46話 魔王討伐
魔王は藤堂の言葉を皮切りにして黒い剣を本格的に射出し始めた。
剣は既に数えきれない数が用意されており、藤堂の持つ剣一本では対応しきれないことは明白だ。
「『インフィニット・ホーリーソード』」
藤堂からは白いオーラが立ち上がる。
そのオーラは藤堂の後方で集まると剣を形成する。
そして、出来上がった剣からすぐに発射されて魔王が打ち出す黒い剣と真正面からぶつかり合う。
白と黒のぶつかり合い。
戦場は剣の嵐に支配され、至る所で白と黒が弾け飛ぶ。
その勢いは留まることを知らず。
藤堂たちはその場で動きを止めているから良いが、眷属蟻たちは別だ。
魔王付近で動く眷属蟻は剣の嵐に巻き込まれて例外なくバラバラになっている。
そのため、魔王に相対する藤堂を襲うのは後方から戻って来る眷属蟻だがそれは、体系している魔王討伐メンバーが倒していっているので心配はいらない。
そのまま、続く剣の応報。
終わりが見えないようにも思えるのだが、実際のところすぐに形勢が定まる。
光の剣からは白い波動が発せられ、周囲の黒いオーラを退け近くの黒い剣を解く。
それが、転機となり形勢は一気に逆転。
黒い剣が減ったことにより、藤堂の白い剣が魔王の方に直接届くようになっていった。
そして、魔王に刺さった白い剣は白い波動を発して周囲の黒いオーラと形成済みの剣を解いていくのでさらに魔王の攻撃が減衰していく。
そして、白い剣が十本ほど魔王に刺さった頃には勝敗が確定していた。
魔王の周囲の黒い剣の黒雲は既にスカスカ。
最盛期の半数も残っていない。
さらに、後から形成される剣の本数も微々たるもの。
魔王の体には二本、三本と同時に光の剣が突き刺さっていく。
そして、戦闘は終盤に突入。
最後のあがきとして少し大きめの黒い剣を魔王が発射させたのだが、藤堂はそれを白い剣三本で相打ちにした。
剣だった黒いオーラが宙に散ると共に魔王の周囲の黒いオーラも消え去った。
それを見た藤堂は魔法を解除させた。
『インフィニット・ホーリーソード』の魔法は【魔】に特攻があるものの一発一発の火力は低すぎるので決定打にはなり得ない。
別の攻撃で決着をつける必要がった。
ただ、魔王も息も絶え絶えなので藤堂は冷静にことを運ぶ。
「これで、終わりだ」
藤堂は<武器生成・聖>で大剣を形成した。
さらに固有魔法である<剣魔法>を使ってさらに。
「『討魔剣』『剣域解放』『聖剣覚醒』」
『討魔剣』の【魔】特攻。
『剣域解放』の攻撃力増加、刀身延長、無限斬撃。
『聖剣覚醒』の攻撃力増加、【魔】特攻、光属性強化。
【勇者】の称号による【魔】特攻があるためラストアタックの威力としては申し分無いものになるだろう。
藤堂は魔王を見据えながらも一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
そして、静かに剣を構えた。
「<一閃・光陰矢の如し>」
一瞬の静寂。
そして、広間の中央に現れる白い軌道。
その白い軌道は魔王の体の中央を綺麗に通り抜けていた。
遅れて魔王の体に縦一直線に切れ目が入った。
そして、重力に従って真下にその体は分かたれて地面に落ちる。
少しの間、足が宙を蹴っていたようだが次第にそれも弱弱しくなって完全に動きを停止した。
「魔王、討伐」
魔王の動きが完全に止まったのを確認して、藤堂は静かにそう呟いた。
討伐隊のメンバーはその宣言に歓喜の声を上げ、周囲の人とハイタッチをするなど喜びを表している。
だが、まだ眷属蟻は残っているのだ。
藤堂の一声で全員が静まり、残党狩りを開始した。
それから五分。
魔王の遺骸を勇者藤堂の<ストレージ>に収納すると、全員で入り口の方に向かう。
先頭を行っていた広間の入り口では、眷属の討伐を任せていた冒険者たちが既に仕事を終えて、蟻の山の前で待っていた。
そこに、討伐完了と知らせると、そこでも歓声が起こる。
しかし、前の部屋でも待っている人たちが居るため、それを早々に鎮めると全員で隣の部屋まで戻る。
そして、十分後。
すべての眷属蟻を討伐し終え、魔王の体を<ストレージ>に回収した藤堂は取り巻き退治をしていた冒険者と合流。
勇者である藤堂を先頭にして一つ前の部屋に戻る。
藤堂たちはその部屋で退路を確保していた冒険者たちの歓声によって出迎えられた。
そして、全員が部屋の中に移動してきたところで藤堂が部屋の中央に立つ。
「魔王を討伐した!
この世界の脅威は消え去った!」
今ひとたびの討伐宣言。
周囲に集まった人たちの歓声が巣の内部に響き渡った。
それから、ややあって。
魔王討伐隊は魔王の討伐を完了して魔王の巣から脱出を開始した。




