44話 魔王戦
突入した先の部屋の広さは今まで通って来た広間とは桁違いな広さがあった。
分かりやすい物で例えるならばドーム球場のような広さであろうか。
中に入るとすぐに数名の魔法使いによって『インスタント・ソルライト』の魔法を発動。
空中に光の弾が幾つか打ちあがり、広間全体を照らす。
そして、全体像が分かるようになったその広間の奥には黒いもので埋め尽くされている。
蟻、蟻、蟻、……。
隙間が見えないほど密集しており、数など数えることは出来ない。
だが、その中央では威圧感を放ち一際大きい蟻が入って来た藤堂たちのことを見下ろしていた。
そのサイズは眷属蟻とは比べ物にならず、少なからずその五倍はあるだろう。
藤堂が先頭にて<鑑定>を発動させ、その個体が魔王であることを確認した。
「あのデカいのが魔王だ。
取り巻きを排除しながら近づいていく!」
その声と共に、魔法を使えるものが列を組んで魔法を使った超広範囲攻撃を展開。
眷属蟻に向かって一気に様々な属性、威力の魔法が降り注ぐ。
一部では相乗効果も発動し、その威力は軍を相手に軽く殲滅出来るであろうものだ。
それが着弾すれば、その威力によって広間全体を大きく揺らしながら蟻だったものの破片を含んだ砂埃が巻き上がった。
幸い藤堂たちは事前に『結界』を展開していたため砂埃はすべて防がれている。
「約半数、撃破!」
<マップ>により確認した敵の残数が日村によって速報される。
その後、砂埃が晴れると次の段階に移る。
「魔王への直接攻撃に移る。
冒険者たちは眷属の撃破を!」
藤堂が全体に指示を出す。
魔王討伐隊は中央突破、冒険者たちは取り巻きの撃破のために横に広く展開した。
「「「「『風吹き荒れる。
集い螺旋渦巻く。
すべてを食らうは自然の猛威。
サイクロン』」」」」
福村、田中、有月、雨宮の四人同時に魔法を発動させる。
横向きに発生した四つの竜巻はそれぞれ接触すると、一つに収束した。
そのまま、残っていた眷属蟻の集団の中央を突き抜けていく。
「突撃!」
藤堂の掛け声で竜巻が消え去ったばかりの道を全員で駆けだした。
冒険者たちもそれをサポートするようにあふれてくる眷属蟻をせき止めるものの、入り口の時のようにはいかずに抜けた穴を埋めるように開かれていた一本道を眷属蟻が次々に塞いでいく。
さすがに何もせず通り抜けることができないだろうと思った藤堂たちは武器を構える。
「『セブンス・ソード』」
藤堂の周囲に白い大剣七本が出現。
その切っ先が前方に向くと、それが発射。
一本につき一体の眷属蟻の胴体を貫いた。
「<衝撃波>!!」
「<斬撃>!!」
絶命した眷属蟻の隙間を縫って現れた新たな個体に対して、関が拳を握った手を突き出した。
その拳から衝撃波が発生して、数体の眷属蟻を面の衝撃で吹き飛ばす。
合わせて、山本が剣を横に一閃。
こちらも斬撃を飛ばして眷属蟻の体を真っ二つにしていった。
「『風吹き荒れる。
切裂き、貫き、圧し、刺し貫く。
自然の極地。
天地風雨、雷鳴轟け!
テンペスト』」
福村が唱えた<天候魔法>。
地下空間の一部に黒雲が発生し、雨を降らし、風を吹かせ、雷を鳴らした。
三つの猛威に蟻たちはその場で身を固め踏ん張るのだが、耐えられずに吹き飛ばされる。
しかし、藤堂たちには誰一人、何一つ影響を受けている様子は無い。
それは、福村の持つ<台風の目>による効果である。
次の瞬間に黒雲から閃光が発生するとともに広範囲に雷が落ちた。
特に蟻が密集したところに雷は落ち、眷属蟻たちを焼き焦がし粉砕する。
「「<エンチャント:フリーズブラスト>」」
雷が落ちた後に、今度は氷を纏った矢が眷属蟻の上を突き抜けていく。
雨宮と皐月の二人が撃った矢には<エンチャント>が施されていた。
<エンチャント>は矢に属性を付与するスキルだが、それだけでなくスキルレベルによっては付与した属性に応じた副次的な効果を発生させる。
今回の<フリーズブラスト>であれば氷属性の付与に矢が着弾するまでに通った軌道下を凍らせると言うものだ。
矢は悠々と敵の上空を越えて、眷属蟻を凍らせていく。
魔王付近まで近づいたところで突如、地面より生えてきた岩の壁によって止められた。
「魔王が土系統の魔法を使用した!
注意しろ!」
一声かけると藤堂たちは蟻の氷像の中を走り抜けていく。
眷属蟻の密度が高かった場所なんかは氷の壁と化して、周囲の眷属蟻の集合を阻んだため藤堂たちはかなりの距離を前進できた。
「<短距離転移>、<抜山刀>!」
最後に残った魔王周囲の眷属蟻の集団に近づいたところで望月が<短距離転移>を使ってその集団の中央に移動した。
振り上げていた大剣を地面に突き刺してスキルを発動。
大剣の周囲の地面から鋭利になった岩の槍が数十本と突き出して周囲の眷属蟻を貫いていった。
そして、後から来た藤堂たちが合流。
目前には眷属蟻はほとんどおらず、魔王が目前に迫っていた。
藤堂たちは魔王から五十メートル手前で停止すると魔王攻略への体勢を整え始める。
「<聖域展開>!」
スキルを発動させた坂上を中心として白いドーム状の結界が展開。
全員が中に入るとともに回復魔法を使用し、スキルの効果によって魔法効果が全体に行き渡る。
「<相乗強化>、『逆転の光』、『開闢の大地』!」
「<焦点強化>、『英雄凱旋』!」
神谷の『逆転の光』で攻撃力と魔法効果の強化、『開闢の天地』で攻撃力と素早さの強化。
さらに、<相乗効果>で両魔法の効果が大きく増加し、坂上の聖域の効果でそのバフは全体に掛かる。
二条の『英雄凱旋』は攻撃力、防御力、魔法効果、素早さの強化に<焦点強化>によって全体バフが単体バフに変わるが効果が大幅に増加する。
しかし、こちらも聖域の効果で<焦点強化>による強化を残したまま全体バフに変わった。
藤堂が剣をスキルで作成して飛び出していくのを皮切りにして前衛メンバーは魔王に向かって飛び出し、後衛メンバーは聖域内で補助する態勢に入った。




