィちゃん。
けど、もう応援するって気分になったし、凪がそう言ったからリリィちゃんと一緒にいるよ」
「分かりました、じゃあ一緒に応援頑張りましょう!」
「うん」
そうして、歩いていると壁がどんどん近づいてくる。
「凪、ここは身分確認とかあるの?」
「今は、人が多すぎて混むからして無いみたいだね。
門で立ってる兵士が荷物の多い人の荷物確認と怪しい人の取り締まりをしてるぐらいだよ」
「じゃあ、そのまま入れるね。
それで、入った後は早速、エントリー?」
「いいや、武器屋だよ」
「あれ、何で?」
「エントリーにもお金が掛かるからね。
それを稼ぐためにちょっと要らない武器でも売ろうかなって」
「あ~、確かにそうだね」
「ナギ様は何を売るんですか?」
「取りあえず、今考えてるのはミスリル製の火の魔剣かな。
ここら辺が価値もあってレベル的にちょうどいい感じかな」
「そうなんですか?」
「うん。この世界はある程度の魔法はあるからね、それで作れるレベルと同じのって考えるとそうなるよ。
魔物の素材なんかはまず魔物がいないから無理だしね」
そして、壁に作られた門に差し掛かり、それを抜けた先には石作りの街並みが広がっており、視線の先には壮大なコロッセオが存在する。
そこまでの道は人で溢れかえっていて、黒く染まっていた。
「うわぁ、想像以上にでっかかった!」
華奈が一番に声を上げる。
「人も凄いです!」
「うん、僕もこれは想像以上だね」
僕もリリィの感想に納得する。
まだ、自分たちの居る場所はいいがコロッセオに向かうにつれて人口密度はどんどん増えていくのが分かる。
「これは……宿はダメそうだね」
「そうだね。
一回、帰る? それとも、<箱庭>?」
「一応、何かあった時の為に魔力を取っておくために<箱庭>かな」
不慮の事態に備えて魔力は取っておきたい。
世界間転移に掛かる魔力はとてつもなく膨大となる。
転移の原理としては世界とその狭間を隔てる境界に穴を開け、世界の狭間に道を形成。
その後、移動先の世界の境界にも穴を開き道を繋げる。
これが基本的な転移の流れだが、世界に穴を開けて閉めるのに膨大な魔力を要する。
道を作る際には世界の狭間にある無限とも言える魔力が使用可能なため、それは容易い。
また、短期間に何度も境界に穴を開け閉めすると一時的に脆くなり修復速度も遅くなるので往復位ならば良いが連日と言うのはあまり推奨できない。
「ナギ様、武器屋はあれじゃないですか?」
最初の感想以来、街を見渡していたリリィは、目的を忘れることなく武器屋を探していたようで、指を指して教えてくれる。
その先には、木造の二階建ての建物があった。
ドアの上には剣が飾られていて、その前では同じ服を着た人が数名、腰に剣を差しながら何やら通行人に声を掛けているようだ。
「確かに、それっぽいね。
じゃあ、二人とも行こう!
あと、治安悪いから離れないでね」
「うん♪」
「はい!」
二人は元気よく返事すると、僕のサイドに陣取り腕を絡めてくる。
僕は二人をそのままに、周りを微笑ましくさせるような雰囲気を発しながら移動。
目的の武器屋に辿り着いた。
「現在、聖杯争奪戦開催記念でセールやってま~す!
どうぞ、見ていってくださ~い!」
店の外では同じ制服を着た三人の男女が店の呼び込みをやっていた。
店の方に視線を向けると、遠くから見えたドアの上に飾られる剣に武器屋と彫られており、ここが目的の店だと確信する。
「凪、武器屋ってあるからここだよね?」
「うん、そうだな。
リリィ、ありがとな」
と、華奈が離れ、手が空いたためリリィの頭をなでることにした。
「ナギ様の為ですから」
一言、そうつぶやくとリリィは嬉しそうな顔をしながら顔を俯く。
嬉しいけど恥ずかしいんだなと思い、取りあえずそのままにすることにして店へと入ることにした。




