49話 精神支配
僕たちの前には大きな執務机に手をついてイスにどっしりと座る皇帝。
そして、その横に立つ宰相。
その二人が僕たちの前にいる。
「誰だ」
こちらに睨みを聞かせながら皇帝は短く問いかけてきた。
「Lランク冒険者、ナギ。
ドゥルヒブルフ王国第二王女の夫であり、王国英雄。
【黄昏の焔】と言えば分かりますよね」
「ほぅ。
王国で噂になっていた英雄か」
皇帝は静かにそう言った。
皇帝は僕たちがここに来てから目立った驚きなどは見せずに静かに佇んでおり、冷静なように映る。
だが、その横に立つ宰相は別だった。
「お前ら、不敬であろう。
皇帝の執務室に勝手に押し入るなどっ!
第一、城内には魔法妨害の結界が張ってある。
どうやってここまで来たのだ」
皇帝の横に居た宰相は声を荒げて質問を畳みかける。
どうせ『転移』を使ったと言ったところで今度は『転移』なんて使えるものかとかまた質問を重ねて来るだろうし放置だ。
僕は皇帝の<鑑定>を優先した。
名前:ガレア・マルスリオン・リッタ
種族:人間 35歳
称号:マルスリオン帝国六代皇帝
状態:邪神の眷属 精神支配
ここで、マルスリオン帝国全体が邪神に支配されていることが確定した。
「……おい!
聞いているのか!」
「あ~、えっと、宰相さん?」
ちょっと騒がしすぎたので宰相に声を掛ける。
「宰相のフリーデンだ。
やっと、こちらの話を聞く気になったのか」
宰相の方も<鑑定>したのだが、そちらは何も問題が無かった。
「いえ、ただこちらから提案をしようかと。
今回の開戦に関して、既に第一皇子は捕虜として捕縛させていただいています。
王国として宣戦布告を撤回していただければ穏便に済ませますがどうでしょうか?」
「なんと、それは確かなのか?」
その話に宰相が食いついてきた。
これに関してはクルスさんに許可を貰っているので確かな事である。
この話が通った背景としては僕一人で戦争を終結させたという所が大きかった。
「ええ、書類もいただいていますので」
僕はそれを提示。
宰相が近づいてきてそれを確認した。
「うむ、御璽も確かにある。
陛下、この提案受けるべきかと」
宰相は振り返って皇帝に奏上した。
だが、皇帝の表情は堅苦しく多少なりとも威圧感を感じる。
とてもいい返事は聞けなさそうだ。
「ならぬ。
我が帝国はこの世界を支配するのだ」
そうして、返って来た返事はかなりの意志が籠ったものであるように思えた。
その返答に宰相は唖然としている。
「へ、陛下。
それはどう言った?」
「だから言っておろう。
降伏はせぬ」
皇帝は意思を曲げないようだ。
だが、僕としてその固い意志は邪神による支配を受けているためかと思われる。
このまま戦争に関しての話は平行線になりそうだったので、宰相に助け船がてら別の質問を投げかける。
「フリーデンさん、少し質問良いですか?」
「なんだ?
こちらは陛下の説得に忙しいのだ」
そんなことを言いつつもフリーデンはこちらに耳を傾けているようだ。
僕はばれないように邪神に支配されている皇帝を除いた僕たち三人と宰相のフリーデンを対象にして防諜結界を展開させた。
「この戦争の提案がされる前に初めて皇帝の傍まで近づいてきた人はいますか?
特に帝国軍の人たちに簡単に近づけるような立場で」
まあ、話題を変えると言っても本来の目的から逸らす訳では無い。
ひとまず、埒の空かなそうな停戦の話では無く邪神関連の方の話だ。
話を聞いたフリーデンは少し沈黙を置いてから答えた。
「その条件だと陛下の第三妃だ。
彼女は陛下がどこからか連れてきて気づいた時には城に居ついていたのだ。
普段は城を練り歩いているのだが、その中で兵士宿舎へ行ったという報告を受けている。
陛下が妃にしたと言うので私としても強くは言えないのだが」
「第三妃?
その話は周囲の国に発表などは?」
リリィが横入りしてそう尋ねた。
「いえ、陛下の命で未公表になっています」
恐らくその第三妃が邪神だろう。
「では、邪神または魔王に心当たりは?」
「邪神に関しては無い。
魔王に関しては王国のドゥルヒブルフ神が対応に当たっていると聞いている。
現在は行方不明らしいそうだが」
「ありがとうございます」
フリーデンの対応を見ていたが、嘘をついている線は無さそうだ。
皇帝の方は邪神に支配されていて、考え方が一方向に固定されておりそれが変えるというのはかなり難しい。
魔法を使えば精神支配を解除できるが、どちらにせよ邪神の眷属になってしまっているので大元を絶たなければならない。
であれば、邪神の討伐が先だろう。
「じゃあ、いったん失礼します。
少ししたら戻って来ますのでそれまでにどうするか話し合っておいてください」
そうして、僕たちは何気なく執務室のドアから出ていく。
宰相フリーデンと皇帝はすぐさま問答を始めたようで僕たちが『転移』で入ってきたにも関わらずドアから出ていったことを気にかけていない。
僕たちはばれないように静かに部屋を出てから、場所柄気休め程度になってしまうかもしれないが<隠密>を発動させた。
⦅ノイマン、帝国第三妃の居場所って分かるか?⦆
僕はノイマンに<念話>で問いかける。
地図はここに来る前に使っておりまだ充電中なので使えない。
⦅はい、話を聞いていましたので確認済みです。
そこから左に進んだ先にある階段を下って右奥の突き当りの部屋にいます⦆
⦅ありがとう⦆
先ほどの執務室の内部状況を王国にいるノイマンに魔法で共有していたため話はすぐに進んだ。
「よし、ノイマンが第三妃の場所を見つけてくれた。
そっちに移動するよ」
二人にそう声を掛けると、即座に首肯が返ってきた。
それを確認して僕は城内の移動を始めた。
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